2015年04月06日 01:32
ご無沙汰してます。小六です。なんだかんだで生きてます。
さて、そんなわけでSS書きました。
久し振りに甘いはるちはが書いてみたかったんや…
以下、SSとなります。
それはきっと、本当にちょっとしたことの積み重ねだったんだと思う。
紅茶に入れる砂糖は角砂糖いくつ分なのか、だとか。本を本棚にしまう時の好み、だとか。
そういうことの積み重ねで、人は分かり合えなくなるらしい。残念な話だけど。
私の背中を向けて音楽に籠城する千早ちゃんを見ながら、そんなことを考えた。
あーあ、また怒らせちゃったかな。
気付かれないように自分の頭を小突いて、これからの身の振り様を思案する。
今までの経験からすると、千早ちゃんを音楽から引っぺがすのは、意外と時間がかかる。
素直に謝ればいいのかもしれないけれど、残念ながら何を謝ればいいのか、皆目見当がつきません。
千早ちゃんが気難しい人だっていうのは知ってるし、
私が人の敷居に無遠慮なところがあるってことも知っている。
だけど、だけどだ。何も言わないでその仕打ちはひどいよ。千早ちゃん。
花の芥をかきあつめ
「千早ちゃーん」
試しに声をかけてみたものの、予想通り千早ちゃんは無反応である。
まぁね、そんなことで返事をしてくれたら、この世はいつだって平和だ。
春はもうほころび始めたというのに、外は曇りがちで、うすら雨が気まぐれに窓をなじっていた。
つけっぱなしになったテレビからは、随分前の再放送が流れていて、聞き飽きた笑い声が沈黙に踊った。
この音楽バカ、不器用、気難し屋。
私は深くため息を吐いた。心当たりのない罪を見つけて機嫌を直すなんて、神や悪魔しかできるわけないわけで。
彼女が追いかける音符の一つや二つ、私の涙に書き換えることができたら、私の苦悩を分かってくれるだろうか。
テーブルに置かれた紅茶の匂いが鼻をくすぐった。上手に淹れられたのになぁ。
「紅茶、冷めちゃうよ?」
返事はない。相変わらず不愛想な背中。長い付き合いにも関わらず、未だに理解しがたい行動指針。
そんなに話したくないなら、いっそ嫌いだと言葉にしてくれた方が嬉しいのに。せっかくの休日がカチコチと時計に削られていく。
なすすべもなく、私はごろりと床に寝そべった。雨はいまだに止まなくて、窓から生ぬるい風が吹き込んでいた。
公園の桜、きっと見ごろなんだろうな。春だもん。
ふと、近くの公園に桜があったことを思い出した。
この雨じゃ、桜も花を散らしちゃうんだろうなぁ。せっかく咲いたのになぁ。もったいないなぁ。
くもり空の下の桜は雨に濡れて、今もはらはらと花を散らしているのだろう。誰にも見られることもなく。
そんな桜を想像すると、何故だか胸が苦しくなった。テレビのCMでは、千早ちゃんの新曲が流れていた。
紅茶も冷めてしまいそうな雰囲気なのに、素敵な歌だなぁって、千早ちゃんはさすがだなぁって、そう思った。
「ねぇ、千早ちゃん」
大好きだよ。くやしいけど。なんで不機嫌なのかさっぱり分からないけれど。
大好きだよ。千早ちゃんの気持ち、今でも全然分からないけれど。
大好きなんだよ。でも、いくら言葉を散らしても、ひとひらも届いていない気がするよ。
「千早、ちゃん」
千早ちゃんの背中が、微かに動いたような気がした。
どうせなら、もっと分かりやすく反応してよ。千早ちゃんの馬鹿、大好き、朴念仁、不器用。
春香さんはさびしいよ。ぎゅって抱き締めてよ。優しく頭を撫でてよ。子供みたいに甘えてよ。
不機嫌そうに眉をひそめるより、しょうがないわねって笑ってほしいんだよ。
「ちはやちゃあん」
伝えたい言葉がたくさんありすぎて、喉の奥が熱くなった。
我儘な女だなぁ、私って。瞳に映る彼女の背中はぼんやりと滲んで、ゆらゆらと揺れている。
これだから千早ちゃんにだって愛想尽かれちゃうんだよ。でも、嫌いになれないんだよ。どうすればいいんだろう。
湿った風が億劫そうに部屋を抜けていった。いつの間にか溜まっていた涙が、頬を流れた。
「…さすがにそれは卑怯だと思うわ、春香」
剣呑そうな顔をして、千早ちゃんがこちらの方を振り向いていた。
ああこれは都合のいい夢だ。春だし。紅茶はもうぬるくなっているし。千早ちゃんは不機嫌そうだし。
千早ちゃんは大きくため息を吐いてから、私のところに歩いてきて、腰を下ろした。
窓の外では雨がまだ降っていたけれど、陽の光が淡く透けて見えていた。
「あなたに泣かれると、どうしたらいいか分からないじゃない」
千早ちゃんは、遠慮がちに私の涙を拭った。
ふと目が合って、それが嬉しくて掌を重ねると、ふいと顔を逸らされる。
その横顔には微かに朱が差していて、指先で千早ちゃんの手の甲をなぞると、おずおずと指を絡めてきた。
顔は未だに釈然としていないみたいだけど、それが逆にかわいいと思ってしまうあたり、私は完全に骨抜きなのだろう。
「えへへ」
「おめでたい性格してるわね、本当に」
「そうかなぁ」
「……他に何か、欲しいものは?」
「……はい?」
機嫌を直してくれただけでも嬉しいのに、リクエスト募集とはいったいどういうことだろう?
青天の霹靂。いや、今日は曇りだから落ちてくる空もないけど。
ぽかんとしていると、「この間、あなたの誕生日だったでしょう?」と呆れがちにため息を吐かれた。
ああそういえばそんな日もあったねと。仕事やら何やらで、いつの間にか忘れてしまっていた。
「大好きな人の誕生日を、祝わなくてもいいよって言われた人の気持ち。あなた考えたことはあるかしら?」
「……あ」
ああそういえばそんなことも言ったなぁと。千早ちゃんに気を遣ったことが、逆に機嫌を損ねたって。
「へへへ」
「これでも私、あなたのことをとても大切に思っているのだけれど」
「そうだね、うん、そうだね」
千早ちゃんの不器用、朴念仁、大好き、馬鹿。
嬉しくて指先に唇を寄せると、「お願いだからそんなに煽らないで頂戴」と顔を真っ赤にして怒られた。
「千早ちゃんが欲しいですっていうリクエストっていうのは、どうかな?」
「……そんなもの、いつだって上げられるでしょう?」
「えー、そんなことないよ」
「そんなことあります」
「じゃあ、お花見行きたい」
「この雨じゃ、桜も台無しよ」
「雨に濡れた桜も、雨に濡れた春香さんも魅力的だと思いますよ?」
「中途半端な煽り文句は却下します」
千早ちゃんは否定ばっかりだね。そう笑って彼女を茶化すと、不意に唇を盗まれた。
ホント、こういうときだけ行動的だよね。いつの間にか伸ばされた指先が、物欲しげに首元をなぞる。
まぁ、千早ちゃんは言葉で伝えるのが苦手だから、こっちの方が分かりやすく伝えられるのかもしれない。
服の隙間に忍び込む掌は少し汗ばんでいて、それが嬉しくて心地よい。
「千早ちゃん、千早ちゃん」
彼女の耳元で囁くと、じれったそうに指の動きを止めた。
なんというか、私ばかりが好きと叫んでいるような気がして、不公平な気がしたのだ。
「千早ちゃんは、私のこと、好き?」
「嫌いなら、こんなことしないわ」
「そうじゃなくて」私は首を伸ばして彼女の頬にキスをした「もっとわかりやすく?」
本日一番長いため息が私の鼻をかすめる。
千早ちゃんはばつが悪そうにいったん私から視線を逸らした後、私の耳朶を食んでから呟いた。
……これでいいでしょう?
あー、これはそそられる表情だね。誰にも見せたくないね。やっぱり千早ちゃんはかわいいなぁ。
私は相当にやけていたのだろう。千早ちゃんは悪態をついてから、恥ずかしさをごまかすように私の耳をなじった。
少しずつ熱に浮かされていきながら見た空は、うっすらと桜色に染まっていた。
ねぇ、千早ちゃん。もうすぐ雨が止みそうだよ。
そうしたら次は、お花見に行こうね。
千早ちゃんの身体を強く抱きしめると、ふわりと甘い匂いがした。
<了>
さて、そんなわけでSS書きました。
久し振りに甘いはるちはが書いてみたかったんや…
以下、SSとなります。
それはきっと、本当にちょっとしたことの積み重ねだったんだと思う。
紅茶に入れる砂糖は角砂糖いくつ分なのか、だとか。本を本棚にしまう時の好み、だとか。
そういうことの積み重ねで、人は分かり合えなくなるらしい。残念な話だけど。
私の背中を向けて音楽に籠城する千早ちゃんを見ながら、そんなことを考えた。
あーあ、また怒らせちゃったかな。
気付かれないように自分の頭を小突いて、これからの身の振り様を思案する。
今までの経験からすると、千早ちゃんを音楽から引っぺがすのは、意外と時間がかかる。
素直に謝ればいいのかもしれないけれど、残念ながら何を謝ればいいのか、皆目見当がつきません。
千早ちゃんが気難しい人だっていうのは知ってるし、
私が人の敷居に無遠慮なところがあるってことも知っている。
だけど、だけどだ。何も言わないでその仕打ちはひどいよ。千早ちゃん。
花の芥をかきあつめ
「千早ちゃーん」
試しに声をかけてみたものの、予想通り千早ちゃんは無反応である。
まぁね、そんなことで返事をしてくれたら、この世はいつだって平和だ。
春はもうほころび始めたというのに、外は曇りがちで、うすら雨が気まぐれに窓をなじっていた。
つけっぱなしになったテレビからは、随分前の再放送が流れていて、聞き飽きた笑い声が沈黙に踊った。
この音楽バカ、不器用、気難し屋。
私は深くため息を吐いた。心当たりのない罪を見つけて機嫌を直すなんて、神や悪魔しかできるわけないわけで。
彼女が追いかける音符の一つや二つ、私の涙に書き換えることができたら、私の苦悩を分かってくれるだろうか。
テーブルに置かれた紅茶の匂いが鼻をくすぐった。上手に淹れられたのになぁ。
「紅茶、冷めちゃうよ?」
返事はない。相変わらず不愛想な背中。長い付き合いにも関わらず、未だに理解しがたい行動指針。
そんなに話したくないなら、いっそ嫌いだと言葉にしてくれた方が嬉しいのに。せっかくの休日がカチコチと時計に削られていく。
なすすべもなく、私はごろりと床に寝そべった。雨はいまだに止まなくて、窓から生ぬるい風が吹き込んでいた。
公園の桜、きっと見ごろなんだろうな。春だもん。
ふと、近くの公園に桜があったことを思い出した。
この雨じゃ、桜も花を散らしちゃうんだろうなぁ。せっかく咲いたのになぁ。もったいないなぁ。
くもり空の下の桜は雨に濡れて、今もはらはらと花を散らしているのだろう。誰にも見られることもなく。
そんな桜を想像すると、何故だか胸が苦しくなった。テレビのCMでは、千早ちゃんの新曲が流れていた。
紅茶も冷めてしまいそうな雰囲気なのに、素敵な歌だなぁって、千早ちゃんはさすがだなぁって、そう思った。
「ねぇ、千早ちゃん」
大好きだよ。くやしいけど。なんで不機嫌なのかさっぱり分からないけれど。
大好きだよ。千早ちゃんの気持ち、今でも全然分からないけれど。
大好きなんだよ。でも、いくら言葉を散らしても、ひとひらも届いていない気がするよ。
「千早、ちゃん」
千早ちゃんの背中が、微かに動いたような気がした。
どうせなら、もっと分かりやすく反応してよ。千早ちゃんの馬鹿、大好き、朴念仁、不器用。
春香さんはさびしいよ。ぎゅって抱き締めてよ。優しく頭を撫でてよ。子供みたいに甘えてよ。
不機嫌そうに眉をひそめるより、しょうがないわねって笑ってほしいんだよ。
「ちはやちゃあん」
伝えたい言葉がたくさんありすぎて、喉の奥が熱くなった。
我儘な女だなぁ、私って。瞳に映る彼女の背中はぼんやりと滲んで、ゆらゆらと揺れている。
これだから千早ちゃんにだって愛想尽かれちゃうんだよ。でも、嫌いになれないんだよ。どうすればいいんだろう。
湿った風が億劫そうに部屋を抜けていった。いつの間にか溜まっていた涙が、頬を流れた。
「…さすがにそれは卑怯だと思うわ、春香」
剣呑そうな顔をして、千早ちゃんがこちらの方を振り向いていた。
ああこれは都合のいい夢だ。春だし。紅茶はもうぬるくなっているし。千早ちゃんは不機嫌そうだし。
千早ちゃんは大きくため息を吐いてから、私のところに歩いてきて、腰を下ろした。
窓の外では雨がまだ降っていたけれど、陽の光が淡く透けて見えていた。
「あなたに泣かれると、どうしたらいいか分からないじゃない」
千早ちゃんは、遠慮がちに私の涙を拭った。
ふと目が合って、それが嬉しくて掌を重ねると、ふいと顔を逸らされる。
その横顔には微かに朱が差していて、指先で千早ちゃんの手の甲をなぞると、おずおずと指を絡めてきた。
顔は未だに釈然としていないみたいだけど、それが逆にかわいいと思ってしまうあたり、私は完全に骨抜きなのだろう。
「えへへ」
「おめでたい性格してるわね、本当に」
「そうかなぁ」
「……他に何か、欲しいものは?」
「……はい?」
機嫌を直してくれただけでも嬉しいのに、リクエスト募集とはいったいどういうことだろう?
青天の霹靂。いや、今日は曇りだから落ちてくる空もないけど。
ぽかんとしていると、「この間、あなたの誕生日だったでしょう?」と呆れがちにため息を吐かれた。
ああそういえばそんな日もあったねと。仕事やら何やらで、いつの間にか忘れてしまっていた。
「大好きな人の誕生日を、祝わなくてもいいよって言われた人の気持ち。あなた考えたことはあるかしら?」
「……あ」
ああそういえばそんなことも言ったなぁと。千早ちゃんに気を遣ったことが、逆に機嫌を損ねたって。
「へへへ」
「これでも私、あなたのことをとても大切に思っているのだけれど」
「そうだね、うん、そうだね」
千早ちゃんの不器用、朴念仁、大好き、馬鹿。
嬉しくて指先に唇を寄せると、「お願いだからそんなに煽らないで頂戴」と顔を真っ赤にして怒られた。
「千早ちゃんが欲しいですっていうリクエストっていうのは、どうかな?」
「……そんなもの、いつだって上げられるでしょう?」
「えー、そんなことないよ」
「そんなことあります」
「じゃあ、お花見行きたい」
「この雨じゃ、桜も台無しよ」
「雨に濡れた桜も、雨に濡れた春香さんも魅力的だと思いますよ?」
「中途半端な煽り文句は却下します」
千早ちゃんは否定ばっかりだね。そう笑って彼女を茶化すと、不意に唇を盗まれた。
ホント、こういうときだけ行動的だよね。いつの間にか伸ばされた指先が、物欲しげに首元をなぞる。
まぁ、千早ちゃんは言葉で伝えるのが苦手だから、こっちの方が分かりやすく伝えられるのかもしれない。
服の隙間に忍び込む掌は少し汗ばんでいて、それが嬉しくて心地よい。
「千早ちゃん、千早ちゃん」
彼女の耳元で囁くと、じれったそうに指の動きを止めた。
なんというか、私ばかりが好きと叫んでいるような気がして、不公平な気がしたのだ。
「千早ちゃんは、私のこと、好き?」
「嫌いなら、こんなことしないわ」
「そうじゃなくて」私は首を伸ばして彼女の頬にキスをした「もっとわかりやすく?」
本日一番長いため息が私の鼻をかすめる。
千早ちゃんはばつが悪そうにいったん私から視線を逸らした後、私の耳朶を食んでから呟いた。
……これでいいでしょう?
あー、これはそそられる表情だね。誰にも見せたくないね。やっぱり千早ちゃんはかわいいなぁ。
私は相当にやけていたのだろう。千早ちゃんは悪態をついてから、恥ずかしさをごまかすように私の耳をなじった。
少しずつ熱に浮かされていきながら見た空は、うっすらと桜色に染まっていた。
ねぇ、千早ちゃん。もうすぐ雨が止みそうだよ。
そうしたら次は、お花見に行こうね。
千早ちゃんの身体を強く抱きしめると、ふわりと甘い匂いがした。
<了>
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