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白い箱庭 ver.RED

2009年10月16日 06:02

春香さん視点です。

以下、SSとなります。
―――――――――――――――――――――――――――――



むかしむかし おうたがすきな おんなのこが いました
おんなのこは おうたがじょうずな おんなのこと であいました
ふたりは すぐに なかよしに なりました
あるひ おうたがじょうずな おんなのこは そらに とんでしまいました
おうたがすきな おんなのこは そらにとぶことが できませんでした
そらにとべない おんなのこは おおごえで なきました
どうしていっしょにいられないの? 
おんなのこは そらとぶことりに たずねました。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆






「おつかれさまでしたー」

私はスタッフと挨拶を交わし、千早ちゃんが待つ楽屋に向かった。
千早ちゃんとユニットを組んでちょうど2年。色んなことがありました。
泣いたり、笑ったり、色んな思い出が詰まった2年間です。

 そういえば、あのときはこの楽屋であんなことがあったっけ。
 あの時の千早ちゃん、かわいかったなぁ

ふいに転がり込んできた思い出を見つけて、私は少し笑ってしまった。
私はその思い出を、もう一度記憶の引き出しにしまい込む。
そうこうしているうちに、楽屋前にたどり着く。私はドアノブに手をかける。


その瞬間だ。



楽屋の奥から花瓶が割れるけたたましい音と、


「海外ソロデビュー…考えておいてくれよ」


妙に落ち着いたプロデューサーの声。





 周りの音が、すっと静まりかえったたような気がした。


実は気付いていました。だって、千早ちゃんの一番身近にいるのは私だから。
最近千早ちゃんと一緒の仕事が減っていること。
千早ちゃんが仕事の空き時間に英語を勉強することが多くなったこと。
千早ちゃんが、私に少しよそよそしくなったこと。

気付いていたけど、見たくなくて。私は見ないふりをしてきた。
だけどそういうものほど、一番見たくないときに襲いかかってくるもので。


あぁ、ある程度の心の準備はしていたけれど。
千早ちゃんが私から離れて行ってしまうという現実を見せつけられると、こうも動揺してしまうのか。

血の気が失せてしまっているのに、心臓だけがバクバク音をならしている。


芸能活動を続けて2年、私もそれなりに成長したつもりです。
世の中には、自分じゃどうしようもないことがたくさんあるんだってこと。
そういうことは、黙って受け入れるしかないってこと。




 だけど。だけど。


   諦めろ。
                   嫌だ。千早ちゃんと離れたくなんてないよ。
   それがお前の限界だ。
                   限界なんて、自分で決めるものでしょう?
   千早ちゃんの将来をダメにするよ。
                   私の将来はダメになってもいいの?

   千早ちゃんのこと、大好きなんでしょ?



どこかの番組のスタッフさんが、忙しそうに目の前を駆け抜けていった。


 この世界にはたくさん人がいて

 私より千早ちゃんにぴったりな女の子なんていっぱいいて

 あぁそうだ。千早ちゃんの隣で笑っている女の子が、私である必要はない。



目の前には多くの人が行きかっているのに、私一人だけがぽつんと暗い部屋に放り出されたようなな感覚を覚えた。




ふいにドアの開く音。
その音の方を向くと、楽屋から出てきたプロデューサーさんと目が逢った。


「聞いていたのか」
「・・・」




「…お前らの好きにしたらいいさ」

そう言って、プロデューサーさんは私の元から去った。メントールのタバコの匂い。プロデューサーさんの好きなタバコだ。






「好きにしたらって…」


私が出す結論なんて、分かっているはずなのに。 ずるい。
私が好きになる人はみんなずるかった。だけど、優しかった。責められるはずなんてなかった。

そして、私が好きになる人はみんな私のもとから去ってしまうのだ。



「どうしてなんだろうね」

深いため息と一緒にこぼれた呟きは、誰にも気づかれることなく、溶けて消えた。

私はしばらく壁に背を預けた。
力なく天井を見上げると、まぶしく光る蛍光灯で目がくらみそうになった。
涙は流れなかった。その涙は一年前に嫌というほど流し尽くしたから。


蛍光灯の光は、さまざまな色をにじませて、じわりと輝いていた。







◆ ◆ ◆ ◆ ◆









扉を開けて目に入ったのは、いびつに砕け散った花瓶の破片。タバコの匂いがやけに鼻につく。
花瓶に飾られていたスターチスは無残に散って、花びらが床にぶちまけられた花瓶の水たまりの上に浮かんでいた。
そして、その先に千早ちゃんがぼんやりと佇んでいた。

私が楽屋に入ってきたことにようやく気付いた千早ちゃんは、困惑した表情で私の方へ視線を遣った。



 一瞬。千早ちゃんと目が逢って、
   
   そして、視線を逸らされた。




                  うん。それだけで十分伝わったよ。



私は千早ちゃんに向けて微笑む。
大きな声で叫び出したい激情を殺して、出来るだけ綺麗に笑ったつもりだ。
ありのままの自分を主張することができるほど、私はもう子供にはなれないから。


 かみさま かみさま こたえがあるのなら おしえてください
 いつから こうなって しまったのでしょうか
 どうして こうなって しまったのでしょうか


静かにと千早ちゃんの隣に歩み寄る。ぴちゃりと靴が水たまりを踏みしめる音が鳴る。
彼女の掌が微かに震えていたから、私は手を優しく握った。いつもより冷たい指先。


「…はるか」
うつろな瞳で千早ちゃんは私を見て、抑揚のない口調で私の名前を呟いた。
「うん」
私は千早ちゃんに唇を寄せる。私は千早ちゃんの額にキスをして、千早ちゃんは私のほほにキスをする。


「はるか」
「うん」

再び呼ばれる名前。何度も聞いた彼女の声。ガラスのように透き通った千早ちゃんの声。
限りなく透明に近い青色を思わせるその声からは、いつだって千早ちゃんの心が映り込んでいて。
その声を聞けば気持ちが分かってしまう。嘘がつけない正直な人。


 そうだ。私はそんな彼女に一目惚れをしたのだ。


だから分かる。彼女の気持ちが。分かりたくないのに分かってしまう。






 彼女の声の中。

その片隅には、見捨てられた子犬のように怯える少女がいた。
私はその女の子をゆっくりと抱き締める。


大丈夫。あなたを傷つけたりなんかしないから。
だから、笑って。 可愛い顔が台無しだよ?

少女はうつむいて見えなかった顔を上げて、私を見つめる。


 おねえちゃんは、わたしのそばからいなくならないの?
 うん。いなくならないよ。ずーっと、ずーっと、いっしょだよ。
 ほんとにほんと?
 うん。ほんとにほんと。



 …よかった。


少女は笑う。とても純粋な笑顔で。
それがとても嬉しくて、私もつられて笑ってしまった。






「ねぇ、千早ちゃん」
しだいに震えが収まった彼女の掌を強く握って、私は笑いかける。


「私達、別れよう」


千早ちゃんの瞳の光がすっと失われていくように感じられた。






 ずーっと、ずーっと、いっしょだよ。
 やくそく、だからね?

少女は私のジャケットの袖をつかんで、必死な顔で訴えかける。

 うん。やくそく。

私は少女の頭を撫でて、その子のほほにキスをした。
だからね、おねがいがあるの。ひとつだけ、ひとつだけだから。







「いやよ…なんで…どうして…」
千早ちゃんの問いかけには答えるつもりはなく、私は千早ちゃんにキスをする。
ざらりとした、だけどやわらかい舌の感触に、心の奥が震えた。
千早ちゃんの舌からミントの匂いは、まだ少女の純粋さを思い起こさせて、私の鼻腔を抜ける。

ゆっくりと顔を離す。鈍く光る唾液と、彼女の目もとの涙が、つぅっと曲線を描いて流れ落ちる。


「千早ちゃんは、きっと私がいなくても、大丈夫だから」

私は千早ちゃんの手を取り、そのまま彼女の手を自分の首元へ寄せる。

「だけど、私は。私は千早ちゃんがいないと、ダメになっちゃうから」



だから、おねがい。

「私を殺して」


私の首元に、あなたの指で首輪をつけて。
私が一生あなたから離れられなくなるように。
あなたの心に私という存在を刻みつけるために。
その手で、私に赤い首輪をつけて。


「いやよ!どうしてそんなことしなくちゃいけないの!」
声を荒げて千早ちゃんは抵抗する。それでも私は首元に近づけた彼女の手を離そうとはしなかった。

「千早ちゃんがイヤでも、私がそうしたいんだよ」
「そんなの春香のワガママじゃない!」
「いつだって私はワガママだよ」

沈んだ、だけど力のこもった口調で私が千早ちゃんに話しかけると、千早ちゃんはぐっと息をのんだ。


自然と嘘がつけるようになったのはいつからだろう?
自分の心に嘘をつき始めたのはいつからだろう?
とても最近のことのようにも、とても昔のことのようにも思える。
だけど、今となっては、どちらでもいいのかもしれない。


 終わりは既に来てしまったのだから。


しばらくの沈黙の後、千早ちゃんは私の方をまっすぐ見つめた。
その視線を逸らすことなく、しっかりと私を見つめてくれていた。


 そんなに見つめられると、照れちゃうな。なんて。










 喉元に圧迫感を覚える。視界に白い霧が混ざり込む。








白い霧の先には、千早ちゃんと、さっきの女の子がいて、私に向かって手を振ってくれている。


 おねーちゃんのうそつき。ずーっといっしょっていったじゃない。
 あはは、ごめん。ちょっとよりみちしてたんだ。
 もうよりみちしない?
 うん。よりみちしないよ。


 はるか。
親しい人の声が隣から聞こえて、そちらを向くと、彼女は少し苦笑いしていた。

 よりみちもいいけれど、ちこくしないようにね。
 はーい。
 それと、そのこがわたしたちのうた、きいてみたいんだって。
 そうなの?

私の問い掛けに、その少女はニシシと子供っぽく笑った。

 だって、おうたのしごとしてるんでしょ?
 いっぱいうたったからなぁ…なにがいい?
 たのしいうたがいい。
 わかった。じゃあたのしいうたをうたおう。ちはやちゃんも、ね?

 そう言うと、千早ちゃんはやれやれと呆れた顔をして、ゆっくりと笑顔で頷いた。







白い霧の先には千早ちゃんの寂しい顔がうっすらと見える。

ねぇ、千早ちゃん。そんな悲しい顔しないでよ。


いっしょにうたおう?
たのしいうたを、ずーっと、ずーっと、いっしょに。







◆ ◆ ◆ ◆ ◆







そらとぶことりは おんなのこにこたえました
それなら そのおんなのこにくびわをつけてしまえばいい
ないていたおんなのこは そのこたえをきいて よろこびました
それなら ずっと いっしょだね








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