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はるちはSS書きました(続き)

2012年05月29日 00:07

お久し振りです。小六です。
以前書いたはるちはSSの続きを書いてました。まだ続きます。
最近は自分のために書いているという気もしないこの頃、まぁそんな現況です。

以下、SSとなります。

 店には客がいなかった。
 来た時間帯がよかったのだろうか。私達は待つこともなく席に着くことができた。
 窓のそばのボックス席。私と千早ちゃんが一緒に仕事をしていた頃、よく使っていた場所だ。

 カウンターには昔と同じテレビが置かれていた。私は驚いた。人間ってこんな些細なことをよく覚えていられるんだなって。
 私はテレビが見える特等席に座って、千早ちゃんがその向かいに座って。
 二年半という年月が経っているのに、昔のことが、昔しゃべっていた私達の声のトーンが、鮮やかに思い出せそうだった。

 懐かしいな。涙が出てくるほどじゃなかったけれど、心の中がじんわりと湿っていくような気がした。
 私はメニューを手にとって、昔と同じ調子で(同じなのだろうか?)注文をした。

「オレンジジュース?」
「なんだか飲みたくなっちゃって」
「相変わらず、子供っぽいものが好きなのね」
「そんなことないよ。コーヒーだって飲めるようになったもん」
「アメリカンに、ミルクと砂糖をたっぷり入れて?」

 痛いところを突く。言葉を詰まらせる私を見て、千早ちゃんは口元を緩めた。
 言い返すこともできない私は、甘酸っぱい溜飲をごくりと飲み込んだ。
 この世の中には2種類の人間がいる。コーヒーを好む人間と、そうでない人間だ。

「人間が甘いものを食べると、セロトニンという快楽物質が分泌されてですね」

 似非科学だって理由になるならそれでいい。その苦みがいいだとか、大人の味がどうだとか。未だに理解の外である。
 いわずもがな、私は苦手な部類の人間である(コーヒーは苦いものだからね!)。
 プロデューサーさんがおいしそうに飲むものだから、何度か試しに飲んでみたけれど、やっぱりおいしいとは思えなかった。

「要するに、なんでわざわざにがーいものを飲もうとするんだろうねってこと」

 そうね、とくすぐったそうに千早ちゃんは笑う。

「香りが好きなのよ」 窓の外を眺めながら千早ちゃんは言った。「あと、ちょっとした眠気覚まし」
「千早ちゃんが居眠りするなんて、想像できないかも」
「私だって眠たいときくらいあるわよ」 カップに形のいい唇を寄せて 「そんなときは何も口に入らないけど」
「じゃあ、意味ないよね?」
「そうかもしれないわね」

 ラジオ代わりに映っていたテレビには、話題の芸能人が何かを話していた。
 千早ちゃんは物珍しそうな素振りを見せるでもなく(もとからあまり興味がないっていうのは知ってるけど)、
 時折何かを思い出したように、ぽつりぽつりと私に尋ねた。
 事務所のみんなのこととか、卒業式はどうだったかとか、最近楽しいことがあったとか、そういうありきたりなこと。

「春香と話していると、何だか落ち着くわ」

 千早ちゃんはコーヒーを飲んだ後、ゆっくりと息をついた。私は不思議で眉をひそめた。
 だって、本当にとりとめもない会話だったから。それこそ、普通ならつまらないって感じるくらいの内容だったから。
 考えていることが顔に出てしまっていたのだろうか、千早ちゃんは愛おしそうに私をみつめる。
 
「こうして春香と話していると、私は私だったんだなって。実感できるのよ」

 その眼差しはとても遠かった。まるで、私の後ろに誰かがいて、その人と話をしているような、そんな錯覚がした。
 昔の私なら、今の千早ちゃんに何て言ったんだろうな。そんな問い掛けを自分にしてみたけれど、答えは出なかった。
 嫉妬といえるにはもう関係は深くなくて、淋しさというにも距離は遠くなくて。上手く立ち回れない。 

 私と千早ちゃんはそれからもふわふわとした世間話をした。
 少し息苦しさを感じたけれど、話の締めどころが見つからない。
 話したいことはたくさんあるはずなのに、伝えたいことはちっとも話にできない。

 千早ちゃん、千早ちゃん。私は、

 バラエティ番組が終わり、テレビはワイドショーに切り替わる。
 『如月千早、二年半ぶりの来日』と銘打ったフリップが、さも大事件といった様子で紹介され、
 レポーター達が今か今かと興奮した様子で実況中継をしていた。

「千早ちゃん、お呼びですよ?」
「アイドルの如月千早はここにはいませんが?」

 私達は笑った。一筋縄ではからかえなくなっちゃったなぁ。だって二年半よ、私だって変わるわ。
 グラスの中の氷が、からんと小さな音を鳴らして崩れた。

 昔は癖になっていた、夢の話は結局することがなかった。
 理由もなんとなく分かっていた。だけど、それを言葉にすることはできなかった。
 千早ちゃんも同じ気持ちだったのだろうか。ほどよい感じに話が温もると、注意を窓の外に向けてはぐらかされた。
 そしてまた新しい話題を作っては、ぺしゃんと潰して、また作って。その繰り返し。

「ねぇ、春香」 昔と変わらない声色で、千早ちゃんは私の名前を呼んだ。
「なに、千早ちゃん」 私もまた昔と同じような笑顔で、千早ちゃんの言葉に返事をする。

「今夜、空いてるかしら?」

 千早ちゃんの言葉に、私はそっと頷いた。




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