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はるちはSS書きました(続きの終わり)

2012年06月10日 05:18

お久し振りです。小六です。
によって(ry。 これでおしまいです。
以下、SSとなります。



 夜更け前の街並みは、静けさが雑然と転がっていた。
 寝返りを打つブルーシート、まどろむアスファルト。月は置いてけぼりをくらって、ぽつんと空に浮かんでいる。
 午前4時。ビルの向こうで車の走り抜ける音が聞こえた。私と千早ちゃんは舗道を歩く。

 ―― なんていう曲なの?

 シャワーを浴びて部屋に戻ると、千早ちゃんがぼんやりとテレビを見つめていた。
 テレビにはどこかの風景が映っていて、夜を惜しむようにBGMが流れていた。
 私の気配に気付いた千早ちゃんは、自嘲気味に微笑む。濡れた髪を拭きながら、千早ちゃんの隣に座った。
 千早ちゃんは赤い痕のついた首筋をなぞりながら、流れている音楽の名前を教えてくれた。
 いわく、昔の映画の音楽なのだそうだ。詳しくは知らないけれど、と内容をはぐらかされて。

 ―― でも、車窓から見えるひまわり畑が、とても鮮やかだったのは覚えているわ。
 
 バスローブの裾に手を差し込まれる。ついばむようにキスをされ、腰のあたりを撫で回された。
 先程の余熱に視界がかすむ。ベッドの隣のゴミ箱には、くしゃくしゃのティッシュと銀色の包装紙が捨てられていた。
 破れた銀紙の中身を私は知っていた。0.25ミリグラムの青い安らぎ。まだ、眠れないんだね。

 ふと、昔のことを思い出す。朝陽で白む部屋の中、すがるように情事の痕を尋ねる千早ちゃんの姿が痛々しかった。
 手を取りながら、恥ずかしい記憶を私は千早ちゃんに伝えた。何回も、何回も。
 千早ちゃんは私の言葉に呆然と頷いていた。ごめんなさい、ごめんなさいと、彼女の泣き顔に浮かぶのは、絶望だった。

 そのうち私が堪えられなくなった。見ていられなかった。
 いわゆる愛といわれる何かが、こんなちっぽけな気休めに押し流されるなんて、信じたくなかった。
 だって、だって、そうでしょう? 私達はそれを確かめ合いたくて、肌を重ねたんでしょう?

 なめらかな肩に顔を埋めてそう伝えると、「ごめんなさい」と強く抱きしめられた。
 堂々巡りの煩悶の末に辿りついたのは、0.25ミリグラムよりも軽い恋だった。

「収録が終わったら、またアメリカに戻るの?」
「ええ。まだ仕事を残しているから」

 コンビニの駐車場には、白いポリ袋と先折れした煙草の吸殻がまばらに散らかっていた。
 何とも言い難い甘い腐臭がゆるい風に乗って 鼻をついた。バイクの音が、砂埃を立てて駆け抜ける。
 通り過ぎる人達は誰も彼もが周りの人達に無関心で、どこか痴れた感じでふらふらと彷徨っている。
 車の通らない交差点。横断歩道の赤信号にたまに立ち止まっては、どうでもいい考えに耽る。

「仕事熱心なのはいいけど、無理しちゃ駄目だよ」
「大丈夫。適度に休みは取るつもりだから」

 痩せた頬笑みを返されて、「そっか」と私は頷いた。目の下についた青黒いくまを、いたわることはできなかった。
 信号が青に変わったので、私達は歩き出した。せめて街が起き出すまで、一緒に歩いていたかった。
 二駅くらい歩いた頃、沈黙にも飽きてしまった私は鼻歌を歌った。ホテルで聞いたあの曲が、何故か頭から離れなかった。

「まだ暗いわね。でも、私達にはこの方がいい」
「……千早ちゃん?」
「ごめんなさい。忘れて」

 錆びたシャッターの上に、二人分の影が映っていた。だから歌わないでと寄り添う影は、睦まじい恋人のように見えた。
 歩き続けているうちに、靴ずれで足が痛くなった。足を地につける度に、じくじくと鈍い痛みが強くなった。
 千早ちゃんにさよならを言うまでは歩こうと我慢していたけれど、やせ我慢なんてすぐにバレてしまった。
 
「このあたりでいいわ。後はどうとでもなるから」

 地下鉄の入り口でそう切り出された。私は未練がましく顔を横に振った。
 他の場所だったら納得したのかもしれない。だけどこの駅は、あまりにも思い出が多すぎた。

「千早ちゃん、覚えてる?」
「なにを?」
「ここ、私が千早ちゃんの家に泊まりに行ったとき、帰りにいつも使ってた駅だよ」

 千早ちゃんの表情が凍りつく。そして千早ちゃんはゆっくりと息を吐き、「そうだったわね」と目を細めた。
 結局私達は駅のホームで別れることになった。二人ぽつんとベンチに座りながら、始発電車が来るのを待った。

「私ね、千早ちゃんに会ったら真っ先に言いたいことがあったんだ」
「よかったら、教えてくれるかしら?」
「おかえり、って。また会えてうれしい、って」
「……そう」

「でもね、言えなかった」 私は祈るように両手を重ねた。「それは嘘だって、分かっちゃったから」
「そうね」 千早ちゃんの瞳は、どこか遠くを見つめていた。「ただいま、なんて言えないわ」 

 不意に、千早ちゃんと目が合った。
 千早ちゃん、千早ちゃん、私は。
 私は千早ちゃんの首に腕を回して、強引に距離を縮めた。

「今でも大好きなの。離れたくないよ」
「……春香、私は」

 千早ちゃんは私の背中に手を回して、唇を近付けた。
 それだけで十分だった。千早ちゃんの気持ちが吐息から伝わってくるような気がして、じわりと視界がにじんだ。
 また会えるよね? そんな気持ちを舌先に乗せようとした時だった。

 暗いトンネルの奥から、警笛が鳴り響いた。

 夢から覚めたように、私達はお互いの身体を離した。反射的なものだったし、特に理由なんてなかった。
 だけど、それを聞いた瞬間、千早ちゃんとの間に取り返しのつかないような亀裂が走ったような気がした。
 ほどなくして始発電車が到着した。ありがとう、と千早ちゃんは私の頬を撫でて、電車に乗り込んだ。

 がたん、がたんと小気味よいリズムを立てて、地下鉄は次の駅に向かっていく。
 電車の尾灯が暗闇に消えていくのを見取った後、私はふらふらと駅の改札に向かった。

 どうか、千早ちゃんの乗った地下鉄の終点が、袋小路でありませんように。

 改札を抜けた地下鉄の入り口は、すっかり明るくなっていた。
 



 < 『朝焼けは化石になって』 了 >



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