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ゆきまこSS書きました

2012年09月20日 07:14

お久し振りです。小六です。
そんなわけで、ゆきまこSS書きました。
以下、SSとなります。




 事務所共用の自転車を走らせること十数分。ボクはビル街の公園で人探しをしていた。
 雪歩がいなくなったんだ。応答のない携帯をうらめしく睨むプロデューサーの顔は、ひどく余裕のないものだった。

「念願のソロデビューなんだ。これが当たれば、雪歩はもっと輝けるんだ」

 なのにどうして。プロデューサーは組んだ両手を額に当てて、神様に祈るように苦悶の息を吐いた。

 プロデューサーの言葉を聞いて、なんでだろう、雪歩はきっとここにいる、そんな確信めいたものが脳裏によぎった。
 雪歩はきっとここにいる。ボクを引き留める言葉なんて聞いてられなくて、まっすぐにその場所に向かった。

 午後のオフィス街はどこか気が抜けていて、穏やかになった日差しの下、スーツ姿の人達がベンチに寝そべっている。
 人通りの少ない公園の、駅から反対に進んだところ。誰にも気にされずに、一人でいられるあの場所。

「そこ、座ってもいいかな?」

 ボクの影に気付いた雪歩は、びくっと身体を震わせて顔を上げる。遠くの空でヘリのエンジン音が聞こえた。




    それはきっと天気雨

   


 雪歩と一緒に仕事をし始めて、もうどれくらい経っただろう。初めての仕事は、ラジオだったと思う。
 ラジオに出る前日、今日みたいに雪歩がどこかに行っちゃって、プロデューサーと一緒に探し回ったっけ。
 日も暮れかけそうな頃に雪歩の姿を見つけて、雪歩の不安に中てられて、ボクまで不安になっちゃってさ。
 この子と一緒にやっていけるのかな、とか。今となったら笑い話になっちゃうけど、そんなことを考えていた。

 あたふたと取り繕う雪歩の隣に座って、ボクはコンビニで買ったサンドイッチを一つ、雪歩に差し出した。
 お昼、まだ食べてないでしょ?そう言うと、雪歩は顔を少し赤くして頷いた。
 ボクと雪歩は冷えてパサパサになったパンを頬張りながら、ビルに映る雲をぼんやりと眺めた。 

「駅前のパン屋で何か買っていこうって思ってたんだけど、なくなってたんだ」
「ああ。うん、そうだね」

 ボクの言葉に生返事をして、雪歩はペットボトルのお茶に口をつけた。
 別に遠慮なんてしなくていいのに。ボクも買ってきたジュースを飲んで、乾いた口を潤す。

 雪歩がまた一歩、アイドルとして進んでいくことはボクにとっては純粋に嬉しいことで、喜ぶべきことだ。
 今までずっと一緒に活動していたから、雪歩がどれだけ頑張ってきたか、それくらいは知っているつもりだ。
 だから、雪歩はもっと自分に自信を持つべきだと思う。それだけの努力が報われるべきだと、ボクは思う。
 それがたとえ、ボクより先に進んでしまうことであったとしてもだ。

「真ちゃん」
「うん?」
「私、我儘かな」
「そうだね」ボクは苦笑する「でも、雪歩の我儘、嫌いじゃないよ」 

 雪歩の我儘はいつだって、雪歩なりに一生懸命考えてそうなったものだから。
 そう答えると、「そうかな」と雪歩は瞳を伏せて笑った。そうだよ。ボクはしっかりと首肯する。
 噴水の水はさらさらと太陽の光を受けて輝いていて、鳩がうとうとと身体を丸めて居眠りしていた。
 向かいのベンチに寝そべるスーツ姿の男は煙草の煙を空に吹きかけて、たなびく様子に目を細めている。

「早く帰れって、言わないんだね」
「だってまだ時間あるし」
「もう後2時間くらいだよ」
「まだ2時間もあるじゃないか」

 そうだね。雪歩は小さく笑った。幸い急な用事はなかったので、大きな欠伸を一つして、ボクはベンチに寝転がった。
 ボクと雪歩は高層ビルの隙間にすっぽりと収まって、たまに思い出したように無意味な会話をした。
 平和だねーとか、空が青いねーとか、そういえば新しいお店が出来たよねーとか、そんな話。本当にどうでもいい話。
 話すこと返すことが本当にどうでもよくって、くだらなくって。あまりのくだらなさに目に涙なんか浮かんじゃって。
 ああもうホント、平和だなぁ。退屈さに眠気が忍んできた頃、雪歩がぽつりと言った。

「ありがとう、真ちゃん」
「ボクは何もしてないよ。雪歩が決めただけ」

 時計を見ると、自転車で向かうには丁度いいくらいの時間だった。
 ボクは起き上がって肩を回して、硬くなった身体を軽くほぐす。既に雪歩は立ち上がって、スカートについた埃を払っていた。
 雪歩は噴水の水面をしばらく眺めた後、「じゃあ、行ってくるね」と満面の笑顔で振り返った。
 少し潤んだ雪歩の瞳はとてもきれいで、なんていうのかな、とても雪歩らしいなって思った。

「ねぇ、雪歩」
「なに、真ちゃん」
「後ろ、乗っていってよ」ボクは自転車の鍵を外して、雪歩の荷物をカゴに入れた。
「私、重いよ?」
「ボクを誰だと思ってるの?」ボクは自転車に乗って、雪歩に手を伸ばした「765プロの俊足、菊地真だよ?」

 こうなったら最後まで見送らなきゃ、気が済まない。差し出された雪歩の手をぐいと引っ張って、荷台に座らせた。
 大きな深呼吸を一つして、ボクは自転車を走らせる。いつもより少し重めのペダルの感覚に、胸の奥が少し軋んだ。
 ゆっくり行っても間に合う時間だったけれど、ボクは全力で自転車を走らせた。
 赤信号で息を整えてもよかったけれど、信号のない裏道を全力で駆け抜けた。
 
「雪歩の芯が強いところ、大好きだ!」
「…うん!」

 一緒に仕事をし始めた頃、どうすればいいか分からなくて、不安とかくれんぼをして覚えた裏道。
 天気雨に降られたときに雨宿りに使った小さなたばこ屋は、今では年中無休のコンビニになっていた。
 切り株みたいに雨ざらしになっていた空き地には、建築途中の白いビニールがひっかけられていた。
 だけど、アスファルトの道はしっかりと残っていた。ボクは記憶と感覚を頼りに全力で走り抜ける。

「雪歩の優しいところ、大好きだ!」
「…うん、…うん!」

 後ろなんて見ない。後ろを振り返れば最後、何かに捕まってしまいそうな気がした。
 だから全力で走った。もし止まってしまっても、勢いだけで前に進んでいけるように。
 建物の隙間から見える空は白んで、うっすらと秋色に染まり始めていた。

「すぐに追いつくから!」慣れない二人乗りに、少し息が上がる「そしたらまた、一緒に仕事しよう!」

 雪歩が先に行ってしまうのはとても寂しいけれど。だけど、そこで立ち止まる雪歩はボクが好きな雪歩じゃない。
 雪歩は優しくて、臆病だけど芯が強くて、かわいくて、いつだってボクの憧れなんだから。
 ねぇ雪歩。またもし逃げたくなったら、またボクが見つけてあげる。
 不安なんて、天気雨だ。ちょっとすれば、すぐにいなくなるから。きっとそういうものだって、ボクは信じる。

「だから大丈夫!」オーディション会場のビルが近付いてくる「大丈夫なものは大丈夫なんだって!!」
「うん!」雪歩はぎゅっとボクの身体を抱きしめた「真ちゃんが言うなら、きっと大丈夫だよね!」
 
 それから先はもう訳が分からなくて、ボクはがむしゃらに自転車を走らせた。
 もっと言いたい言葉はあったはずなのに、頭の中が騒がしすぎて、上手く言葉にできなかった。
 目的のビルに到着する頃にはすっかり汗だくで、これは筋肉痛コース確定だなぁと最近の運動不足を軽く悔やんだ。
 自転車から降りた雪歩は、「真ちゃんは本当にまっすぐだね」と笑って、ビルを見上げた。

「じゃあ、行ってくるね」
「うん。行ってらっしゃい」

 自動ドアの向こうに消える雪歩の姿を見送って、ボクは大きく息を吐いた。
 息が落ち着くまでビルに映った太陽に目を細めていると、不意に涙が零れた。
 ボク、泣いてるんだ。そう自覚してからはもうどうしようもなかった。
 置いてけぼりにしていった気持ちやら思い出やら感覚やらが、一気にボクに追い付いて、どっと胸から溢れ出す。

 ああもう、ホント、全速力で走ってきてよかった。
 ちくしょう、この意気地なし。乱暴に涙を拭うと、世界がぼんやりと虹色に染まった。




 <了> 



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