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ヘンテコSS書きました

2012年11月19日 01:48

お久し振りです。小六です。
前略、謎の電波が降ってきたので。
以下、軽いSSとなります。はるちはこんにゃく。



突然のことだけれど、春香が蒟蒻になった。

「ほら、蒟蒻って、どこにでも売ってるでしょ?」

言葉通りどこにでも売っているような、何の変哲もないパッケージに身を包んだ蒟蒻が、
見知った友人の声で自分に語るとういのは、全くもって不可思議なものである。
タイムセールで安売りされていた弁当を冷蔵庫に収めながら、蒟蒻の置き場を考える。

「冷蔵庫に入れたらいいのかしら」

尋ねると、蒟蒻は不満そうに袋をだぶつかせた。
曰く、そんな暗いところに閉じ込めるだなんて、冷たいにも程があるとのことだ。
だったらそのまま置いておけばいいのかと聞き返すと、それは腐るからやめてほしいと泣きつかれた。

「手間がかかる蒟蒻ね」
「手間がかかる子ほど、可愛いんだって」
「じゃあ、冷蔵庫に入れるわね」

袋の端をつまみ上げて、そこで頭を冷やしてなさいと冷蔵庫に放り込んだ。
この冷血!朴念仁!などと言われようのない悲鳴が扉の向こうから聞こえて、私はため息を吐いた。

翌日、コンビニで立ち読みをしていると、高槻さんに声をかけられた。

「千早さんが立ち読みなんて、珍しいです」
「前に立ち寄ったときに、そんな本があったと思って」

そうですか。物珍しそうな顔をして、高槻さんは私の読んでいる雑誌を覗き込んだ。

「お手軽ヘルシー料理、ですかー。なんだかとってもオシャレな感じですね!」
「それは少し違うと思うのだけれど」

横文字がつけば料理はオシャレになるのだろうか。
私の疑問は置いてけぼりで、高槻さんは難しそうな顔をして本の中身を吟味する。
雑誌に書かれた横文字を途切れがちに呟きながら、高槻さんは頭を抱えていた。
私が見ているものは、そんなに難しいものなのだろうか。見慣れぬ横文字を眺めて、私も眉を顰めた。

「保存が利くような調理法って、難しいわね」
「塩漬けとか、冷凍とかがオススメですよ」
「そう。ありがとう、高槻さん」
「えへへー。千早さんの料理、一度食べてみたいですー!」

何の役に立つのかは皆目見当がつかないが、とりあえず本を買って、私は高槻さんと別れた。
別れ際に、野菜の保存なら漬物だと言われたので、スーパーで浅漬けのもとを買った。


 ※ ※ ※


帰宅して冷蔵庫を開けると、待ちわびたとばかりに春香が私に尋ねてきた。

「おでんにする?煮物にする?それとも、さ・し・み?」
「いえ、浅漬けにしようと思って」

冷蔵庫から取り出すと、千早ちゃんマニアックだねと呆れた声が返ってきた。
せっかくなんだから大切に食べたいじゃないと答えると、千早ちゃんのエッチとからかわれた。

「調理にエッチも何もあったものじゃないと思うのだけれど」
「女の子を料理するっていったら、そういう意味じゃない」
「それは喩えの話でしょう?」

だってあなたは蒟蒻じゃない。袋をそっと撫ぜると、芯まで冷えた中身がたぷんと揺れた。
その様をなじると、蒟蒻は悔しそうに口ごもらせた。
有ること無いこと思い浮かぶ限りの罵りを吐いた後、気の抜けたようにおとなしくなった。
気分を損ねたのかしらと幾度かなだめてみたけれど、それからはちっとも反応を示さない。

「春香?」

台所に寝そべった蒟蒻に不安そうに声をかける私は、さぞかし滑稽なものだろう。
せめて動いてはくれないかと膝をつき、捨てられた子犬のように蒟蒻を見上げる。
しかし蒟蒻はだんまりを決め込んだままで、どうすればいいかとあの手この手で呼び掛けた。

「千早ちゃん」
「春香?」
「うん、春香です」

苦々しい感じで言葉を出しては引っ込めて、「浅漬けは流石に、ね?」 と遠慮がちに拒まれた。
それがなんだかおかしくて、私は思わず吹き出してしまう。
私の様子が気に入らないのか、私は変じゃないよ!千早ちゃんが変なんだよ!と強かに切り返される。

「そうね、変なのは私の方ね」
「千早ちゃん?」

私は袋の腹をついと撫でて、冷蔵庫の扉を開けた。

「もう少し、考えてみるわ」
「えー」
「えーって何よ」
「だって、色々と心の準備してたんだよ」
「それがこの始末じゃない」
「それはまぁ、そうだけど」

全くもって扱いづらいものを手にしてしまったものである。
それでも冷蔵庫の中でおとなしく収まる姿は、不思議と可愛らしいもので、自然と口角が緩んでしまう。
無機質な稼働音が鳴るだけの冷蔵庫には、これくらいが丁度いいのかもしれない。

「蒟蒻って、意外と賞味期限は長いんでしょう?」

だから、いい調理法が思いついたらもう一度相談するわ。
そう答えると、見越したように春香が私に尋ねてきた。

「でも、いつかは腐っちゃうよ?」
「そうね」 私は一つ思案を巡らせる 「そのときは、冷凍してもいいかしら?」
「戻したらしわしわになっちゃうよ」
「それはそれで、きっと美味しいんじゃないかしら」

やっぱり千早ちゃんはマニアックだね。冷蔵庫を閉じる間際、そんな声が聞こえたような気がした。


<了>



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