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あずりつSS書きました

2014年01月20日 03:19

お久し振りです。小六です。
あずりつSS書きました。竜宮小町は大好きなグループです。
以下、SSとなります。





  二日酔いなんてしていられないんですよ




「あーもー!あのオヤジ!次会ったときは絶対にぎゃふんと言わせてやるんだから!」

 律子さんはそう言ってビールを一息に飲み干した。
 酒が入るといつにもまして毒舌になりますよ。プロデューサーさんから聞いた噂は本当だったのだろう。
 もともとお酒が弱い性質なのか、すっかり出来上がった彼女を前に、自分のお酒に口をつける。

「まぁまぁ律子さん。落ち着いて下さい、ね?」
「これが落ち着いていられますか」

 律子さんはそう言って、テーブルの料理を勢いよく食べ始めた。
 下降気味のアイドルに対する業界の扱い、言動。今回のようなことは、特に珍しいことではなかった。
 余程腹に据えかねているのだろう。食べながらも、その合間合間に律子さんは愚痴をこぼしていた。
 『これだからあずささんは闘争心がないって言われるんですよ…』と、私にまで彼女の怒りが飛び火してくる始末。

「あずささんは、今の仕事をしていて楽しいですか?」

 予想外の話題に、虚を突かれる。

「楽しい、ですよ?」
「私はね、アイドルには誇りを持ってもらいたいって思っているんです」

 じゃないと、ただの愛想のいい女の子じゃないですか。そう言って携帯を指で回し始めた。
 隣では、サラリーマンや学生の集まりが、めいめいに話に華を咲かせている。
 安物チェーン店の居酒屋で、乾いた刺身を食べながら、水みたいなビールを飲んで。
 こんな店しか見つけられなくてすみません。律子さんは申し訳なさそうに私に言っていたが、私はこういうのも乙なものだと思う。

「誇り、ですか」
「そうです。誇りです」

 いつもは現実的な彼女から、やけに空想的な話題が出てきたことに、少し驚いた。
 だけど、そんな言葉も出てしまうのも意外ではないと思う自分もいた。律子さんは、迷っているのだ。
 竜宮小町というグループが出来て数年が過ぎた。
 凋落というほど落ちぶれてはいないけれど、それでも新しい波の色鮮やかさには見劣りしてしまっていて。

 君達もうアイドル何年生なの?そういうときは媚売ってでも仕事を取るってもんでしょう?

 今日の営業の最中、番組ディレクターに言われた言葉だ。
 それを聞いた律子さんは、丁重に出演を断って(だいぶ青筋が立っていたけれど)部屋を後にした。

 まったく、あんなのこちらから願い下げよ!

 事務所に帰る車の中の、伊織ちゃんの言動を思い返す。髪からのぞく伊織ちゃんの耳は、赤く染まっていた。
 悪くはない、と思う。だけど、よくもない、とも思う。だからって、どうすればいいのかなんて、分かるはずもない。

「律子さん」
「なんでしょうか」
「誇りって、何でしょうね」

 からんと、グラスの氷が崩れた。律子さんはばつが悪そうな顔をして、「…本当に、何でしょうね」と虚空を見つめた。
 もし伊織ちゃんなら答えを言えたかもしれないけれど、私は伊織ちゃんではないから、何も言えずにジョッキに口をつけた。
 本当に、水みたいなビール。口に残る苦味に、少し顔をしかめた。

「でもね、律子さん」
「はい」
「私、律子さんがプロデューサーじゃないと、仕事出来ない身体になっちゃったんです」
「やけにいやらしい言い方ですね」
「そりゃねぇ、うふふ」

 ただひたすら、ただまっすぐに光を追い続けるには、身体も心も追いつけない歳になってしまった。
 親友の友美ですら、これからの話に遠慮の色が混じるようになってしまった。
 油の塊のようなフライドポテトは、もう受け付けなくなってしまって、空のジョッキばかりがテーブルに並んでいる。

「ですからね、律子さん」
「責任とってくれだなんて、言わないで下さいね」
「あらあら、どうしましょう」
「どうしましょうもこうしましょうもないですよ…」
「まぁまぁ、それはそれとして。またこうやってお話、しましょう?」

 律子さんは一瞬ぽかんとして、憑き物が落ちたように笑い始めた。
 彼女がどうして笑ったのか、よく分からなかったのだけれど、「ホント、あずささんらしいですね」と眼鏡を外して涙を拭いていた。

「そうでしょうか?」
「ええもう、本当に」

 それから他愛もない話をして、私と律子さんは店を出た。安い酒で悪酔いした身体に、夜風がしみる。
 二人でタクシーに乗って、自室のマンションで降ろしてもらう時に、律子さんに呼び止められた。
 
「ああ、そうだ。あずささん」
「なんでしょうか」
「大丈夫だとは思いますけれど、二日酔いなんてしたら困りますから」

 そう言って、律子さんは私に二日酔い用の薬をくれた。
 呂律は怪しくて、見るからに彼女の方が酔っているのに、この心遣い。
 きっと根っからのプロデューサー気質なのね。思わず笑ってしまった。

「なんですか」
「いえ、律子さんもお気をつけて」
「あずささんに心配されたら、プロデューサー失格ですね」

 からからと律子さんは笑って、「それじゃ、また明日」と車のドアを閉めた。
 消えていく車に頭を下げて、私はマンションに足を向けた。

「二日酔いなんて、まだまだしていられませんものね」

 まだ酔いの抜けきらない掌は、うっすらと汗ばんでいた。




<了>



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