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新田ーニャSS書きました

2015年04月20日 11:23

ご無沙汰してます。深夜の勢いで新田ーニャさんのSS書きました。
もっと増えてもいいと思います。新田ーニャ。

以下、SSとなります。



  美波。寂しくなったら歌を歌ってごらん。どんなに下手だっていい。

たしか、私が幼い頃だったと思う。
泣きじゃくって鼻をすする私の頭を撫でながら、父がそう言っていた。
私が何故泣いていて、それがいつのことだったのかなんて、忘れてしまったけれど。

  美波、知ってるかい?クジラも歌を歌うんだよ。
  クジラは一人で歌うの?さみしくないの?

そこで私は夢から覚めた。夢の中の問いかけは問いかけのまま、胸にじわりとこびりついていた。



    あぶくの星  



「…ミナミ、どうかしましたか?」

アーニャちゃんの声で、我に返る。彼女は不安げに私の顔を覗き込んでいた。
シンデレラはきっと眠りに落ちている時間だ。窓から差す街灯が、おぼろげに彼女の顔を照らしていた。
そんな顔をさせるつもりはなかったのだけど。私は彼女の髪を撫でる。

「ごめんなさい。起こしちゃった?」
「ニェット。ミナミ、起きてたから」

髪を撫でていた手をそっと握られた。割れ物を扱うような触り方に、少しくすぐったさを感じた。
カーテンは夜風をはらみ、裾野を揺らしていた。耳が痛くなるくらいに静かだ。
どこまでも広がりそうな静けさで、衣擦れの音が聞こえた。ベッドが軋み、指先に温かい感触。

「アーニャちゃん?」
「あー…、ミナミ、手をつないでもいいですか?」

質問に応える前に、彼女は指を絡め、愛おしそうに手の甲に頬を寄せた。
頬に残る汗の湿り。沈めていた熱に胸の奥をかじられたような気がした。
じわりと胸の奥が疼くのは、どうしてだろう。

「ミナミ、さみしいですか?」
「そんなことないわ」
「でもミナミの顔。さみしそう、です」

彼女は猫のようだ。猫のように孤独に敏く、するりと脇に忍び込む。
アーニャちゃんにそういった類の隠し事はできないわね。そう心で苦笑した。

「これからどうすればいいか、分からないの」
「……ミナミの言いたいこと、よくわかりません」
「そうよね」私は揺れるカーテンの隙間を眺めた「私もよく分からないの」

喉が渇いていたので、冷蔵庫を開けて水の入ったペットボトルを取った。蛍光灯の眩しさは心地よいものではなかった。
ベッドに帰ってきても、カーテンから覗く空はただただ暗闇を広げるのみだった。

ライブは成功して、いい感じにユニットも順調で。
アーニャちゃんに支えてもらいながら、リーダーとして信頼してもらえて。
今もすぐ隣にアーニャちゃんがいるのに。どうしてこんなに不安なのだろう。

照明の落ちた部屋には携帯の通知ランプがちかちかと光っている。
ビルの障害灯のように点滅する様子を眺めていると、何故だかほっとしてしまう。
ベッドに腰を下ろして喉を潤おしながら、そんなとりとめもないことを考えていた。

「アーニャちゃん」
「どうしましたか、ミナミ」
「ええと、その」

もう一度手をつなぎたくなったの。だなんて年上の私から言えるはずもなくて。
まごついている私を見て、アーニャちゃんはくすくす笑いながら「こうですか?」と私の手を握った。

「…アーニャちゃんに隠し事できないわね」
「ママが教えてくれました。『かんじんなこと、は、目で見えない。こころでみなさい』って」

これであってましたか?と上目遣いで尋ねる彼女を見て、胸のつかえが溶けていくような気がした。

「アーニャちゃんは、クジラの歌って知ってる?」 気付けば口が開いていた。
「ダー。ヴォイヤーナ・ゴールダナ・リコード。クドリャフカは聞けませんでしたね」
「昔、父さんが泣いている私に話していたの。クジラも歌を歌うんだって」
「ダー。それで?」

夜も遅いのに、アーニャちゃんだって疲れているはずなのに、そんな戯言は起きてからすればいいはずなのに。
話を続けるかどうかためらっていると、彼女は私の指先に唇を寄せて、ささやかに笑った。

「ワタシ、ミナミの話、聞きたいです」

だから、気にしないでください。と寄せた唇の温もりが伝えたような気がした。傲慢も甚だしいのだけれど。
暗闇の中で前に進んでいくように、私はぽつりぽつりと言葉を紡いでいった。

「遠くにいるクジラに歌うんだって。何時間も、何日も。何かを伝えてるんだって」
「ロマンチック、ですね」
「でも、その話を聞いて、余計に泣き出しちゃったの、私。」

きょとんとしたアーニャちゃんの顔を見て、まぁそうなるわよね、と私は苦笑した。

「広い海の中で歌っているクジラを想像して、そんなの寂しすぎるって。それは寂しくて泣いてるんだよって」

誰かを求めて震わせた声が、日も当たらぬまま、誰にも聞かれぬまま塵になって沈んでしまうのではないか。
仮にその声を聴いた誰かがいたとして、返事が返ってくるとは限らない。
だからといって、声も出さぬまま、その身ごと塵となって暗闇に沈むのか。
そんなの、あんまりじゃない。

そんな夢を見たような気がするの。空いていた手でアーニャちゃんの髪を撫でた。
指を流れる髪は艶やかで、鼻を埋めればきっと匂いがするんだろうなって、そんなやましいことを考えた。
ふと目が合う。アーニャちゃんは私の指の関節に幾度も口づけをした。

「ミナミはクジラじゃないですよ」
「うん。そうなんだけど」

指から伝わる温もりがくすぐったくて、おかえしだと彼女の額に口づけを見舞った。
自分はクジラではないのは分かっているけれど。こんなに不安になるのは、今夜は星が見えない夜だからなのかもしれない。
将来のこと、アーニャちゃんとのこと、その他色々なこと。いろんなことに目を逸らして歩いていた。
何もかもが曖昧なままだった、と自分のだらしなさに悪態をつきたくなった。これからどうなるのか。
そんなことを考えていると、アーニャちゃんに指先で頬を撫でられ、喉をそろりと撫で上げられた。

「ミナミ。ワタシ、おいてけぼり、です」
「ごめんね。アーニャちゃんには難しかったかな」
「ニェット。ミナミの言いたいこと、わかります」

でも、おいてけぼりはイヤ、です。そうアーニャちゃんは小さく呟いて、私の腕をぐいと引っ張った。
急に引っ張られた私は、そのままの勢いで彼女の上に倒れこんだ。戸惑っているうちに、強く抱きしめられた。

「ミナミのそういう顔、ワタシ、苦しいです」
「アーニャちゃん」
「ミナミの歌、ずっとそばで聞いてます。ワタシも、ミナミのそばで、歌います」

そうすれば、ミナミはさみしくないですか? 抱き締める腕の強さは変わらないままだった。
そんなこと言われたら頷くしかないじゃない。悔し紛れに彼女の耳朶を甘噛みする。
アーニャちゃんは少し身体を震わせた。その隙を見て、彼女の頬をそっと盗んだ。
突然のことに驚いたのか、アーニャちゃんはぽかんと口を開けて、私の顔を眺めている。

「肝心なことは心でみなさい、だったかしら」
「あー…はい。そうですね」アーニャちゃんは照れくさそうに視線を逸らした「ミナミ、ずるいです」
「そうかな」

アーニャちゃんは満足そうに目を細めて、私の首元に顔を埋めた。
腕を彼女の背中に回して抱き締め返すと、彼女の息遣いが聞こえてきた。
規則正しい呼吸の音を聞いていると、こちらまで落ち着いてくる。

「ミナミ、ねむたくなってきました」
「うん、私も」

アーニャちゃんの身体は温かくて心地よかったけれど、眠るには少し近すぎる。
私達はいったん身体を離して、自分の枕に頭を預けた。
眠気に身体がさらわれそうになる頃、こつんと指先を当てられた。
その指先の主が誰かなんて聞くまでもない。私は指先の誘われるまま、自分の指先を彼女のそれに絡めた。

「おやすみなさい、アーニャちゃん」
「スパーコィナイ・ノーチ。おやすみなさい、ミナミ」

瞳を閉じれば、彼女の寝息が聞こえてくる。掌から彼女の温もりが伝わってくる。
ただそれだけで、身体がほぐれていくような気がした。アーニャちゃんも同じ気持ちだといいけれど。
こういうとき、どういえばいいのだろう。様々な言葉が胸に浮かんで、泡となってまどろみに消えていった。

  ねぇ父さん、クジラは寂しくないの?
  寂しいのかもしれないね。でもね、父さんは思うんだ。

  クジラは星に何かを祈るように、歌を歌ってるんじゃないかって。
  だから美波。寂しくなったら歌を歌ってごらん。きっと誰かに伝わっているから。

深く深く沈んでいく意識の中で、そんな夢を見たような気がした。


<了>



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