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月を喰らう

2000年03月26日 23:30




   桜が月を喰らっている


 ぼんやりとそう思った。月光を浴びた花びらはなまめかしく、その歯を月へ開けている。
 月を喰われた夜はどんな色をしているのだろうか。そこだけぽかんと虚空が抜けるのか、代わりの何かがそこを埋めるのだろうか。
 とりとめもないことに思いを巡らしていると、不意に自分以外の気配が近くにいることに気付く。
 気配がした方向に視線を遣ると、見知った少女が佇んでいた。緩やかにたなびく長髪。

「まだ居たの」
「居たら悪い?」

 夜風に流れる涼やかな声。足音静かに桜を踏みしめるその姿はまるでこの世の人間ではないかのようだった。

 いや、訂正しよう。彼女はこの世の人間ではなかった。


 如月千早。早熟の歌姫。
 齢十五にして連れ添った男と恋に落ち、恋に狂った彼女の末路を私は知っている。
 無垢の白桐の箱の中、眠る彼女の身体は既に炎に焼かれていた。ぬらりと光を潜めた黒。原因は未だ解明されていない。
 ただ、焦がれる痛みに絶叫する姿は燐光をまとい、さながら鬼火のようであったという。

 ―― たとえ灰になったとしても、私はあの人のことを愛しているから。

 そう呟く彼女の瞳はとても穏やかなものだった。彼女の身体は風の中に葬られた。


  ―――― 月が燃える ――――


 目の前に佇んでいた千早は、どこから取り出したのだろうか、安物の紙容器を私に手渡した。
 容器の中からはこんこんと水が溢れ出している。今まで彼女が流してきた涙なのかもしれない。千早は哀しそうに私を一瞥した。
 こんな不可思議があってたまるものかと思いもしたが、現に不可思議がこうやって目の前にいるのだから、否定しようもない。

「驚かないのね」
「驚いてるわ。どうやって驚けばいいのか分からないだけ」
「律子らしいわ」
「ただ臆病者なだけよ」

 千早は薄い笑みを浮かべる。同じ事務所で仕事をしていた時の彼女だ。その声も、その姿も、その表情も、一分違わず彼女だった。
 鵺すら寝静まる時、ただ桜の枝が風に揺らぐ音だけが聞こえた。はらはらと散る赤の影。
 あまりにも美しすぎて、思わず散る桜から目を逸らした。

「こんなに綺麗なのに、どうして目を逸らすの」
「綺麗過ぎるから見れないのよ」

 昔からそうだった。美しい話には必ず裏があるものだと思っている。
 眠る白雪姫が屍体であったように、美しいものの中にはいつだって暗くどろりとした何かが這いずり回っている。
 そう思わなければ安心できなかった。美しさを純粋に受け入れるほど、私の心は美しくない。
 だから、桜もきっとそうなのだろうと。

 空だけでは飽き足らず地中までその舌を伸ばし、ぞぞぞと屍をすすり上げているからこそ、淡い血のような色をしているのだと。
 そう思わなければ怖くて見据えることができなかった。一つ息を吐き、私は空を仰いで月を望んだ。

「そういえば、なんでこんなところに来たの?」
「墓参りよ」
「そっちの世界にもそういう慣わしがあるのね」

 まったくもって冗談にすらならない。千早の冗談はいつだってどこかずれている。

「こんなことを何度も繰り返していると、きっと幽霊騒ぎになるわよ」

 夜な夜な現れる幽鬼。そんな三文週刊誌の見出しが思い浮かんで私は苦笑した。 
 そんな私に千早は何か話しかけた。

   ざざぁ ざざぁ

 寂しげに紡がれた言葉は木々の潮騒に溺れ消えてゆく。
 何かとても大切なことを言っていたような気がしたが、私の耳には入らなかった。
 聞きたくなかった。それを受け入れてしまえば最後、私は私でいられなくなる。水はさざ波を立てていた。

「いったいあの時、何があったの」
「……私にも分からない」

 そういえばあの時も満月だった。以前から不安定な言動を見せていた彼女だったが、その日は輪をかけて狂気じみていた気がする。

 うつろな瞳で、何かを形作るかのように虚空へ指を這わせる。
 おぼつかない足取りで、何かを追い求めるように街を歩き廻る。
 ぼそぼそと何かを呼び出すかのように呪文のように呟き続ける。

 その姿は現代に現れた美しき鬼のようだった。
 不安に思った私は千早に聞いたことがある。何があったのか、と。

     彼が来てくれないの。ずっと、ずっと。これだけ長く待っているのに。
     いつまで待っても来てくれない人なんて、結局は死んだ人と同じことなのよ。

 なめらかな口調。だけど鎮められることのない焔がそこにはあった。
 そうだ。彼は私達を頂点へ導いた後、どこかへ行ってしまった。この世にはもっと面白い世界があるからと言い残して。





  ―――― 月が溺れる ――――



 次の日の夜も千早は私のもとに訪れた。小雨がやわらかく降る夜だった。
 今回も墓参りだと彼女は言っていたが、むしろお百度参りと言った方が正しいのかもしれない。
 
 目の前にいる彼女は、あの頃の面影はなく、とても落ち着いているように見えた。
 千早は水を飲みながら、どこか遠いところを眺めている。物憂げな眼差し。溢れる想いを涙で割り、飲んでいるかのようだ。
 だけど、いくら涙を飲みほしても、渇きをいやすことはできはしない。

 数刻思えば人は恋に落ちると言うが、幾年思えば人は狂気に落ちるのだろうか。

 雲間から月影。煙霧に花開く幻光。逆光に照らされる彼女の姿は夢魔の如く、その表情は伺い知れない。
 滴が一つ、枝の先からぽたりと落ちた。

「酔狂なことね」
「現に酔えないのなら、夢に狂うしかないでしょう?」

 千早は妖しげに微笑む。嗚呼そうだ。彼女はこちら側の存在ではない。
 これは彼女の夢で、私はその夢に迷い込んだ旅人みたいなものなのだろう。

「それで、何か用かしら?」
「ええ」

 偶然はそう何度も続かない。千早は私に用があってここに訪れた、そう考えるのが自然だ。そして私は彼女の目的が何かを知っている。
 桜の樹の下、腰かけていた私は千早の手を見つめた。細い指は雪のように青白い。
 瞼を閉じ、深く息を吸う。もしかすると私はこの時を待っていたのかもしれない。ゆっくりと瞳を開けた。

「私が憎いんでしょう?」

 不思議と恐怖感はなかった。凪いだ心のまま、私は彼女の反応を待つ。


 千早が愛した男は、私と恋に落ちた。いや、私が勝手にそう思い込んでいるだけなのかもしれない。
 彼女がこの世のものではなくなった後、傷心の彼が新たな恋に落ちるのにそう時間はかからなかった。

 浮気な人だった。いつだって心は美しいものを求め、瞳は遥か彼方を映していた。その視線の途中に私がいた、それだけの話だ。
 それでも彼は十分魅力的で、私は何とかして彼の瞳の焦点に入ろうとやっきになった。
 どうすれば美しくなれるのか、どうすれば彼の心を惹くことができるのか。それだけを追い求める日々。
 こんな姿を千早が見たらどう思うだろう。そんな罪悪感すら刺激だった。溺れるように夢中になった。
 そして私が頂点に立った時、彼は私を捨てた。興味がなくなったと言った方がいいのだろう。

    別に嫌いになったわけじゃない。ただ、美しすぎて見ていられないんだ。
    美しすぎると、その影が怖くて見ていられない。完成された美しさほど恐ろしいものはないんだ。

 白雪姫の話はその時に彼から聞いたものだ。どうということはない知識なのに、今でも記憶に残っている。
 かわいそうな人。別れ際、私は力の限り彼の頬を叩いた。それが彼との思い出。

 
 千早は戸惑っていた。訳もない。愛した男を取られた彼女からすれば、泣いて許しを乞う方が怒りをぶつけられるはずだから。
 そして、殺したときにも心を痛めないだろうから。
 私は彼女の手を取り、そっと自分の首に押し当てた。

「覚悟はできているから」
「……」

 千早の指は動かない。訳が分からないという表情で私を見つめている。

「どうして、そんなことをしないといけないの?」
「どうしてって、そりゃアンタ」
「もしかして……気付いてないの?」

 思い当った節があったのか、掴んでいた手を急に振りほどかれる。ざざざ、風が桜を揺らす。
 疑念と同情がないまぜになった表情。口を開いては閉じ、開いては閉じ、私にかける適切な言葉が見つからないみたいだった。

「さっさと言いなさいよ」

 数秒の沈黙の後、千早はゆっくりと、澄みきった声で、子供に言い含めるように、私に話した。

「私は律子のことを憎んでいるわ。だけどそんなことする必要はないの」
「だからなんで」
「必要はない、というよりも、そうしたくてもできないのよ」
「くどい。その理由が私は知りたいの」

 彼女は深呼吸し、少し息を留め、こう言った。



   「あなたはもう、この世の人間じゃない」





  ―――― 月が埋まる ――――




 最初は笑えない冗談かと思った。千早の冗談はいつだってどこかずれている。だから今回も冗談なのだと、そう思った。
 だけど、その願いは疑いようもない事実によって崩れ落ちることになった。


        あしがない


 私の脚は、桜の絨毯に溶けたかのように消失していた。


    どこ どこ わたしのあしは どこ 
     なんで いつのまに だれが 
    だれか わたしのあしを かえして


「律子、落ち着いて」
「ねぇ千早、私の足はどこなの?どこに行ってしまったの?」
「律子!!」

 彼女にしては大きすぎる位の声を出して、千早は私の肩を掴んだ。その気迫に一瞬言葉を失う。
 掴む?彼女が?幽霊が?私を掴んでる?
 その意味を頭で理解するよりも早く、私は千早の腕を振りほどいた。ありえない。ありえない。信じたくない。

「私は認めない!」

 そうだ。私は約束していた。ここでずっと待っていれば、彼と逢えると。だからずっと待ち続けていた。
 彼との約束を果たすためにこの場所を訪れた。何十回、何百回、何千回。彼の姿を探して歩き回った。

 何千回? 私はふと自分の足元を見た。
 私がずっと座っていた桜の樹の根元。
 そこにはぼろぼろになった髑髏がひっそりと埋もれていた。

 これは私だ、心で受け止めるよりも早く、私は分かってしまった。言葉が上手く出ない。

「見たくないものは見えない。聞きたくないものは聞こえない。幽霊にはよくあることなのよ」

 千早は持っていた花を骨の隣に添えた。紫露草、私の誕生花。
 厳然たる事実を突き付けられた私は、ただ茫然と彼女の様子を眺めることしかできなかった。
 私が何も言い返さないことを確かめた千早は、手を合わせて黙祷を始めた。

 憎まれていると思っていた女に弔われるとは、なんて滑稽なことだろう!!

 嫉妬、憤怒、羨望、絶望。思いつく限りのどす黒い感情がごぼごぼと這い上がってくる。
 理性の枷から解き放たれたそれらを従えることができない。膝を地に落とした。瞳孔が乾く。頭が痛い。
 小刻みに身体が震える。寒い。千早はそんな私の姿を何も言わずに見つめていた。

「私がここに来たのはね、律子」
「もういい……分かってる」

 彼女は私を迎えに来たのだろう。同じ事務所で仕事をした仲間として、同じ男を愛した女として。
 だけど、この事実をすぐに受け入れる程、私の心は寛大ではなかった。

「明日また来るわ。その時までに答えを出しておいて」

 ひどく優しい口調だった。立ち上がれない私に微笑んで、千早は闇に溶けていった。
 彼女の気配がなくなってからしばらくして、私は地面に突っ伏した。ざらりと濡れた土の感触が温かい。

 一緒に往くか、このまま残るか。簡単な二択。だけど簡単すぎて逆に怖い。決断するに足りる決意が足りない。
 なんとはなしに視線を前に向けると、白い頭蓋と目が逢った。眼窩の奥は深い深い闇だった。
 これが私か。この事実に気付かないまま、一体私は幾年の時を過ごしたのだろう。どれだけ孤独な夜を過ごしたのだろう。
 それすらも分からない。今となってはもう遅すぎるのかもしれない。
 ぽかんと骨に空いた闇を見つめながら、懐かしいあの頃に思いを馳せる。

 私がいて、みんながいて、彼がいた。あの頃は何もかもがキラキラと輝いていたような気がする。


    律子なら大丈夫だ。
    どうしてそんなに卑屈になる? お前は卑屈になっていい人間じゃない。
    律子、いくぞ。

    俺は律子を信じてる。ずっと信じてる。

 
 「……ばか。死んだら何もならないじゃない」

 今にも崩れてしまいそうな頭蓋の顎に手を沿わせた。彼は何を思って私の身体を引き寄せたのだろうか。
 彼と口づけをした後の会話を思い出す。

   俺はな、律子。天にまで届くような歌を作りたいんだ。お前と俺なら、それができる。
     天って、千早にまで届けるってこと?
   そうだ。千早は歌姫だ。こっちがいい歌を作れば、きっと対抗心燃やして天国から化けて出てくるぞ。
     私と千早、どっちが大切なのよ。
   どっちもだ。俺は我儘だからな。どっちも俺の女だ。
    
 仕事は敏腕なくせして、こういう恋愛に関しては子供よりも馬鹿な男だった。
 頭蓋の顎を撫でながら、彼の面影を瞳の奥で描く。そういえばこんな感じで無骨な顔だった。
 徹夜明けで無精髭を伸ばし、ぼさぼさになった髪を掻いて、朝っぱらから煙草をふかす人だった。
 不健康極まりない生活だったから、注意したことがある。

   ああ、すまん。忘れてた。

 からっと笑顔でいなされるのだ。愛する女なら全力で尽くさないと、男がすたるだろ? それが彼の口癖だった。
 本当に馬鹿な男。今はどこで何をしているのだろう。彼と会った最後の記憶をたぐりよせる。

 そうだ。最後に彼と話したのは、この桜の樹の下だった。

 急に頭が痛くなる。だけどここで止めてはいけないような気がした。大切な何かがそこにある。そんな直感があった。
 うずたかく積もる記憶の中。埋もれてしまった何かを見つけようと、私はやっきになって記憶の山をかき分ける。

 散ってしまう桜を眺めながら、彼は呟いた。

   なぁ律子。そろそろこの世界で仕事をするの、止めにしようと思うんだ。
   違う!別にお前が嫌いになったってわけじゃない!新しい世界に挑戦してみようと思うんだ。
   お前や千早みたいな女の子がお酒を注いでくれる場所を作って経営したりとか、何だか面白そうだろ?

 あの頃の私はすでに芸能界の頂点にいて、自分がやるべきことはほとんど終わってしまったんだと彼は言った。
 文句の一つでも言ってやりたかったが、彼の無邪気な笑顔に毒気が抜かれてしまって、何も言い返すことができなかった。
 彼はきっと私のところに帰ってくる。そんなよく分からない確信があったのだろう。
 私の機嫌を直そうと必死になる彼がいつもの彼らしくなくて、私は彼の頬を力いっぱい叩いた。
 頬を真っ赤に腫らしているのに、その顔はどこか嬉しそうだった。


   絶対に帰ってくる。お前はここで待っていてくれ。
   お前がいなくても、俺は絶対にここで待っている。
   













 そうだ。

 私が知っている彼は、あの馬鹿は、愛する女の約束を破るような男ではない。

 それなら。私は絶望に打ちひしがれた心をもう一度奮い立たせた。これが最後のあがきだ。
 目の前に転がっている頭蓋骨の顎を開いて、その咥内を丹念に調べた。
 悪魔の所業と言われても構わない。魂が何度壊れても、何度汚れても、幽霊になっても信じたいものがある。
 私の考えが合っているなら、私の願いが叶うならば、答えはそこにある。屍の闇に潜む希望の光がそこにある。

 
 調べ終わった後、私は空に向かって大きく息を吐いた。魂を空に還すように、長く、長く。







 この骨の主は、





  ―――― 月を喰らう ――――




 千早と会って三度目の夜。彼女はまた同じ時間に姿を現した。月が少し削れている。
 薄い雲がゆっくりと月にかかる。光は柔らかく桜の絨毯を照らし出していた。

「答えは出た?」
「ええ」

 落ち着いていることが意外だったのか、千早は驚いた表情をしていた。

「その前に、千早に見せておきたいものがあるの」

 私は傍らに置いてあった頭蓋を彼女に見せる。何年も雨風にさらされていたのだろう、顎の部分は外れかかっていた。
 千早は訝しげに私と頭蓋を見た。どうしていまさら、そう言いたげな目つきだった。

「この骨は私のじゃない」
「……どういうことかしら」

 落ち着いた口調。だけど微かに動揺の色が混じっていたことを私は見逃さなかった。
 やっぱり。鼓動が少しずつ強くなる。私の信じる仮説が、また一歩真実へ近付く。私は言葉を続けた。

「確かに私はここにずっと座っていたけれど、それが私がここで死んだという証拠にはならない」
「そんなの詭弁にすぎないわ。もしそう仮定したとして、どうして律子がその骨の隣にいたのか、説明できるの?」
「できるわ」
「もし説明できたとしても、あなたの考えには証拠がない」

 千早の声は震えていた。あらかた察しがついたのかもしれない。
 残酷な仮説だ。私と千早、両方にとって信じたくない仮説。だからこそ、千早では気付けなかった。

    見たくないものは見えない。聞きたくないものは聞こえない。幽霊にはよくあることなのよ

 千早にとって、私の考えは信じたくない考えそのものなのだ。だからこそ、千早は無意識にその考えを排除したのだろう。
 証拠ならある。私は頭蓋の顎を外し、その中を千早に見せた。



「私、煙草は吸わないのよ」



 頭蓋の中。黄ばんだ歯の裏には、煙草のヤニがこびりついていた。

「嘘……」
「嘘じゃない。ちゃんとここで確かめた」

 私は自分の鼻と舌を指差した。咥内を嗅ぎ、歯列を舐めた。深い口付けをするように。
 屍体に接吻をするなど狂気の沙汰だろう。だけど、私にとってそれは当然の行為の延長上にすぎない。

「千早、気付いているんでしょう?」

 嗅ぎ慣れた匂い、幾度となくなぞった歯の形。
 私と千早にとって、その歯はある人に行きつくしかない証拠そのものなのだ。
 彼女は頭蓋を見つめ呆然と立ち尽くしていた。残酷な仮説だ。だけど探し求めていた答えがそこにはあった。

「その骨の主は、プロデューサーよ」

 そう。プロデューサーはこの樹の下で死んだのだ。
 私は彼の死に逝く様を見ていた。だけど、その頃の私には見えなかったのだ。そして彼も私の姿が見えなかった。
 その頃にはすでに、私は彼のいる世界とは別の世界にいたから。
 
「信じたくない」
「信じたくないなら、信じなければいいわ。だけど、私はそう信じる」

 残酷な仮説だ。疑うに値する位に。
 愛した男を何度も何度も探し求めて、失望の果てに死んだ女、
 死んだ女を何度も何度も探し続けて、絶望の果てに死んだ男。 
 
 愛されたいと望みながら、その先は怖くて目を背けてしまっていた。
 私達は、ねじれて交わらない螺旋をぐるぐると歩き続けていたのだ。
 愚かな仮説だ。信じるに値する位に。

 森の向こう、黒い馬が鳴く声が聞こえた。空を仰ぐと、月を覆っていた雲が風に流されていた。
 何も言わずに髑髏を見つめていた千早は、ようやく瞳に光を灯し、髑髏を私に預けた。

「彼が死んだということは、彼にも会えるのかしら」
「さぁ?」

 とぼけたふりをして千早に返事をすると、彼女は「私達次第なのでしょうね」と笑った。

    見たくないものは見えない。聞きたくないものは聞こえない。幽霊にはよくあることなのよ
    それでは、その逆も然り。

「今日は帰るわ。花束がもう一つ必要みたいだから」
「そう、じゃあまた明日」
「ええ、また明日」

 そう言って千早は闇の中に帰って行った。
 彼女が消えていくのを見送った後、私は今まで腰かけていた桜の樹に身体を預けた。
 桜の枝は、今日も変わらず月に手を伸ばしていた。

 さくら さくら はなふぶき
 さくら さくら さようなら



 嗚呼、桜が月を喰らっている。








コメント

  1. トリスケリオン | URL | UzUN//t6

    なんともいえず

    人のエゴ 見解の相違 
    人はみたいものだけを見られればどれだけ幸せなのだろうか
    見たくないものを見ないでいられる人生ならどれだけ幸せだろうか

    でも人の世でも きっと今回の作品みたいにあの世でも
    世の中には見たくないものの方が圧倒的に多い 
    そして それをいつかは見なくてはいけないのが
    残酷な現実 人がみんな幸せのみで生きていければ
    こんな悲劇 ないんですよね


    でも悲劇から目を反らしていると……前に進めない
    残酷な現実を知ったからこそ 前に進める

    前に進んで幸せかどうかは別にして……

  2. 肉塊 | URL | mQop/nM.

    拝読させていただきました。

    これはすごい。
    読み進めるほどに明かされていく絶望。
    全てが明かされるまでの過程が非常に残酷で、
    こう言うとなんですが、とても良い絶望に出会えました。

  3. 小六 | URL | -

    コメントありがとうございます!

    コメントありがとうございます!小六です。
    拍手機能の素晴らしさに涙を流しております。涙で僕の部屋は洪水警報です。

    ≫na/kos様

     身に余る賛辞、本当にありがとうございます。
     前回の一枚絵SSでは桜を前面に押し出しただけに、今回の一枚絵を見た時どうしようかと悩んでいたりしました。
     このSSを書くまでは、『秒速~』が、桜をテーマにしたストーリーの中で一番大好きな作品だっただけに、
     今回のSSは、ある意味自分のSSとの戦いでした。運のなさには自信があります(キリッ
     夜桜、律子、千早。この要素から出した今回の僕の答えは「情念」「狂気」でした。楽しんで頂けましたでしょうか?

     ちょうどその頃、ニコニコ動画で『「隣に…」を能っぽく踊ってみた』という作品が話題になっておりまして、
     僕も金色広告枠につられて見に行ったわけです。衝撃でした。こんな表現手法があるのかと。
     そこで、次のSSは能の要素を取り入れて書いてみようと、色々資料を漁ってました。…という裏話にもならない裏話です。
     今回のSSは『恋重荷』という世阿弥の作品をパクr(ry リスペクト させて頂きました。
     そのストーリーに、"夜桜お七"、"バランス"、"inferno"、"livE"、"名もなき詩"、"冒険彗星"をぶち込んだのが今回のSSです。
     音楽モチーフのごった煮具合はご愛敬ということで笑って許して頂ければ嬉しいです。

     どうでもいい話ですが、僕が好きなインスタントラーメンにサンマー麺があります。
     とろみのついた温かいスープに、もやしのシャキシャキ感がたまりません。まぁ、どうでも、いいですね。


    ≫匿名希望w様

    >文章の性格について

     論理と直感、経験と天啓。二次創作にしろ、創作物ですから、創り手にとって永遠に考えさせられる問題だと思います。
     発明王エジソンの言葉に「成功に必要なのは99%の努力と1%の才能」というものがあります。
     この言葉の意味には諸説ありますが、僕はこの言葉を「1の才能は99の努力で創ることができる」と考えております。
     ロジックはストーリーを演出するための一つの手段にすぎません。ですがロジックはストーリーの魅力を惹きだす大切な手段です。
     くどい位にねちっこく、素敵だと思った「何か」を静かに静かにたぐりよせ、表現できたらと。どうみても変態です。
     春香さんではありませんが、ただ情熱を胸に、一歩ずつ高みを目指していきたいですね。
     それを温かく見守って頂けるのでしたらこれほど嬉しいことはありません。


    >SSの神様へ 

     僕がSSの神様と仰ぐ匿名様からそんな言葉を頂くとは、本当に恐れ多いことです。ですが、とてもうれしいです。
     今回のSSのテーマは「情念」「狂気」なのですが、「『光に潜む闇』から『闇に潜む光』へ」というのもテーマでした。
     匿名様はとても心優しいお方だとお察し致します。ですが、僕は汚れを拒みはしません。むしろ喜んで受け入れます。
     情けない位に未練たらたらで、呆れてしまう位に欲深い、そんな汚れこそ、生きている証そのものかもしれないですから。
     そんなロックな魂を胸に、こっそりひっそりとSSを書いていこうと思います。本当にありがとうございます。


    ≫トリスケリオン様

    >人のエゴ 見解の相違 
    >人はみたいものだけを見られればどれだけ幸せなのだろうか
    >見たくないものを見ないでいられる人生ならどれだけ幸せだろうか

     酸化と還元というものをご存知でしょうか。化学反応の基本ともいえる概念です。化合物が生まれる仕組み。
     人の文明は火を創りだしたことから始まったと言われますが、純粋な物質の方が珍しい世界に僕達は生きています。
     色んなものがごっちゃ混ぜになった世界で僕達は生きています。僕達はそれを無意識で受け入れています。
     前回のSSが純粋な美しさを表現したものとすれば、今回のSSは雑多な汚れを表現したものと言えるかもしれません。
     ですが、今回のSSは前回のSSよりも、ずっと生を表現したものだと思っております。
     幸せとか、そういうものじゃない、ただそこにあるもの。生きるってそんなものだと思います。


    >でも人の世でも きっと今回の作品みたいにあの世でも
    >世の中には見たくないものの方が圧倒的に多い 
    >そして それをいつかは見なくてはいけないのが
    >残酷な現実 人がみんな幸せのみで生きていければ
    >こんな悲劇 ないんですよね

     僕は現実で生きているので、幸せだけで創られた世界を知りません。むしろそれは天国なのでしょうか。
     知るべきことを知ることができない。青二才の僕にとってそれは地獄のように思えます。
     幸せだけで創られた世界を天国というのなら、僕は喜んで地獄に墜ちます。ストレート・トゥ・ヘル!!

     少し物騒なことを言ってしまいました。もう少し真面目な話を。自白の排除法則についてお話させて下さい。
     自分に不都合な事実を認める言葉は、それだけでは証拠にできないというルールです。
     これは「自分から不都合な事実を認めたということは、その事実が真実である可能性が高い」
     …という人間の心理を考慮して作られたルールです。自分に不都合な嘘をつくなんて、めったにないですから。
     逆説的にいえば、自分の不都合な事実は真実なのだろうと、人間は知っています。心のレベルで。
     真実なんて見えやしないのに、真実を追い求めてしまう。人間って不思議ですね。


    >でも悲劇から目を反らしていると……前に進めない
    >残酷な現実を知ったからこそ 前に進める
    >前に進んで幸せかどうかは別にして……

     幸せの定義は人それぞれですので、今回SSのラストがバッドかグッドかは読み手の方に委ねようと思います。
     今回のSSで参考にさせて頂いた曲の中に"冒険彗星"がありますが、僕の答えはそこにあります。
     ニコマスでは、めいろっくPさんが千早ソロでPVを作っておられますので、そちらをご覧頂ければと。
     
     

    お読み頂きありがとうございました!

  4. 微熱体温 | URL | -

    まさにlunatic。

    小生にとって「月=狂気」「桜=屍体」と言うイメージは物凄く強くて、
    どうしようもない筋書きだけが幾らでも出てくるほどに鮮烈で、
    喩えようもなく残酷だけど、それは凄く正直なんだと思う。

    「点」と「線」の論理を、点の輪郭から描くか線分の印象から描くかで
    最終的な「像」を結んだときの印象は大きく変わりますね。
    小六さんの作品は、その両面からじわじわと攻め込んで来て、それでも
    まだモヤモヤしていて、ある瞬間からバシッと「像」が入り込んでくる。
    その瞬間が物凄く鮮烈で、読み手として凄く幸福な瞬間です。

  5. ガルシアP | URL | MhlNZB0o

    薄羽蜉蝣の死骸が水溜りの上に石油を流したやうに何万匹も――
    梶井基次郎的幻視が見えまして、驚くほど、徹底的に徹頭徹尾、死と滅びの印象でした。
    諸行無常と言う程には割り切れないのですが、いずれも、風の前の塵に同じく。

    とても不思議な経験でしたが、ストーリーとして読むよりも先に把握してしまいました。
    ああ、この千早は――。ああ、この律子も――。
    きっと、プロデューサーも――。この骨は――。

    面白く読んだとか興味深く拝見したとかいう感想ではなく、心に染み込んだという感覚。
    なので私個人の感覚に従うならば、終わり方がバッドかグッドかという二択ではなく、
    あるべき場所に収まった、という印象です。色々と納得できるお話でした。

  6. 寓話 | URL | SFo5/nok

    拝読させて頂きました

    ドキドキしました。序章の「おつきさま」は可愛らしい文体だったので
    三歳の春香ちゃんを隣に、ほんわかほんわかと和んでいたら、背後に
    包丁にぎった雪歩様が立っていたようなドキドキ感です。(ヒャー)

    とてもいけないもの。見てはならないもの。を見ている気分になります。
    サスペンス調にあるドキドキハラハラ感とも違う、不快な物事とも違う、
    ただ「いけないもの」を見ている感覚です。でも最後まで目を離せない。
    好奇心をどうしても抑えられない、そういう気分になるのです。


    序章の「りっちゃんがすわっているきのしたに――」のくだりが印象的でした。
    (おつきさまの目は本当に笑っているのか…?とも、感じてしまいました)
    非常に不思議な色の余韻が残りました。

  7. 小六 | URL | -

    コメントありがとうございます!

    コメントありがとうございます!小六です。
    お前のコメント返信は長すぎるとよく言われるのですが、相変わらず長いです。ある意味SSより長いかもしれません。


    ≫肉塊P様

    >読み進めるほどに明かされていく絶望。

     なんともご都合主義な展開だったのですが、楽しんで読んで頂けたのでしたらこれほど嬉しいことはありません。
     イメージ的に、どんでん返しをさらにひっくり返してやろうという構想がありまして、こういうストーリー構成となりました。
     こういうとき、幽霊って色んな無茶設定を組み込めるので便利だなぁと思ってなんかないですよ!

    >全てが明かされるまでの過程が非常に残酷で、
    >こう言うとなんですが、とても良い絶望に出会えました。

     真相が分かったとしてもそれは救われる結論ではなくて、それなら知らなければよかったと思うような結論で、
     だけど知りたくて、そんな心の動きが表現できたらと書きながら思っておりました。
     律子さんと千早さんって、何と言いますか、「真理」を追い求める傾向が強いような気がします。
     これが他のアイドルだったら途中でやめてしまうか、先を予測して見ないという選択をとりそうな気がします。
     律子さんだったからこそ語ることができたストーリーだったのかもしれません。律子さんに感謝です。


    ≫微熱体温様

    >まさにlunatic。
    >小生にとって「月=狂気」「桜=屍体」と言うイメージは物凄く強くて、
    >どうしようもない筋書きだけが幾らでも出てくるほどに鮮烈で、
    >喩えようもなく残酷だけど、それは凄く正直なんだと思う。

     今回のSSを書く上で色々と満月と狂気について調べたのですが、色々な逸話がありました。
     今回は「妖しさ」「狂気」を表現しようと思っていたので、吸血鬼と狼男をテーマにして書いてみようとも考えていました。
     ですが、さすがに律子さんを狼男に見立てるのはファンの方に闇打ちされそうなので、あえなく断念w

     「ジキル博士とハイド氏」は、満月の夜に狂気に走ったイングランドの職人をテーマにしたらしいです。
     オーストラリアでは12月の新月の夜に切られた材木を使うと10年長持ちするらしいです。
     そんなお話を知ると、満月には生物を乱れさせる何かがあるのかもしれないと思ってしまいますね。
     それが単なる恣意的な統計なのかどうかまでは調べきれなかったのですが、解明されていない事象って興味深いです。

     理論上は説明されていないけれど、なぜか心で知っている。そんなものを表現できたら。
     そんなことを考えながら、もそもそとSSを書いている今日この頃なのでした。
     

    >「点」と「線」の論理を、点の輪郭から描くか線分の印象から描くかで
    >最終的な「像」を結んだときの印象は大きく変わりますね。
    >小六さんの作品は、その両面からじわじわと攻め込んで来て、それでも
    >まだモヤモヤしていて、ある瞬間からバシッと「像」が入り込んでくる。
    >その瞬間が物凄く鮮烈で、読み手として凄く幸福な瞬間です。

     僕がSSを書く上で大切にしているのは絵なので、結構絵を見ながらSSを書いていたりします。
     もっぱら印象派の絵画が多いので、ぼんやりもやもやとした雰囲気になってしまうのかもしれません。
     今回のSSで使用した絵は、横山大観の『夜桜』という名画でした。相変わらずパクリに定評がある僕です。
     燃えるような桜を地面から見たら、どう見えるだろう。そう考えて生まれたテーマが「月を喰らう」でした。

     形にならないものを形にするにはどうしたらいいんだろう。僕がSSを書く上でいつも考えていることです。 
     それは色であったり、音であったり、気持ちであったり。僕が伝えたい何かはいつだってぼんやりしてます。
     そんな思考が文体に出ているのかもしれませんね。もっとスマートにバシッと決めることができたらいいのですが。
     いろんなイメージという紙を何枚も重ねることで、伝えたい形が作ることができたら、こんなに素敵なことはないですね。


    ≫ガルシアP様

    >薄羽蜉蝣の死骸が水溜りの上に石油を流したやうに何万匹も――
    >梶井基次郎的幻視が見えまして、驚くほど、徹底的に徹頭徹尾、死と滅びの印象でした。
    >諸行無常と言う程には割り切れないのですが、いずれも、風の前の塵に同じく。

     桜の根は貪婪な蛸のように、屍を抱きかかえ、食糸のような毛根を聚めて、その液体を吸っている。
     やはりお気付きでしたかww はい。今回のSSの文章は梶井基次郎の「桜の樹の下には」を意識して書きました。
     その他に、T.S.エリオットの「荒地」を参考にしております。どちらも潜んだ闇を見つめた名文です。
     今回のSSは「妖怪物」「伝奇物」っぽい雰囲気を押し出していこう!と思って書いたSSでした。
     カタカナ表記を可能な限り抑え、死と妖しさが漂うような文章が書けたらなぁ…と思いながら書いておりました。
     はらはらと散りゆく儚さと轟々と燃えあがる情念、そんな感じを意識しながら書いてみました。


    >とても不思議な経験でしたが、ストーリーとして読むよりも先に把握してしまいました。
    >ああ、この千早は――。ああ、この律子も――。
    >きっと、プロデューサーも――。この骨は――。

     どこかの有名なシナリオ作家さんがおっしゃっていたのですが、
     「伏線の答えは答えを出すまでに読み手に分かるように書かなければならない」ということです。
     僕自身あまり推理小説を読まないので、こういう伏線回収はとても苦手な部類に入ります。
     ですので、そのように評して頂けると書き手として嬉しい限りです。本当に。
     この骨がずっと律子さんの隣にいたことを思うと、自分で書きながらちょっと切なくなってしまいます。


    >面白く読んだとか興味深く拝見したとかいう感想ではなく、心に染み込んだという感覚。
    >なので私個人の感覚に従うならば、終わり方がバッドかグッドかという二択ではなく、
    >あるべき場所に収まった、という印象です。色々と納得できるお話でした。

     自然な流れといいますか、心にすっと入りこむような物語。
     僕が書くようなSSでは一番理想的な物語の在り方かもしれません。書き手冥利につきる評価、ありがとうございます。
     バッドであったりグッドであったり、便宜上そのように語られるのがEDなのですが、
     いわゆるトゥルーエンドというものが個人的には一番好きなのかもしれません。自然な終わり方といいますか。
     結構僕のSSはそのあたりを読み手の方に放り投げてしまっている感があるので、色々考えないといけないですね。


    ≫寓話様

    >ドキドキしました。序章の「おつきさま」は可愛らしい文体だったので
    >三歳の春香ちゃんを隣に、ほんわかほんわかと和んでいたら、背後に
    >包丁にぎった雪歩様が立っていたようなドキドキ感です。(ヒャー)

     提出した時、読み手の方が「なんだこの手抜き」と怒られやしないかと内心びくびくしておりましたw
     この「おつきさま」は「おつきさまこんばんは」という子供の時に読んだ絵本をモチーフに書いたものなのですが、
     幼少時の僕はこの本を読み聞かせられると大声で泣き叫んでいたそうです。
     今まではそんなこと気にも留めなかったのですが、今思うに月の狂気を子供ながらに感じ取っていたのかなと。不思議です。
     さんさいじはるかさんと和んでいたら、後ろに雪歩様が…!!それはこわい、とてつもなく怖いです。
     ですが、出したかった雰囲気はそんな感じの雰囲気でした。ひゅーどろどろー…みたいな気味悪い雰囲気です。


    >とてもいけないもの。見てはならないもの。を見ている気分になります。
    >サスペンス調にあるドキドキハラハラ感とも違う、不快な物事とも違う、
    >ただ「いけないもの」を見ている感覚です。でも最後まで目を離せない。
    >好奇心をどうしても抑えられない、そういう気分になるのです。

     稲川順二の語りっぽい、そんな「怖いもの見たさ」が出せたらなぁ、そう考えながら書いておりました。
     見てはいけないものほど、見たくなってしまうのが人間の性といいますか。
     死であったり、真相であったり、人の痴情であったり、狂気であったり。
     非日常的で普段見ないものだからこそ、かえって逆に見たくなるのかもしれませんね。
     序章の「おつきさま」から「月を喰らう」へのリンクも、そういう意図で作ってみましたとかなんとかもごもご。


    >序章の「りっちゃんがすわっているきのしたに――」のくだりが印象的でした。
    >(おつきさまの目は本当に笑っているのか…?とも、感じてしまいました)
    >非常に不思議な色の余韻が残りました。

     序章のあの文章は、このSSの序章でありラストでした(二周目推奨的な意味で
     だからこそ序章の方に「おしまい」の語句を入れ、こちらの文章には「了」をつけておりません。
     最初に読んだときと、もう一度読んだときのイメージが変わったら面白いなぁ、そんな企みでした。

     「おつきさま」が象徴するイメージからすると、少なくともその笑いは純粋にかわいらしい笑いではないでしょうね。
     ピエロのような、気味悪い笑いといいますか、そんな感じの笑いの類でしょうね。うう、自分でも怖いです。
     水彩絵具で塗ったようにぼんやりとしていて、油絵具で塗ったようにぬらりと光っている。
     そんな感じの色を目指しました。お気に召しましたでしょうか?
     



    お読み頂きありがとうございました!

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