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『Kaleido/m@ster』企画SS書きました

2010年05月15日 14:22

絶賛遅刻してしまいました。お久し振りです。小六です。
今回はいつもお世話になっておりますガルシアPさんの企画『Kaleido/m@ster』用のSSとなります。

登場人物、行動、セリフ。ストーリーの流れが決まっている1本の簡単な脚本を下に、
自分の作風や個性を片手にSS作家がSSを書くと言う素敵企画です。

紹介にもなりませんが、このシナリオが脚本となります。脚本あってのSSですので、是非とも御一読をば。

それでは、以下SSとなります。

 
 
 
    『
      PROD. :  ある日の風景
      SCENE 7 | TAKE 6 | NO. 5
      DIRECTOR:garcia
      CAMERA : show_6        
      DATE 10.5.15 | DAY NIGHT DAWN
      MOS |   INT. EXT.
                               』
 

  土曜。午前11時。ダンスレッスンスタジオ。
  レッスン中の春香と千早。フロア、鏡の前。ジャージの2人。




         \  Clank! /




「わ、わわっ!」

 どんがらがっしゃーん!!

 お決まりのそれは6回目にしてもその軌道を変えることはなく、予定されていたであろう位置に春香はつまづいた。
 別にそこまでこだわる必要はないと思うのだけれど。それが彼女のポリシーみたいなものなのだろうか。ベーカムカメラのピントが私に回る。
 それにしても春香がここまで転び方に徹底するとは思わなかった。そのアイドル根性は呆れを通りこして尊敬したくなる。

「春香、今日はダンスレッスンの仕上げのはずよ」

 終わることのないリテイクにもめげず、ただ演技を続けること。それがプロの仕事だとは重々承知だけれど。
 撮影技師が私にズームを回す。いけない。私は顔を強張らせる。私は春香の失態に苛立ちを覚えなければいけないのだ。
 そんな私を見て春香は苦笑いした。千早ちゃんはドラマ撮影好きじゃないもんね、そう言わんばかりの表情。
 
 ここまでは脚本通り。

「えへへ。ゴメンね、千早ちゃんもう1回、いいかな?」

 不自然なクレシェンド。気付くか気付かないか位のアクセントの変化だった。
 お得意のアドリブ? いや違う、これは撮影で、彼女ならばもっと分かりやすいアドリブにするはずだ。それならば何故?
 微かな違和感に引き寄せられ、私は春香を注視する。いつもより動きが鈍い。まるで私に考える時間を与えるように。

なんで昨日より動きが悪いの

 理由が分からないまま、私も脚本に合わせてアクセントを変える。
 カメラの隙をつき、ちらりと監督の顔をうかがった。監督は私達の会話の変化に気付いていない。
 薄氷の上を歩いているような感覚に心が煽られる。この監督が悪戯を許す性格ではないということ位、春香も知っているはずだ。

 「ある日の風景」というタイトル通り、765プロのアイドルの日常を切り取ったドキュメンタリー『ドラマ』。
 今撮影されている風景も当然脚本が描く日常だ。いつもとは少し違う、少しばかりデフォルメされた日常。

 これが終われば歌のレッスン風景、そして表現力レッスンの撮影に進む予定だとプロデューサーから聞いている。
 こういったプライベートな部分に触れる撮影は好みではない。言われなくとも失敗は可能な限り少なく、かつ手早く進めたい。
 だからこそ、春香の意図が分からない。一体どうすればいいの?困った私はため息をついた。
 眉をひそめる私を見て、春香は肩を落とす。どうしてわかってくれないの?そう言わんばかりに。

 分かりたいと思ってる。だけど何をしたいのか、その情報が少なすぎる。

「あなたにはプロ意識が足りないのよ!」

 意図が掴めないことへの苛立ちと、いつ監督にバレてしまうか分からないという緊張感。私は思わず声を荒げてしまった。
 監督の顔が歪む、春香の顔が硬直する。しまった。これでは彼女の目的が台無しではないか。彼女の射るような視線が痛い。
 何かを伝えようと伸ばした春香の手を振り切り、たまらず私はスタジオを後にした。
 そんな私の気持ちをよそに、撮影技師は私の後に白々しく着いてくる。まるでパパラッチのような執拗さ。ああもう!




            ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 苛立ちをそのままに私はベンチに腰を落とす。全くもって私らしくない。
 もう少し冷静に考えないと。天井を仰ぎ、私は大きくため息を吐いた。

「あ、いた! 千早さーん」

 間の抜けた声がして、私は顔を上げた。音声担当の人がマイクを廊下に向ける。案の定(というよりも脚本通りだけど)そこには美希がいた。
 やたら嬉しそうな顔の彼女を見ると何故か毒気が抜けてしまうのはいつものことで。今はその無縫さに感謝しないといけない。

千早さん今日レッスン午前だけで、午後フリーだよね?

 そんな私の思いを知ってか知らずか、美希は私の隣に元気よく座った。
 撮影中にもかかわらず、彼女はいつだって自然体だ。ふらりと縁側に立ちよる三毛猫のように、美希は私になついてくる。
 流石にそのスキンシップは無防備すぎるとは思うけれど。手で軽く制する。
 千早さんはおカタいのー、とかなんとか口をすぼめ、すぐにからりと私に笑いかけた。

「お昼食べに行こう! 美希ねー、千早さんの為に美味しいお蕎麦屋さん調べて来たの!」

 蕎麦?

 確かに最近蕎麦が食べたいとは思っていたけれど、撮影中にわざわざ足を伸ばしてまで食べたいとは思わない。
 そもそも私が蕎麦を食べたいと思っているのは、美味しい蕎麦を食べるという目的ではなくて、
 先日テレビの落語番組のトークゲストとして春香と一緒に出演した際、蕎麦をすする落語家の仕草に感動したからで、


 ……その番組のオンエアはまだだったはずだ。


 じゃあ何故そのことを美希は察しているのだろう。春香と同じ、不自然なアクセントまでつけて。

「美希……その話、誰から聞いたの? 私の今日のスケジュールは?」

 何が何だか分からないといった感じで、美希は訝しげに私を見た。
 もしかして、千早さんは教えてもらってないの?そんな顔だった。

 春香と美希は何かを知っている。
 それをスタッフには隠している。
 そして、二人はそれを私に伝えようとしている。
 一体何を?

 撮影スタッフの腕時計から、ピピピと短い電子音が鳴った。
 12時の合図。蕎麦でなくても昼食を食べたい時間だけど、流石に撮影中にそんなことは言えない。
 あくまで脚本の流れに沿ったまま、私は二人の言葉の裏を見つけなければいけない。

 退屈な撮影
 春香の行動
 美希の表情
 蕎麦の目的


 ……ああ、そういうこと。





 もう何度繰り返すのだろう。同じステップ、同じ音楽、私はつまづいて床に両手をついた。
 ずっと動き続けていたからか、ジャージは汗でぐっしょり濡れていて、そのくせ着替えをしようという気持ちも起こらない。
 ごろりと身体を床に預ける、ひんやりとした温度が気持ちいい。壁時計から流れる懐かしいメロディ。5年前位に流行った曲だ。

 そのまま疲れに身を任せて眠ってもいいかな。そう思って瞳を閉じようとした時、トレーニングシューズの先が視界に入った。

明け方まで長電話なんて、ダメじゃない」

 ジャストタイミング、ジャストアピールだよ。千早ちゃん。
 聞こえたのは千早ちゃんの声。顔を上げるとものすごい剣幕で千早ちゃんが私を睨んでいた。
 脚本通りの流れ。だけど、アクセントは『ダメ』ではなく『長電話』にかかっていた。
 どうやら千早ちゃんは気付いたみたい。お礼はちゃんとするからね、美希。


       ……さぁ、この窮屈な世界から抜け出しちゃおう!!



            ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 
 監督が私と春香を凝視する中、私は淡々と脚本に沿って動く。大切なのは、視線の死角。
 疲れたように腕を顔に乗せるその影の下、春香の口元は悪戯っぽく笑っていた。
 まったくもう、こういうギャンブルは好きじゃないこと位分かってるはずでしょう?

「今日はダンスレッスンだって知ってたのよね?」
「だって、美希が千早さん、千早さんって嬉しそうにしゃべるから……」

 この脱出劇を美希に手伝ってもらった。本当に気付くか気付かないか位のギリギリの表現で。
 別に怒りやしないのに。私は何も言わずに春香の手をそっと握った。握る彼女の手をサムズアップの形にする。
 それに気付いた春香は私を見上げた。目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
 私に伝わったという嬉し泣きなのやら、どうしてここまで拘束されなくちゃいけないのかという悔し泣きなのやら。
 そう心の中で一人ごちた瞬間だった。

「私だって……」

 春香の唇が微かに動く。至近距離でないと分かりやしない呟き。私は息を飲んだ。この言葉は脚本にない言葉だったから。
 心臓が跳ね上がりそうになる。周りに聞こえないからって、それは不意打ちよ、春香。湧き上がる衝動をぐっとこらえた。
 そう、まだ撮影中。全身の感覚を広げ、監督の動きを感じとる。監督は何も言わずに撮影技師に指示を出していた。
 ……どうやらアドリブと受け取ってくれたようだ。私は安堵の息を洩らす。カメラマンが私の背後に回った。

今日の午後のオフ、無しだから」
「え?」
「今日中にダンスレッスン仕上げるの。16時から、レッスン再開よ」

 私は携帯を取り出し、春香に見せる。プロデューサーからのメール『予約できた。OK、頑張れ』。指先を『4』のボタンに添えながら。
 それを見た春香は嬉しそうに笑った。そうこなくっちゃ!そういわんばかりに破顔一笑。

「そうだよね。へへ。私、頑張んなきゃ!」
「16時にはプロデューサーも来るわ。それまでは、自由時間よ」

 春香は監督に文字通りずっと監督されているわけで、カメラが届かない死角の時間があるのは私だけだった。
 ベンチからここに来るまでの僅か十数分。プロデューサーにその計画を伝えると、大笑いして承諾してくれた。
 からかわれているのは監督達じゃなくて、もしかすると自分なのかもしれない。まぁ、今となってはどうでもいいことだけど。
 それにしても一番大切なトリックをその計画を知ったばかりの人間に任せるなんて、春香も美希も私を買いかぶりすぎだ。
 私はジャージのポケットから鍵を取り出して、春香に手渡す。

「このフロアのミーティングルームB室、16時まで使えるわ」

 春香はいまいち私の言葉の意味を掴み切れていないようだった。
 慌てた心を悟られないよう、私はその鍵をキーホルダーから選び出し、キータグの裏面を彼女に見せた。

 < 15時 タクシー予約 B室窓から脱出 >

 監督とカメラは私の背中にいて、今この部屋でこの文字が見れるのは彼女しかいない。
 このシーンが終われば、16時まで休憩という名の撮影中断がある。その死角をついての脱出。
 春香のことだ、きっと「アイドルだって遊びたい時があるんです」とかなんとか、怒る監督へ茶目っ気たっぷり言うんだろう。

「仮眠しなさい。3時間でも眠れば、ずっと楽になるから」

 ようやく思い至ったのだろう。ああ、と手を打ったあと、えへへと嬉しそうに笑った。
 本当に、全く、仕事なのに。こんな綱渡りのギャンブルなんて乗りたくもないのに。この監督にはいつもお世話になっているのに。
 それなのに、どうして彼女の誘いに乗ってしまうのだろう。

 たぶんその答えが、目の前に見える笑顔の中にあるんだろうな、なんて恥ずかしくて言えやしない。
 彼女の笑顔が眩しすぎて、飼い主に褒められて喜ぶ犬みたいな笑顔で、こっちまで笑顔になってしまいそうで、思わず目を逸らした。
 監督は何も言わずに私達を見ている。カメラはシナリオ通りの動きで回り続けている。
 大丈夫、このままいけば上手くいく。そう思って私は春香に背中を向けて部屋を立ち去ろうと立ち上がった。

 強く袖をひっぱられる感覚。春香だ。

「えっとね、千早ちゃん……」

 もごもごと目を逸らしながら、春香は何かを言おうとしていた。おそらくさっきの続きなんだろうけれど。
 私は軽くため息をついて、春香の前髪を梳いた。汗で濡れた額をなでると、彼女の頑張りが伺えた。
 きっと昨日の夜もそんな感じで美希と話し込んでいたろうな、そこまで思ってくれる彼女の気持ちが嬉しかった。

「積もる話はまた後で、ね」

 まだ脱出まで時間がある。そこまではのんびりタクシーを待つことにしよう。
 私は部屋の扉を開ける。懐かしい音楽が時計から聞こえ出す、その少し前のことだった。


                                          完


コメント

  1. アミオP | URL | 6Q.bqvQs

    見事な二重仕込み(って言うんだろうか?)ですね!
    この発想はありませんでした。脱帽。

  2. 小六 | URL | -

    コメントありがとうございます!

    コメントありがとうございます!小六です。カレイド企画に投稿されている他の方のSSが素敵すぎて、読んではため息の毎日です。

    ≫アミオP様

     多重構成というのでしょうか、そういうのが好きです。いい意味でも悪い意味でも僕らしい感じになったかな、と思っています。僕が書くアイドルの女の子達はかなりワガママで、全くもってアイドルらしくないですが、楽しんで頂けたら幸いです。

     プロットを考えている時に、僕の中の春香さんに「私そんなに素直な子じゃないんで、そこのところよろしくお願いします」と笑顔でお願いされたので、こういうSSになりました。ある意味この企画の趣旨から離れたSSです、監督の視線が痛いです。流石春香さん、愚民の扱いは慣れていらっしゃいますね!!

    お読み頂き本当にありがとうございました!!

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