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1時間SS書きました

2010年06月05日 12:08

お久し振りです。小六です。
というわけで、1時間SS書きました。

お題:「貧乏の不幸」「蜘蛛」「外郎売り」「恋愛話」
今回は「外郎売り」を使用させて頂きました。みきゆき。

以下、SSとなります。
 
 
 拙者親方と申すは、御立会の内に御存知の御方も御座りましょうが、
 御江戸を発って二十里上方、相州小田原一色町を御過ぎなされて、青物町を上りへ御出でなさるれば、
 欄干橋虎屋藤右衛門、只今では剃髪致して圓斎と名乗りまする。


「雪歩……それ何?日本語?」

 美希ちゃんは小皿に載せられた和菓子を一切れ、竹楊枝に刺して口に放り込んだ。私も彼女にならって和菓子を一口。
 もっちりとした食感、丁寧に裏ごしされた小豆餡の甘さが舌先に心地よい。そのみずみずしさに思わず顔が緩んでしまいそうになる。
 うん、やっぱりこのお店のういろうはおいしい。そう思ってふと大切なことに私は気付く。

「美希ちゃん。私達、一応アイドルのはしくれなんだから、これくらい覚えておこうよ…」




      小田原十八番




 冷たい水が恋しくなる初夏の昼下がり。街路樹のため息が陽気に空へと昇っていく。
 台本の読み合わせにも一段落ついて、私と美希ちゃんはのんびりと時間を過ごしていた。
 氷入りの緑茶をすすりながら、私は和菓子の箱についている説明書きを美希ちゃんに見せる。

「江戸時代にういろう売りっていうのがいてね。さっきのは有名な早口言葉なんだよ」
「早口言葉」
「そうそう、東京特許許可局みたいな」
「とーきょーとっきょきょきゃ」

 予想通りの噛み方をして、美希ちゃんは「ミキはしゃべるより食べる方が好きかな」と言って小皿に手を伸ばした。
 もぐもぐと食べながら少しふてくされるその姿を見て、私は笑ってしまう。

「ふぁいふぁいふぉんなふぉふぉふぁふぉふぉえてどーするの」
「……ドラマ撮影とかで、セリフを噛まなくなると思うよ」

 開けた窓から風が入り込んでくる。カランと氷が揺れた。彼女はお茶を一口、ごくりと口の中のものを流し込む。
 こんな言葉を知らなくても、彼女のことだ、きっと台本の台詞など自分流にアレンジしてさっとやってのけてしまうのだろうけれど。
 外郎売が描かれた古臭い説明書きを睨みつける美希ちゃんを見ながら、私はなんとなくそう思った。

「早口言葉ってさ、かえるぴょこぴょこーってやつだよね」
「うん。かえるぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ」
「あわせてぴょこぴょこ六ぴょこぴょこ」

 ちゃんと言えたからだろうか、美希ちゃんは得意げな顔をして笑う。

「ミキはこれでいいの」
「そうだね」

 自分にとって一番いいものを直感で理解できるんだろうな、と思った。 そんな彼女が少し羨ましくて、眩しい。

 楽しそうに階段を一段飛ばしで登っていくのを下から眺めているような、そんな感覚。
 気持ちよさそうに空を飛ぶ鳥をぼうっと井戸の底から眺める蛙のような、そんな気持ち。

 羨ましいけど、別に嫌な気分にはならなかった。階段が登れないわけじゃないし、鳥は水の中を泳げないから。
 真夏の炎天に雨を降らせる仕事ができるのは、蛙の湿った鳴き声だということを私は知っているから。
 私は台本をぱらぱらめくって台詞と風景を思い浮かべる。夕暮れ、提灯、行き交う人々。うん、これ位で大丈夫だろう。
 
「私は他の仕事の準備するけど、美希ちゃんはどうする?」
「ん、大丈夫なの」

 そう言って美希ちゃんはまだ開けていないういろうを一つとって、窓際に腰掛け瞳を閉じた。


 せっしゃ親方と申すは、おたちあいの内にご存知のお方もござりましょうが、
 お江戸をたって二十里かみがた、あいしゅう小田原一色町をお過ぎなされて、あおものちょうを上りへお出でなさるれば、
 らんかんばしとらやとうえもん、ただ今ではていはつ致してえんさいと名乗りまする。


 夕暮れの赤と、窓枠の影。隈を縁取るように美希ちゃんの顔に映っていた。静かに吹き抜ける風が、彼女の金の髪を揺らす。
 してやったりといった感じでニシシと笑う彼女の姿は、まるで   

「こんな感じ?」

 まるで、歌舞伎役者みたいだった。








 <了>


コメント

  1. 小六 | URL | -

    拍手ありがとうございます!!

    拍手ありがとうございます!小六です!
    皆様からの温かい言葉におよよと涙を流しながら、いつも元気を頂いております。
    以下、拍手返信となります。


    ≫なかな様

    意表を突くようなテーマが1時間SSには多いからかもしれません。
    『外郎売り』を『下郎売り』と勘違いして、エロい方向に想像した僕は土下座してきます。
    基本的には一時間SSで使用するテーマは、普段よく使うテーマは使わないようにして書いております。
    1時間SSでは、2000文字以内で何らかの空気感が表現できたらな、と思いながらSSを書いています。
    本当に何の出来事もないSSばかりですが、これからも色々な雰囲気のSSをたくさん書いていきたいですね。
    あばばそんなことをおっしゃると勘違いしてしまいます!ありがとうございます!
    ニッチな俺得SSばかりですが、のそりのそりと書き続けていこうと思います。


    ≫06/08 19:36 匿名様

    確かに!!そちらの方がいいですね!ぐっと味が深くなると思います。
    どうして思いつかなかったんだと、昔の自分に後悔しております。匿名さんの才能に嫉妬してしまいそうです。
    最近はきっちり1時間で書くことが少なくなりつつあるので、そういう細かなところにも気を遣いたいですね。
    美希さんはやればできる子だと思います。ふとした瞬間に友人の才能を見るときって、すごい面白い瞬間だなと思って書いてみました。


    お読み頂き本当にありがとうございました!

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