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はるちはSS書きました

2010年06月09日 23:00

お久し振りです。小六です。
このSSは、以前書いた『 La traviata 』のためのSSとなります。

素晴らしすぎる挿絵を様から頂きました。
十様に関しましては、それこそ語りだすとそれだけで長編SSになるため、控えさせて頂きます。えんだああああ!!
イラストはSS中に挿絵として掲載させて頂いております。本当にありがとうございます!

それでは以下、SSとなります。

 
 
   私が愛のために果たす約束を忘れないで下さい
   それが私の、最期の願いです









  印象、椿01











 どうしてこうなったんだろうね



 不自然な位に自然な感じだった。「今夜は星がきれいだね」と言っているような、そんな口調。
 あまりにも何気ない言葉だったので、「そうね、星がきれいね」と返してしまいそうになった。

「どうして私に聞くの」
「ちょっと聞きたくなったから」



01.jpg








 春香は力なく笑った。明るい彼女にしては珍しい表情だった。













          菖蒲、雨        






 夜の舗道を私達は歩く。数時間前に降り止んだ雨はアスファルトを濡らしていた。
 靴の先にじわりと雨水が染み込んでいる。指先を動かすと靴下が湿っている感触。
 もうこの靴も買い替えなければ。街灯に照らされる黒い礫が漆の如く光っていた。

「それが分かったら苦労しないわ」
「千早ちゃんにも分からないかぁ」

 春香は腕を組んで唸った。そんな彼女を横目に空を見上げる。

 点いては消える電灯の先、いくつもの電線が鉄条網のように張り巡らされていた。
 そんな物騒な物を檻にして隠れて、いったい人間は何から逃げているのだろうか。 

 夜の舗道を私達は歩く。雨上がりの空は澄み渡り、幾つもの星がまたたいている。
 指の先からじわりと悪寒が這い上がった。指先を動かすと薬指に鈍く冷たい感触。
 もうこの関係もおしまいなのか。夜空に輝いている北極星は氷の如く燃えていた。

「それはそうと、プロデューサーさんと上手くやってる?」
「まぁ、それなりに」
「何だか嫉妬しちゃうなぁ」
「ありがとう」

 それを聞いた春香は目を細める。そして私の耳にキスをした。

 ぐいと肩を塀に押しつけられる。背中に感じたのは無機質なコンクリートの硬さ。
 影と夕闇が静かに溶けゆく時間。顎に手が添えられる。熱くて、愛しい彼女の熱。
 街灯の死角。そばにあった自販機の光は冷たく、稼働音が耳元で鈍く響いていた。

 耳たぶの裏をゆっくりと舐め上げられ、思わず身体が震える。
 私は両手を彼女の首と腰に回し、そのまま身体を引き寄せた。


 何故こうなってしまったのだろう。ぼんやりと理性が歪みゆく中、私は過去へ想いを走らせる。
 一つ一つは単純な理由のはずなのに、綾目の如く捻れ絡んだそれを解くことなどできなかった。
 嘔吐にも似た快感が身体の髄からせり上がり、脳を痺れさせる。髪の匂い。くらり眩暈がした。

「ねぇ、千早ちゃん」

 私の髪を弄びながら春香は顔を埋めた。まるで恋人みたいだ。


04.jpg



「もう一度聞きたいな、千早ちゃんのピアノ」

 何も言わずに、私は彼女を抱き締める。不自然な位に自然に。










     太陽は沈み、月が姿を現していた。
     トマトを切り落としたような赤だった。 










           林檎と葡萄         












     林檎にナイフを刺すと血が流れた。
    血が止まらず林檎は干からびていった。





 
 某月某日:今日も私は歌う      
 某月某日:今日も私は歌う      
 某月某日:今日も私は歌う

 某月某日:今日も私は歌う



 スタッフの人にいつも通りの挨拶をし、スタジオを後にした。
 廊下を歩いていると、ふと壁に貼られたポスターが目に入る。

「あの子、引退しちゃうんだ」

 つい最近まで楽しく話していた女の子だった。笑顔がかわいい子で、遊びに行ったりもした。
 移り変わりが激しい世界だ。そんなこと重々承知だけど、何ともやりきれない気持ちになる。
 自分もいつかこのポスターの子のようになるのだろう。ぞっとしない思いで横を通り過ぎた。

 ガラスに映る女の子が笑っていた。この子は誰なんだろう?
 
 無性にプロデューサーさんの声が聞きたくなって、携帯が入っているポケットに手を伸ばす。
 たぶん安心したいだけなんだ。重い扉を開けると、屋外の階段。踊り場で彼に電話をかけた。
 彼の声を最後に聞いたのはいつだっただろうか。どんな声だったかすら曖昧で思い出せない。
 10回目のコール音の後に聞こえたのは、無表情な留守番サービスの音。携帯を服にしまった。

 高層ビルの螺旋階段の中、金網に指をかけてぎゅっと握り締める。不快な擦疵音。
 無性に太陽が恋しくなった。外は青く晴れていて、すぐ目の前に見えているのに。
 階段下の道路には色んな人が行き交い、ビルの屋上に留まるカラスが鳴いていた。

 どこにも逃げ場などないと
 頂のない山を登り続けろと
 太陽のように輝き続けろと

 カラスが笑った。人がはやし立てた。何故かそんな気がした。

「そんなのできるわけない」

 奥歯を噛み締める。暗くどろりとした何かが喉の奥に絡みつく。
 チョーカーが息苦しい。掻き毟るように首筋へ爪を突き立てた。
 空を仰いで神様に救いを求めたけれど、救いの声は聞こえない。

 遊びでも構わない。言葉なんていらない。一度だけ抱き締めて。
 それすらも叶わない願いなのでしょうか。それだけでも教えて。

「私はただの女の子だよ」

 みんなが笑う姿を見ると、もっと一緒に笑っていたいと思って、笑うことが余計に辛くなる。
 私の歌でみんな笑顔になってくれるといいな、そう思って歩き始めたこの道の中。私は迷子。
 私の子供っぽい夢を優しく受け入れてくれた。二人きりで歩き始めたこの道の中。私は一人。


 どうせなら夢だけを見てずっとずっと踊り続けていたかった。


 私の歌が響けば響くほど、みんな笑顔になってしまうなら 笑顔を見せないように跪いてよ
 私の声が届けば届くほど、誰かがその影で泣いているなら 人の不幸はほろ苦く甘い夢の糧
 私の夢が叶えば叶うほど、あの人と私が離れてしまうなら とどのつまり私はあなたの傀儡 

 瞳を閉じる。喉が震える。溺れあがき叫ぶように息を吸った。

 空は相変わらず青く抜けて、風は楽しそうにそよいでいて、鳥があっけらかんと飛んでいた。
 それが苦しかった。何も変わるこのとないただ相変わらずの世界に狂ってしまいそうだった。
 遠くに見える工場の煙だけが唯一の救いだった。にじむ世界。私は拳を金網へ振りかぶった。


「春香?」

 階下に佇む親友は、呆然とした表情で私をただ見つめていた。

 耳障りに反響する金網のレガート。じくじく痛み出した拳を反射的に隠す。お願い見ないで。
 これはあなたの知っている私がやったんじゃない。お願い間違えないで。これは私じゃない。

 まっすぐすぎる瞳を見ていられなかった。






     どうしてここにいるの?






 まっすぐすぎる瞳に目を逸らせなかった。

 私が階段を上がってゆくと、彼女は身体を震わせ膝を地に落とした。視線はずっと私のまま。
 それは神を罵倒するために聖職者が打ち鳴らす鐘だった。赤く歪む魂の絶叫が耳に心地よい。

 踊り場に佇む親友は、怯えた眼差しで私をただ見つめていた。

「千早ちゃん……」



02.jpg



 出来すぎた仮面の奥。本当の彼女をようやく見つけた。やっと見つけた。歓喜に打ち震える。
 何をそんなに怖がっているのだろう。蜘蛛に囚われた蝶のように、その瞳はわなないていた。
 ああそうか、蜘蛛を見るのは初めてだったのね。いつも影の中で息を潜めているものだから。

 彼女の手をとり、指を這わせる。関節が血で赤く滲んでいた。

 あなたが笑えば笑うほど、自分の闇が白日に晒されるから 笑顔を受け止める事ができない
 あなたが歌えば歌うほど、歌があなたをさらっていくから 歌なんて忘れてしまいたかった
 あなたが願えば願うほど、あなたの夢があなたを殺すから その姿を見ていられなくなった


 狂おしい想いだけを胸にずっとずっと傍にいるつもりだった。


 無垢な魂の持ち主だからこそ逆に、垢穢が一滴混ざり込んだ瞬間があまりにも鮮やかだった。
 私の歌でみんな笑顔になってほしいなんて、所詮叶わぬ夢。純粋すぎる夢に侮蔑すら感じた。
 誰もが夢ばかり見て彼女を見てはくれない。静かに腐る愛。彼女の代わりにあの男を奪った。
 
「何も考えないで」

 狂気の沙汰だろう。醜悪な感情だろう。愛とかけ離れた熱情だ。
 廉潔道理に意味はない。彼女の視界に入るなら何でもよかった。

 跪いて唇を寄せる。舌先に感じたのは生ぬるく錆びた鉄の甘さ。
 葡萄酒のような赤く深いジャコウの香り。陶然と眩暈を覚える。
 膝に当たる鉄の床板がざらりと冷たい。細い手首が震えていた。

「そのままでいいの」

 風が鈍く唸った。カラスが笑った。何故かそんな気がした。

 黒点を抱いても輝き続けて
 ありもせぬ道を歩き続けて
 私に光は愛せないのだから

 彼女の震えが収まるのをひたすら待った。光が雲間を縫うように差し込んでいた。
 今日もまた太陽は紅に溶け落ち、深い群青の空に月が紫黒の帳をかけるのだろう。
 何も言わず床に伸びる影を見つめた。罰が十字となり、少女は磔刑に処せられる。

 携帯が鳴っていた。無機質で無粋な音に眉をひそめる。いったん立ち上がって携帯を開いた。
 彼からだった。金網にもたれかかり、ぼんやりと空を横目で眺めながら、私は通話に応じる。
 曰く『春香と話がしたい、居場所を知らないか』とのこと。未だへたりこむ彼女を一瞥した。
 必死の形相だった。電話の相手が誰なのか、おおかた勘付いたのだろう。私はそっと微笑む。

 踊り場の上に女の影が二つ。ゆっくり伸びて一つに繋がった。

 呆然と私を眺める瞳から涙が流れていた。ススのように黒い涙だった。おぼつかない瞳の先。
 自分だけが悲劇の女だと思っていたのだろうか。私は涙を指で拭い取り、口に含んで嗤った。
 そうだ、彼に返事をしなければ。嗚呼、彼女はどんな目で私を見るのだろう。背筋が痺れる。

「春香は見ていませんが」

 瞳の焦点がただ私にだけ集中する。彼女の影全てがそこにあった。
 扉の先からスタッフの声がする。携帯を切り、踊り場を後にした。



 某月某日:今日も私は歌う

 某月某日:今日も私は歌う
 某月某日:今日も私は歌う
 某月某日:今日も私は歌う






    地に堕ちた葡萄はただ腐ってゆくだけ。
     腐った葡萄の香りは血を思わせた。












          睡蓮、夜        




 Something old, something new,something borrowed, something blue


「何の歌?」
「マザーグースよ」
「ハンプティ・ダンプティみたいな?」

 私が頷くと、春香は「へぇ、こんな歌があるんだ」と楽しそうに口ずさみ始める。
 古いもの、新しいもの、借りたもの、青いものを何か一つ。幸せを祈るための歌。
 それを彼女が私に歌うのだから哀しい位に滑稽で、思わず苦笑いをしてしまった。

「もう、笑わないでよ」

 歌を笑われたと勘違いしたのだろう。春香は頬を膨らませた。

「ごめんなさい。ただ」
「ただ?」
「本当に歌が好きなんだと思って」

 春香は哀しそうに笑い、軽く息をつき鏡を見た。彼女が何を見ているのかなんて私は知らない。
 それでも今私の目の前にいる彼女の姿は美しかった。ここまで赤が似合う女性も珍しいと思う。
 スツールから立ち上がった春香は私の背後に回り、そっと腕を首に絡めた。微かな香水の匂い。

「やっぱり千早ちゃんには青が似合うね」

 鎖骨をゆっくりと撫でられる。俯いた顔からその表情を伺うことができない。私は背を預けた。
 結局のところ、彼女の全ては私のものにはならなかった。もとから分かっていたことだけれど。
 歌は春香を救うでもなく、むしろ苦しめさえするのに、彼女は歌なしで生きられないと言った。




 素敵な音を聞くと、歌が聞こえるんだ。歌いたくないから耳を塞ぐんだけど、景色は見えるの。
 綺麗な物を見ると、音が聞こえるんだ。もちろん、聞きたくもないから、目を閉じてみたんだ。
 そしたら胸がもやもやするんだ。心臓がどきどきして、そわそわして、じっとしていられない。
 もうたまらなくなって声を出すでしょ、もやもやに合わせて。
 そしたら歌になってるんだ。本当は歌いたくないはずなのに。

 「まるで病気ね」と私が言うと、「薬があったら教えてほしいよ」と肩をすくめて笑っていた。




 彼女の意思などお構いなしに、半ば強引と言ってもいい位、それは彼女を引きずり回していく。

 やさしく抱き締められた。背中越しに触れる肌の熱を感じる。



03.jpg




「睡蓮みたい」 



「それは皮肉かしら」
「褒め言葉だよ」

 ぶつぶつと不満を洩らしながら春香は私の首筋に噛みついた。時折触れる舌先がくすぐったい。
 ただの知人なら素直に受け止めただろう。だけど春香の場合話が少し違うのだ。美しい花の影。

 水上の睡蓮は美しい。だけど水面より下はただの泥。私と彼女は睡蓮の泥を知り尽くしている。
 柔らかな葉にしたたる露を舐め、甘く苦い種を喰み、花の若芽から染み出す酒を交わした仲だ。
 首筋からコサージュ、そして二の腕へ、細い指はゆらゆらと動いていく。思い出を辿るように。


 どうしてこうなってしまったのだろうか。私はぼんやりと視点を虚に彷徨わせた。

 彼が春香と出会ったから?
 春香が歌と出会ったから?
 私が春香と出会ったから?

 ……いや、今はもう何もかもが遅すぎる。
 

「春香」
「うん」 
 
 肩に手を置き春香は私から離れる。ヒールを部屋に響かせ、私の向かいに座った。
 何か借りたものを一つ。彼女は首に手をやり、十字架のついたチョーカーを外す。
 ずっと昔から使っているものなのに、その輝きが未だ色褪せていないことに驚く。
 椅子を私の方に近づけ座り直し、軽く深呼吸をしてから、春香は私と向き合った。

 エメラルドのような緑。ああ、これがあなたの瞳の色なのか。
 何度も見ているはずなのに、何故か初めて見たように思えた。

「じっとしててね」

 春香は腕を伸ばし、私の髪をかき上げ、抱き締めるようにうなじへ両腕を回した。
 正面からだと留め具が付けにくいのだろう。春香は顔を私の耳元に寄せ、囁いた。



  「「                       
                           」」



 聞こえるには小さすぎて、伝わるには十分すぎる大きさの声。

 留め具がつながる。白金の鎖は彼女の指から離れ、私のうなじを滑った。ひやりと冷たい感触。






 ……本当にどうしてこうなってしまったのだろうか。



 しかし、どうすることもできない。私は瞳を伏せた。
 すぐそばにいる春香の表情は髪に隠れて分からない。





 願わくば、願わくば。どうか笑顔でありますように。






05a.jpg







 
 教会の鐘が鳴った。

 


























 白鍵に中指を沈み込ませると、ぷつりと処女膜が破れるような音がした。


 おそらく切弦だろう。いったん指を止め、鍵盤を何度か叩いてみる。力の抜けた音が部屋に響いた。
 切弦だ。身体を起こし息を吐いた。音の感じからすると、切れたのは一本。弾くには弾けるけれど。 


 仄暗い室内。カーテンの隙間から洩れる月光と、譜面台に置かれた蝋燭だけがこの部屋の光だった。
 蝋燭の先、おぼろげに見えたのは紅いドレスと白い肌。表情までは暗くて伺い知ることはできない。
 彼女は躊躇いもせず、切れた弦を素手ですくい取る。指先に走る裂傷。それをぺろりと舐めとった。

「まだ途中だよね?」

 何事もなかったかのように彼女はピアノの上蓋を閉じた。
 そう、まだ途中。中途半端に終わらせるつもりなどない。


 そうでしょう、春香?
 



          La traviata         




 譜面台から楽譜を取り、頬杖をつきながら目を通した後、春香はつまらなそうに楽譜を捨て去った。
 私は屈んでそれを取った。爪を突き立てたのだろう。五線譜には小さな皺が入り、赤が滲んでいた。
 指は大丈夫だろうか。いや、そんなことよりも、ドレスから覗く肌が白鍵の如く白く滑らかだった。

 再び私は鍵盤に向かい合った。白鍵の上、右手が跳ね上がる。ペザンテ。
 哀しいワルツを踊るようにゆっくりと、鍵盤から鍵盤へ指先を滑らせる。


06.jpg


 心もとない光の下、無心に鍵盤を叩き続けた。春香は鍵盤蓋に肘をつき、私の音に耳を傾けている。
 ぬらりと濡れる黒の上、炎に照らされて彼女の姿が浮かび上がっていた。するりと流れる首の稜線。


 目蓋を伏せて耳をすませる横顔は彫刻。
 首元で揺れる髪は艶めかしい蜘蛛の糸。
 軽く開かれた唇は瑞々しい薔薇の花弁。

 いっそ瞳が溶けるまで見つめていたい。








 不意に薬指がこわばる。指先がもつれ、くぐもった不協和音が部屋に響く。



「駄目だよ、千早ちゃん」

 春香は妖艶に笑い私の指に触れた。骨を枝にして、蛇は手首まで這い寄る。


「やり直し」





 レースの影から見えるすべやかな乳房。隠すように十字架が揺れていた。再び鍵盤に指を這わせる。
 アルペジオ。五指で包み込むように。彼女の姿を想う。一体何回目だっただろうか。十回?二十回?
 私は深く息を吸った。薔薇のように脳を痺れさせて、椿のように涎が零れ落ちる彼女の身体の匂い。

 嗚呼、かぐわしい。

 
 手枷を受けるように両手を重ね、ペダルを踏んだ。これが終われば彼女との逢瀬も終わってしまう。
 ただそれが惜しかった。願わくば何度でも、指が壊れてもずっと、彼女の全てを感じていたかった。
 蝋燭の炎が妖しく揺らいでいた。額がじりりと焦がされるように感じる。ぼんやりと霞みゆく視界。

 汗が顎を伝い、鍵盤に零れ落ちた。甘やかな幻惑にほだされ、何度も同じところで演奏を間違える。


「また間違えちゃったの?仕方ないなぁ」

 そっと耳元で囁かれた。

「こんな出来損ないのピアノなら、取り換えちゃおうか」


 思わず懇願の声が漏れそうになる。だけど、その声は口付けに絡め取られた。湿る吐息と軋む椅子。
 そうだ、私はピアノなのだ。ピアノが口を利くはずがない。蹂躙される快楽に私はただ身を委ねる。
 蛾は炎に翅奪われ、床に墜ちる。白い指で首筋を撫ぜられたと思えば、鎖骨に爪を突き立てられた。


「傷が付いたら使い物にならないね」

 突き立てた指をハンカチで拭き、春香は嬉しそうにそう呟く。見えない指先は笑っているのだろう。
 鈍い熱。うっすらと血が浮き上がってゆくのを感じる。きっと紅いのだろう。彼女と同じ紅の焼印。
 恍惚としたまま瞳を彷徨わせると、彼女と目が逢った。儚げに揺れる睫毛、静かに燃える緑色の焔。



 
 道化が隠せない仮面の奥。
 奈落に浮かぶ焔は揺らぐ。
 まだ受け入れられないの?




「ねぇ、千早ちゃん」 

 春香はピアノに語りかける。幾度となく繰り返される約束の言葉。



「千早ちゃんは、いなくならないよね」




01b.jpg



 
 分かってる。あなたが愛するのは私ではないこと。
 だけど、あなたはそれを手にすることができない。


 愛しているといくら語っても、あなたを体を抱き締めてはくれない。
 愛しているといくら嘆いても、あなたの涙を拭い取ってはくれない。
 愛しているといくら叫んでも、あなたの愛を受け止めてはくれない。 

 叶うことのない愛と、遂げることのない約束のダルセーニョ。
 叶いもしない言葉を望むなら、いっそ溶けてなくなればいい。



 そして私は再び間違える。
 終わらない楽章。
 迷走の八分休符。
 三日月のように閃く赤色。



「よくできました」


 私の魂は、あなたのもの。
 あなたの影は、私のもの。



 そうでしょう、春香?







05b.jpg














  Fin.


コメント

  1. トリスケリオン | URL | UzUN//t6

    思うままの感想です

    心して拝読いたしました

    最初一読した後の素直な感想としては、
    「脳髄が痺れた」ですね
    小六さん独特の蕩かすような美しい表現で
    許されない関係を、気品にある作品に仕上げてきたなと
    一読者として満足のため息を吐き出しました
     小六さんの作品って、芸術作品の裸婦像とかそういう物に
    通じるものがあるのかなとも思います 芸術的に美しく
    それでいて扇情的な何かを持っているというか

    菖蒲、雨 

     最初の春香と千早のやり取りは、どこにでも転がっているような
    普通の ごく普通の友達同士の会話に一種の安心感を感じたのも
    束の間 春香の行動に二人の関係が「ごく普通ではない」事を一瞬で
    認識させられ、ごく普通の場所に佇んでいるはずなのに、
    彼女達がある意味異質の関係なのを 本当に『ごく自然』に
    表してして、その対比が序盤から話の流れを期待せざるを
    得ませんでした
     表向きは本当に、ごく普通に二人はアイドルをしていて
    プロデューサーとの関係も表向きは「良好」なんだろうなと

    林檎と葡萄 

    林檎の例え
    これの意味する所は何なのか、物理的ことを暗示するのか、精神的なものを暗示するのか
    小六さんの文章は比喩が巧みなので、こういう表現が出てくると一読者としても
    どういう展開になるか胸を躍らせます

     ポスターをみて、そしてガラスに映る姿をみて不安を覚える春香は、この段階では
    本当にごく普通の、内面に弱さを秘めたごく普通の女の子ですよね
     それで、やはり何かに、誰かに縋りたいという気持ちもごく普通です
     それでいて、周りは アイドルとしての春香を「ごく普通」の人は見ずに
    閣下的な意味ではなく、崇めて、特別な存在に仕立て上げるからそれは彼女の精神に
    何かしらの変化を与えても不思議ないですよね
     道具としてみてるわけでもない、でも普通の「天海春香」としてみてくれる人も
    少なくなっている…… そして、現実自体うまくいったとしてもその裏では
    辛い出来事の方が多い 端的にいえば本当にほしい存在が手に入らない……
     今ある夢を捨てれば……それも出来ないという矛盾に春香は陥ってるのかなと
     そして、その姿を見られるということは、本当の春香をみてもらえるという
    ことなのだが、同時に偶像でなくてはいけない自分のタブーを犯すことになる
     だから、それがたとえ千早であっても見られてはいけなかった 

     逆にいえば、千早は春香のタブーを自分の物に出来たという征服感や
    求めていた物を手に入れた飢餓感からの開放に打ち震えていたのでしょうね
    笑顔で隠していた春香の本当の 見てはいけない本当の姿をみたからこそ
    背徳的な喜びに身を委ねることに躊躇いはなかったのだろうなと
     そして、再び春香に仮面を被せること自体千早にとってはありえない
    選択肢でしょう だからこそ全てを春香から引き離した 自分以外
    みえなければいいのでしょうから

     千早にとって 歌は重要だったとしても、春香を自分から奪うなら
    路傍の石より価値はないのだろうなと


    睡蓮、夜 


    自分のものにならないもどかしさに揺れる千早 
    歌は苦しめるだけなのに、なぜそれを捨ててこちらに来てくれないのか
    そういう単純な欲望だけじゃないでしょうからね 千早にしてみれば

     そして、二人の関係--背徳的な関係があるような表現で二人の関係を
    匂わせていますが、あくまで千早がこの段階で手にいれているのは
    春香の表面だけ 春香の一番大事なものを何一つ千早は手に入れていない
     見る人からみれば、二人の関係は美しいのに、心は濁りきっている
     それを知っているのはごく少数ですから

     そして、渡されるチョーカー囁かれる言葉
     止め具でつながれ、鎖に巻かれるというのも何かを指し示している気も
    しますね

     
     途中、そう途中なのでしょうけど……終わった先に何があるのか
     そして、終わるのか・・・



     La traviata

     ピアノと美しい少女達 これだけなら絵になる構図ですが
    その内部を探れば、闇の美しさに引き込まれて それを表現できる
    画家はいないのでしょう

     そして終わらない演奏 終わる事を望まない千早にとってどんなに苦痛が
    あろうが、それは快感でしかないのだろうなと
     
     千早はどんなにかかってもほしいものはてにはいらない
     春香もどんなに望んでも手に入らないものがある・・・

     御互いがもう御互いの写し身になっている…… 
     春香に語りかけている言葉は、自分に語りかけていることなのかなと解釈します

     どんなに仮面を被っても

     春香も千早も 弱い


     捨てられたくない 捨てられる辛さを知っているからこそ 暗い欲望でも
    必要なのでしょうね



     かなり勝手な解釈な感想になってしまいましたが、本当にあらためて
    小六さんの世界を堪能させていただきました

     今後ともまたがんばってくださいね

  2. 小六 | URL | -

    コメントありがとうございます!

    コメントありがとうございます!小六です。
    トリスケさんの全力コメントに全力で返そうとした結果、とんでもなく返信が遅れてしまい申し訳ございませんでした。
    以下、コメント返信となります。


    ≫トリスケリオン様

    >最初一読した後の素直な感想としては、
    >「脳髄が痺れた」ですね

    今回のSSはどうやらいつもの僕らしくない感じだったようです。
    いつものぼんやりふわふわした感じではなく、どろりと攻撃的な感じの雰囲気だったからかもしれません。
    そして、普段よりも色々な趣向を凝らしたのが理由かもしれませんね。
    趣向をこらした理由は色々あるのですが、一言でまとめると「閣下っぽい春香さん」を書くためでした。

    >小六さん独特の蕩かすような美しい表現で
    >許されない関係を、気品にある作品に仕上げてきたなと
    >一読者として満足のため息を吐き出しました

    脳内は残念なオヤジですが、文章にするときはオッサン成分を抑えて書いておりますw
    典型的なパターンではないなとは思います。可能な限り重厚感をもつような雰囲気。
    退廃とはまた少し違うような感じもするのですが、おそらく退廃の一類型に入るのかな、と。
    当時は、『無彩色の憂鬱』を書く前に2回見てましたね。そして無意識のうちにラストに反映されていました。
    『Fランク伊織』であったり、そういう感じのものってアイマスでは少ないような気がします。


    >小六さんの作品って、芸術作品の裸婦像とかそういう物に
    >通じるものがあるのかなとも思います 芸術的に美しく
    >それでいて扇情的な何かを持っているというか

    あばばありがとうございます>< 過激なものはないけれど、エロスはあるみたいな雰囲気を目指してみました。
    文章ではなく西洋画を調べてそれを分析して資料にしたことも、今回のSSの変わったところかもしれません。

    今回のSSは『印象』をモチーフに書いておりました。印象派が大好きだからですね、分かります。
    ですので、印象派の巨匠であるモネの作品をリスペクトしたタイトルが多い感じになっています。
    『Inpression,Cammelia』『菖蒲、雨』『林檎と葡萄』は『印象、日の出』『菖蒲』『梨と葡萄』から着想を頂きました。
    モネの他にも、ルノワール、カラヴァッジョ、ホッパー、クールベなど、色んな巨匠様の作品や解説をガシガシ調べてました。
    そういう経緯がありましたので、芸術作品の裸婦像という風に評して頂くと、とてもとても嬉しいです。

    印象をSSで表現するとどういう感じになるんだろう。と考え、
    『ストーリーは線、描写が色』と解釈し、線(ストーリー)を削り、描写(色)主体でイメージを伝えよう、そういうコンセプトでした。
    実はもう一つ、このSSを作るうちで重要になったモチーフがあるのですが、それは後述しようと思います。
    何らかの『印象』、受け取ってもらえましたでしょうか?



    >菖蒲、雨 

    >最初の春香と千早のやり取りは、どこにでも転がっているような
    >普通の ごく普通の友達同士の会話に一種の安心感を感じたのも
    >束の間 春香の行動に二人の関係が「ごく普通ではない」事を一瞬で
    >認識させられ、ごく普通の場所に佇んでいるはずなのに、
    >彼女達がある意味異質の関係なのを 本当に『ごく自然』に
    >表してして、その対比が序盤から話の流れを期待せざるを得ませんでした

    その部分の描写に関しては、結構考えたところではあります。
    急に転調して、というかリズムを不自然に変えてみよう、みたいな。そんな描写をしてみました。
    SS中にもありますが、『不自然な位に自然』な関係といいますか、そんな関係性のはるちはでした。
    これをはるちはと言い張るのは何かニュアンス的に変な感じが書き手本人としてもあるのですが、
    春香さんと千早さんの物語という意味では、はるちはなのかな、と。

    個人的な感覚なのですが、よくあるキャッキャウフフという風景に、あまりリアリティを感じないんです。
    妄想にリアリティを持ちこんで何が楽しいんだと言われるとそこまでなのですが、リアリティを感じないものに味気を感じません。
    キャッキャウフフも大好きなんですけどねw 自分が書くと何か違和感を感じてしまいます。
    異質といいますか、どろりとした何かを内包した関係性を描写したくて書いたものでもあります。

    人間って、そんなに綺麗事ばかりで出来てるものじゃないよ。
    綺麗に見えるなら、暗い部分を見てないだけじゃないの?
    暗い部分を見て、それでもあなたはその人のことが好きと言えますか?

    …みたいな。そんな主張じみたものがSSに現れているのかもしれません。
    キャッキャウフフがメインストリームの中に、こういう関係性はDo-Dai?と一石を投じれたらいいなと思って書いてみました。
    そしてそんなSSに絵を依頼するとか、もはや十様ファンとしてどう弁明したらいいかわかりません。
    提出時はおっかなびっくりでした。こんなのはるちはじゃねぇよボケェ!!と一喝されかねない類の話でしたので。
    リテイクはなかったのですが、あらためて十先生の懐の広さに感謝をするばかりでありますはい。


    >表向きは本当に、ごく普通に二人はアイドルをしていて
    >プロデューサーとの関係も表向きは「良好」なんだろうなと

    そうですね、そこが今回の関係性の核となる部分です。
    春香さんと「閣下」をどう共存させていくのか。なかなかに難しい問題でした。それに時間がかかったように思われます。
    春香さんであって、春香さんでない、「天海春香」
    それを維持させるためには、春香さんと千早さんがアイドルを続けていることが必須条件でした。
    だからこそ、表向きは良好だと思います。表向きは、ですけれど。



    >林檎と葡萄 

    >林檎の例え
    >これの意味する所は何なのか、物理的ことを暗示するのか、精神的なものを暗示するのか
    >小六さんの文章は比喩が巧みなので、こういう表現が出てくると一読者としてもどういう展開になるか胸を躍らせます

    基本の語彙が少ない分、比喩表現でなんとかごまかしているという面がありますが、雰囲気に合った比喩ってなかなか難しいです。
    今回はひたすら赤、赤、赤、でしたね。タイトルが Cammelia だけに、赤の比喩には力を入れていたように思います。
    このタイトルはモネの『梨と葡萄』の梨を林檎に変えたものとなります。
    林檎に関しましては、旧約聖書における『善悪を知る果実』という意味と、ギリシア神話における『最も美しき女神の象徴』という意味でした。
    ナイフを指すと血が流れた、は『青ひげ公の城』というオペラのイメージから頂きました。暗い疑念と愛の物語です。
    この林檎が誰を指しているのか、林檎の色が分かればすぐにピンと来られると思います。なにはともあれ『印象』、ですね。


    >ポスターをみて、そしてガラスに映る姿をみて不安を覚える春香は、この段階では
     本当にごく普通の、内面に弱さを秘めたごく普通の女の子ですよね

    そうですね。この段階においては自分のアイデンティティが少し混乱していますが、春香さんは本当にごく普通の女の子です。
    ですが、『普通』ってなんなんでしょうね。『普通の』『アイドル』って何か矛盾しているような気がしませんか?
    そういう意味で、春香さんが「ただの女の子だよ」と言ってしまった瞬間、アイドル天海春香の何かが崩れた瞬間でもあります。
    これを言わせるのは、本当に心苦しかったですね。春香さんファンの僕が、一番春香さんに言って欲しくない言葉の一つでした。
    だからこそ、このパートでは書き手としても一番困難な書き方をしてみました。文字の統御です。通称愚民プレイ。

    今回のSSでは地の文の文字数統一にかなり力をかけていたのですが、
    このパートは、どうしてここにいるの? から、地の文の量、雰囲気、シーン、全て反転させております。自然に不自然に。
    グラデーション、対位法をSSで表現しようと思って書いてみました。もしよろしければコピペして頂けると結構面白いと思います。
    簡単そうに見えて、かなり精神が削られる書き方です。そうでもしないと書けなかったというのが本音ですけれどもw
    こんな物語だからこそ、僕も春香さんと千早さんに失礼にならぬよう、当時持っていた自分の能力全てを振りしぼってみました。
    普段は文字とはにこにこ笑いながら友人のように接しているのですが、今回は鬼のような気持ちで死合の如く接していましたね。
    だから雰囲気が変わっていたのかもしれません。あの頃はびっくりする位に鬼気迫っていたような気がします。SAN値ガリガリです。


    >それで、やはり何かに、誰かに縋りたいという気持ちもごく普通です
    >それでいて、周りは アイドルとしての春香を「ごく普通」の人は見ずに
    >閣下的な意味ではなく、崇めて、特別な存在に仕立て上げるからそれは彼女の精神に何かしらの変化を与えても不思議ないですよね

    アイドルって、精神的にかなり負担がかかる仕事だと思うんです。「普通」の子だとなおさら。
    765プロのアイドルの子達はプロデューサーもいて、素敵な友人達に囲まれて、アイドルの中でも恵まれた環境にいると思いますが、
    それでも拭いきれない何かはあるんだと思います。アイドルの影ですね。僕のSSは本当にアイドルがアイドルしてません^q^
    崇めて、特別な存在に仕立て上げられる、頂点に立つということは、孤独に耐えるという意味にもなります。
    人間は完全な孤独の中ではおそらく生きていけないのではないでしょうか。それ位に脆い動物だと思います。
    それを二十歳も満たない少女に課するわけですから、おそらく精神的な負担は大きいと思われます。
    静かに、そして万力のようにかけられる負荷。それこそ人格が歪んで瓦解するのではないか、という妄想の産物でした。


    >道具としてみてるわけでもない、でも普通の「天海春香」としてみてくれる人も少なくなっている……
     そして、現実自体うまくいったとしてもその裏では辛い出来事の方が多い
    >端的にいえば本当にほしい存在が手に入らない……
    >今ある夢を捨てれば……それも出来ないという矛盾に春香は陥ってるのかなと

    はたして僕達はアイドルの女の子を本当に道具として見ていないのだろうか。という問題提起もありました。
    都合がいい部分だけを楽しみ、都合が悪い部分はポイ。娯楽のためだけに働かされる存在、それがアイドル。
    もちろん僕自身そうは思いたくはないです。アイドルって夢を与える存在です。ですが、そのような部分が絶対にないとは言い切れません。
    だからこそ、今回は都合が悪い部分をガシガシ描写していきました。これでも好きでいられますか?という意味合いも込めて。
    春香さんが「本当に欲しかったもの」って、いったい何なんでしょうね。歌なのか夢なのかPなのか。
    今でも僕には分かりません。永遠の謎です。そんな分からないものをどうしてSSにするんだと言われると趣味だからですとしか^o^


    >そして、その姿を見られるということは、本当の春香をみてもらえるということなのだが、
     同時に偶像でなくてはいけない自分のタブーを犯すことになる
     だから、それがたとえ千早であっても見られてはいけなかった 

    春香さん自身は「これは私じゃない」と述べていますが、どちらが本当の春香さんなのか、僕には上手く説明できません。
    そもそもこの子が「閣下」なのかも僕は分からない状態だったりします。春香さんではあるんですけれど。
    優等生のふりをしている子が、学校で煙草をふかしているところを友人に見られたときとよく似た心情なんだと思います。
    その友人が大好きな親友なら、なおさらですね。肝が冷えちゃいます。
    見せたくないものを見られてしまった時の焦燥感というか罪悪感というか、そんなものを表現したかった部分でした。


    >逆にいえば、千早は春香のタブーを自分の物に出来たという征服感や
     求めていた物を手に入れた飢餓感からの開放に打ち震えていたのでしょうね
    >笑顔で隠していた春香の本当の 見てはいけない本当の姿をみたからこそ
     背徳的な喜びに身を委ねることに躊躇いはなかったのだろうなと
    >そして、再び春香に仮面を被せること自体千早にとってはありえない選択肢でしょう 
    >だからこそ全てを春香から引き離した 自分以外みえなければいいのでしょうから

    何の唐突もなく登場した千早さんも黒かったという。なんてこったいな展開でした。
    思い詰めた状態の千早さんって、本当に何をしでかしてしまうか分からないような気がします。
    それこそ飢餓感というのが一番言葉として近いような気がします。食べられるならなんでもいい、そんな感じです。

    千早さんは性格が生真面目な子といいますか、抱え込んじゃうタイプの子ですので、ずっと食べないつもりでいます。
    大好きなものを、自分で壊してしまいたくない。美しいものは、美しいままであってほしい。
    それならば、既に壊れてしまったものなら。仮に、既に穢れてしまったものだったら。
    飢えて飢えて限界まで飢えた状態で、目の前に食べられるものがポンと出された瞬間、千早さんはどうなるのでしょうか。
    そんな感じで動いて頂きました。
    人間、たまには息抜きをしないとダメですね。僕は息抜きばかりなので少し締めないといけませんが。

    多分ですが、千早さんは春香さんに「黒い何か」が潜んでいることを知っていました。
    その辺りは「蜘蛛」の描写につながってきます。普段は闇に隠れて見えないもの。
    自分に潜む暗い感情を知っているからこそ、気付けた、というよりも、そうであってほしかったのかもしれません。


    >千早にとって 歌は重要だったとしても、春香を自分から奪うなら路傍の石より価値はないのだろうなと

    最近の僕の解釈ですね。『千早さんは本当に歌が好きなのか』
    千早さんと「歌」の位置関係が、最近あやふやになっているような気が致します。
    千早さんは歌が好きというよりも、歌に依存しているという面があるような気がしてならないんです。
    このあたりは、もう少し考えないといけないなと思っています。



    >睡蓮、夜 


    >自分のものにならないもどかしさに揺れる千早 
    >歌は苦しめるだけなのに、なぜそれを捨ててこちらに来てくれないのか
    >そういう単純な欲望だけじゃないでしょうからね 千早にしてみれば

    La traviata にもありましたが、千早さんは春香さんの全てを手に入れたわけでは決してありません。
    あくまで春香さんの「闇」の部分と接触できるようになっただけです。そして、それでいいと諦めております。
    それでも少しは希望を持ちたいというか、未練みたいなものは残っていて、
    『結局のところ、彼女の全ては私のものにはならなかった。もとから分かっていたことだけれど』
    という部分に現れていますね。後悔と、懐古と、未練と、熱情と、そんな感情が埋もれ火のように燻っています。
    手が届いているように見えるのに、届いてない。見つめ合っているのに、見つめ合っていない、そんな関係性です。


    >そして、二人の関係--背徳的な関係があるような表現で二人の関係を
    >匂わせていますが、あくまで千早がこの段階で手にいれているのは
    >春香の表面だけ 春香の一番大事なものを何一つ千早は手に入れていない
    >見る人からみれば、二人の関係は美しいのに、心は濁りきっている
    >それを知っているのはごく少数ですから

    背徳的な関係があることを読みとって頂けただけで、とても嬉しいです。相変わらず読み手の方に不親切な文章でした。
    客観的に見れば、美しい関係なんですよね。ですが、花の影を知っている人間からすれば、どろどろです。
    書いた方までは思い出せないのですが、心ってときどきかき回してやらないといけないらしいです。
    理科の堆積の授業であったと思うのですが、泥水をずっと静かにしておくと、上澄みの部分と泥の部分が分離します。
    上澄みの部分が人としての運命や善性とすれば、泥の部分はその人の過去や悪性みたいな、一概には言えませんが。
    それをぐるんとかき回して、人って安定した精神状態を送れるのかなぁ…と。
    話をもとに戻します。今回の千早さんはそこでいう、泥の部分だけを手に入れた感じになります。
    上澄みの「天海春香」から分離してしまった泥の「天海春香」、どちらが春香さんというのは、なかなかに難しい話ですね。


    >そして、渡されるチョーカー囁かれる言葉
    >止め具でつながれ、鎖に巻かれるというのも何かを指し示している気もしますね

    こちらの言葉、一体何を言ったのかはおわかりになられたでしょうか。
    それにお気付きになられれば、なお一層お楽しみになられたことかと思います。ダルセーニョ、ですね。
    留め具でつながれるシーンは、「Rule of Rose」をリスペクトしております。どんだけ好きなんでしょうねこの人は。
    簡単にいえば一つの「Engagement(契約)」を暗示するシーンであり、もう一つの契約の終わりを意味するシーンでもあります。
    林檎と葡萄において春香さんが苦痛に思えて仕方がなかったもの。それが春香さんから離れ、千早さんに承継されています。

     
    >途中、そう途中なのでしょうけど……終わった先に何があるのか
    >そして、終わるのか・・・

    終わりはこの話の終わりであって、春香さんと千早さんはまた歩き始めるんだと思います。
    その道の末路はよく分かりません。それこそ「願わくば、笑顔でありますように」としか。



    >La traviata

    >ピアノと美しい少女達 これだけなら絵になる構図ですが
    >その内部を探れば、闇の美しさに引き込まれて それを表現できる画家はいないのでしょう

    楽器と人というのは、絵においてはかなりよく使われるイメージで、色々調べましたね。
    今回のSSの特徴としては、資料における絵の分析(本来するべきではないものなのですが)の比率が高かったことでした。
    そこで僕の中で目を引いたのが、手の描写。複雑で細やかであればあるほど、なぜかエロいんですよ…。
    リアリティを追及すると、何故かエロくなる傾向が高くなるような気がします。後は瞳ですかね。
    カラヴァッジョの『リュートを弾く若者』みたいな雰囲気で、なおかつ暗めの印象がある感じを目指していました。
    確かこの辺りで十先生に助けを求めていたと思います。十先生マジ先生!!


    >そして終わらない演奏
     終わる事を望まない千早にとってどんなに苦痛があろうが、それは快感でしかないのだろうなと

    そうですね、「嘔吐に似た快感」です。止められません。かっぱえびせんな関係性です。
    全般的に通しての感じですが、はるちはを理想化している人ほど、不快に感じる文章だったと思います。
    どうしようもない位にどろどろな感情のオンパレードです。愛というよりは、人本来の獣じみた欲望です。
    何でこんなものを書いたんだと言われると、何かこう、書かないといけないみたいな気がしたからですとしか(ぇ
    これを書いている期間はずっと、春香さんと千早さんに「早く書いて下さい」と脳内でせっつかれていました。

     
    >千早はどんなにかかってもほしいものはてにはいらない
    >春香もどんなに望んでも手に入らないものがある・・・
    >御互いがもう御互いの写し身になっている…… 
    >春香に語りかけている言葉は、自分に語りかけていることなのかなと解釈します

    繋がっているようにみえて、繋がっていないんですよね。
    ねじれの位置のように、交差しているように見えて、交差していない。
    人に何かを尋ねる時って、自分が分かっていないという時であり、相手に確認を求める時であったりします。
    だからこそ、自分の位置を確認するために千早さんは春香さんに語りかけていたのかもしれませんね。


    >どんなに仮面を被っても
    >春香も千早も 弱い
    >捨てられたくない 捨てられる辛さを知っているからこそ 暗い欲望でも必要なのでしょうね

    弱い人間だからこそ、醜い人間だからこそ、愛しいといいますか。
    逆に、弱くて醜いところを見て嫌いになるなら、それって本当にその人のことを大切にしているのかな、と。
    そんな汚さを持った二人だからこそ、痛烈に伝えられる何かってあると思うんです。
    欲望を無視して生きられる人間なんて、そうそういないと思います。たとえそれが暗いものだったとしても。
    春香さんの場合は、「寂しさを埋めたい」という欲望
    千早さんの場合は、「大切な人を失いたくない」という欲望
    互いの利害が一致しているからこそ、繋がっている、そんなはるちはでした。
    むしろこれははるちはなのかと小一時間問い詰められそうですねw


    >かなり勝手な解釈な感想になってしまいましたが、本当にあらためて小六さんの世界を堪能させていただきました
    >今後ともまたがんばってくださいね

    いえ、こんな電波一歩手前な文章をここまで読みこんで頂いたこと、本当にうれしく思います。
    今回のSSの裏テーマが、『春香さん再考』『はるちは再考』でした。
    このSSを読んだ方が、アイマスの子達とさらに一歩深く話し合いができますようにと願って書いたSSでした。
    こんな反抗的なSSを読んで下さった読者の方に、イラストを描いて下さった十先生に言葉にしきれない位の感謝を。

    俺得浪漫ぶっちぎりのSSしか書けませんが、今後とも楽しく俺得をモットーに真剣勝負で書き続けたいと思います。


    お読み頂き本当にありがとうございました!

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