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1時間SS書きました

2010年06月12日 21:22

お久し振りです。小六です。
というわけで、1時間SS書きました。

お題:「色紙」「松葉杖」「占う」「ハイヒール」
今回は「色紙」を使用させて頂きました。

以下、SSとなります。


 自動ドアが開く。醒めるアスファルト。服に忍び込む空気はどこか肌寒くて、パーカーに身体を縮こませた。
 灰色のビルディングがうっそうと茂る東京の朝。 反射する木漏れ日に目を細め、足を駅の方へ向ける。
 無表情に立ち並ぶビルの上、金星が画鋲のように空に浮かんでいた。




      カッシーニ




「サイン?」
「そう、サイン」

 765プロの社長と名乗る男の人は、そう言って自分と貴音に紙を手渡した。 
 曰く、『ティンときた』らしい。黒井社長といい、この業界の人達はどこか変わっている気がする。

「もしよかったら、そこにサインをして事務所に来てくれたまえ」

 そう言い残して、自称765プロ社長は自分の下から去った。
 宵の明星が綺麗な夕方だった。


 ※ ※ ※

 
 床に寝転がって紙を眺める。難しい言葉が並ぶ契約書、そこに空白がぽっかりと空いていた。
 そこに名前を書き込むだけの簡単な作業だ。ペンを手に取り、自分の名前を書こうとして、ふと気がつく。

 自分のサインって、どう書けばいいんだ?

 名前を忘れたわけではない。ただ、書き方が分からない。
 ファンに差し出された色紙にサインの一つや二つ、書いていてもおかしくないはずなのに、と。今までを振り返る。
 がむしゃらに上を目指していた。それこそ脇目も振らず上まで駆け抜けた。
 

 だから、知らない。
 ファンの人からもらった色紙にサインをしたことなんて、なかったから。


 何とはなしに貴音に電話をしてみる。サインってどうやってすればいいんだ?というバカげた相談のために。
 足の裏に米粒がついているようなもどかしさを感じながら、話すこと20分。貴音はあくまで貴音らしかった。

『今まで通り書けばよろしいのではないでしょうか』

 ああ、うん、そうだね。貴音は達筆だし、普通に今まで通り書けば十分サインになってると思うよ。
 相談した自分が馬鹿だった。深いため息をつき、これからどうするのか軽く愚痴り合ってから電話を切った。
 部屋の中が急に静かになる。机に置いてある紙きれを何枚か拝借して、テーブルの傍に腰を下ろした。


 ああでもない
 こうでもない
 なんか変かな

 
 電気ポットから湯気が立ち上り、壁の時計がカチカチと時間を叩き、外の道路でバイクが駆けていく。
 サイン一つに何時間かけてるんだろう。だけど何故か楽しくて、止められなくて、気付いたら朝になっていた。
 そんな無意味な思考錯誤を繰り返してできたのは、くしゃくしゃに丸められた紙の山。
 疲労感をそのままにあくびを一つ。洗面台で顔を洗おうと鏡を見ると、目の下にうっすらとくまができている。

「……ホント、何やってんだろ」

 軽く頬を叩いて部屋に戻る。寝たらそのまま昼まで寝てしまいそうなので、起きることにした。
 眠気と覚醒が入り混じった頭で作ったインスタントコーヒーは、どこかちぐはぐな味がした。


 ※ ※ ※


 通勤ラッシュの喧騒にコンクリートが目覚めだす朝。排気ガスに煙る道路を抜けて、自分は改札を通過する。
 階段を上がり、サラリーマンや学生と一緒にホームに並ぶ。ここからまた再スタートだ。鞄の持ち手をぎゅっと握った。
 結局あの紙には、ごくごく普通の文字でサインをした。『我那覇 響』と、事務的に。
 ああもうこんな姿、絶対アイツには見せたくない。


 線路の枕木のような平坦なメロディがホームに流れる。

 マンションを出た時に見えていた明星は、太陽の日差しに隠れて見えなくなっていた。





 <了>


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