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はるやよSS書きました

2010年07月02日 03:00

お久し振りです。小六です。
以前某所で投下させて頂いたSSをそぉい!
諸事情(主にリアルちゃん)により、7月中は更新頻度が少し下がる予定です。8月には復帰します。
いつも亀更新なのにさらに遅くなるとかどういうことなんでしょうか。とりあえず土下座で許して下さい。

以下、SSとなります。



 あめ玉って面白い。ビー玉みたいにきれいな色をしていて、色んな味がある。

「春香さん、春香さん」
「んー、なにー」

 だけど、何か入っているあめ玉は嫌い。最後まで口の中で転がしていないと、お楽しみの味が分からないから。
 確かにかみ砕いちゃえばすぐに分かるんだろうけれど、口の中がガリガリしてちょっと気持ち悪い。
 あかね色の太陽がに水平線にとろけそうな夕暮れ時。
 私達はテレビをラジオ代わりに聴いていて、春香さんはグラスのストローをくわえながら私の方を見た。

「キスしてくれませんか」
「ん、いいよー」

 目の前のお姉さんはしょうがないなぁという感じで私のおでこに唇を落とす。
 それはとても自然な動き。自然な春香さんの気持ち。あめ玉の甘い甘いうわべの味が舌の奥に広がる。
 冷たいジュースで湿った唇が肌に心地よくて、私はえへへと笑った。

 だから私は今日もあめ玉を転がす。あめ玉の中身はまだ分からない。




      ローリング・ドロップス



 
「やよいって大人だよね」

 携帯へテレビへ、視線を器用に行き交わせていた春香さんはぼそりと呟いた。
 今日の夕飯は何がいいかな、そんなことを考えて私はテレビを見つめていた。

「春香さんの方が大人じゃないですか」
「うーん、そうなんだけどさ」

 難しいなぁ、苦笑いする春香さん。携帯の着信ランプがついて、彼女は携帯をぽちぽちと弄りだす。
 重さにして卵一つ分。ガラス板の液晶のその先に、春香さんは誰を見ているんだろう。
 テレビの中のコックさんは今日も風変わりなオムレツを作っていた。オムレツも悪くないな、と思った。

「春香さん、メモ帳とか持ってますか」
「はいはい、どうぞ」

 春香さんは鞄から小振りのメモ帳を取り出し、向かい越しにいた私に手渡した。  
 丁寧に手入れされた爪にはマニキュアが塗られていて、白いメモ帳の上に添えられた薄紅が視線を引き寄せる。
 まるで砂糖菓子で作られたみたいな、そんな指。ちらりと見えるその指はしっとりとやわらかそうで、私とは大違い。
 触ると綿雲みたいに消えてしまうのかな。気付いたら私は春香さんの手に触れていた。

「手にメモするつもりだったら、あげないよ?」

 その温度にぞくりと背筋が痺れ、身体が凍る。春香さんはすっと手を引いた。
 視線を上にやると春香さんが頬杖をついて笑っていた。テーブルにはメモ帳だけが残っている。


 ほら、あめ玉はいつだって私の舌から逃げ出すように転がっていく。
 ころりころりと甘さを残しながら。


 私は春香さんがくれたメモ帳を数枚もらい、ブラウン管に映っていたオムレツのレシピを書きとめた。
 ひき肉、ほうれん草、トマトに玉ねぎ、それとたっぷりの卵。その味を想像してごくりと生唾を飲み込む。
 相変わらず携帯に夢中な春香さんは、ふいに点いた青いランプに声を洩らす。

「千早ちゃんからだ」
「珍しいですね」
「仕事終わったんだって」

 視線はテレビのまま、私はあやふやに相槌を打った。テレビの料理番組はもうちょっとゆっくりレシピを流した方がいいと思う。
 春香さんは千早さんから送られてきたメールを読んでいるみたいだった。その一つ一つに表情を変えているのを私は横目で眺める。
 たまに話をふられて、ふっと思ったことをそのまま言葉にして返事をした。

「やよいは元気か?って」
「いつも通りですよ」
「ほいほい、やよいはいつも通り元気ですよー!っと」

 せわしなく動くその指が、その動きが気になって仕方ない。
 そっと添えられた人差し指も、携帯の影で動く親指も、所在なさげな小指も、とても綺麗で。肌の息を聴いてみたいと思った。
 薄く開いた唇の、氷砂糖のように乾いたグロス。その色が目に入るたび、何故か目をそらさないといけないような気がした。
 料理番組が終わり、私はペンをテーブルに置く。ところどころ数字の抜けたメモ書き、これではちゃんとしたものが作れない。

「ちゃんとメモできた?」
「はい、バッチリです」

 私の笑顔を確認した春香さんは、「やよいの家の夕食はオムレツなんだって。私も食べたいな」と呟きながらメールを打った。
 笑顔って便利だ。とりあえずそうしておけば、大体のことは上手くいってしまうから。だから私は笑顔が好き。

 それはまるで塩辛い梅干しを透明な砂糖で包んだあめ玉みたいだ。
 きれいで、あまい。

 しばらくすると、春香さんは一通りの返事を書き終わったのか、メールを千早さんに送って携帯を閉じた。
 窓の外から見える空は、黒いこうもり傘が羽を広げたような深い茄子色。もう家に帰らないといけない時間だということを教えてくれた。
 私はぼうっと空の色を見つめ、終わることのないテレビの音を耳に流し、出来損ないのレシピを丁寧にたたんでポケットの中に入れる。

「それじゃあ私、そろそろ帰りますね」
「はーい。また明日ねー」
「うん。おつかれさまー」

 ひらひらと手を振ってさよならの挨拶をする春香さんに、私はお辞儀を一つして事務所を後にした。
 今日も私はあめ玉をかみ砕けはしなかった。かみ砕きたいと思いながら、今日もただあめ玉を転がしていただけ。
 このまま転がし続けたら、あめ玉はどうなってしまうのだろうか。ポーチに入れていたあめ玉を一つ取り、口に入れる。


 今日も私はあめ玉を転がす。
 空腹をごまかすための、お手軽な甘さ。













「やよいは大人だなぁ」

 窓の外、やよいが道路の横を歩く姿を眺めながら、私は一人呟いた。
 携帯の画面のその先で、やよいが時折私に向けてくる視線の意味。その思いの原因。
 その瞳の色が何なのか、何となく分かってしまう自分がいて、それに気付かないふりをする自分を私は知っている。

 たぶんそれは、まだやよいが知らないでいいものだ。
 願わくば、気付く前に溶けてなくなってしまいますように。

 まるで綿飴みたいだな、と思って私は爪の先を見た。
 昨日の夜に手入れしたネイルを見て、その端が少しはがれているのを見つける。
 
「……まだちょっと早すぎたかな」

 まだ何も知らない妹みたいな子に、こんな誘惑をしてみようと思ってしまうなんて。本当に大人気がない。
 いつかやよいもこの爪の色をしっかりと見てくれる日がくるのだろうか。その時私はどんな目でやよいを見るのだろうか。
 ふっと自嘲して、テーブルに置いてあったメモ帳を鞄の中にしまった。









 <了>


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