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一枚絵で書いてみM@STER投稿SSです

2010年07月11日 00:04

お久し振りです。小六です。
一枚絵で書いてみM@STERに投稿させて頂いたSSです。

以下、SSとなります。



「ちょいとそこのお嬢ちゃん」

 とある冬の日。
 足の向くまま歩いていると、犬に話しかけられた。やたら声がオッサン臭い。
 
「お腹を空かせているんだが、肉まんを一口頂けないかい?」

 そんな亜美と犬と冬の日の、どこかヘンテコな物語。






          チシャナ星人のカプリシーオ









「それで、連れてきたんだ」

 亜美が軽く頷くと、ああそうなんだ、と青白い顔をしてゆきぴょんはカチコチの笑顔を浮かべた。

「ねぇねぇ亜美、真美も触っていい?」

 もちろんいいよと亜美はオッケーを出す。残念ながらこの犬に拒否権はない。
 先程事務所の水場で汚れを落とした犬は、ぶるりと身体を震わせた。隣でゆきぴょんが固まっているのを見て、ため息をつく。
 とりあえずコイツをゆきぴょんから離した方がいい。そう思った亜美は犬をひょいと持ち上げ、あずさおねーちゃんに渡した。

「あらあら、かわいいワンちゃんね。名前は?」

 流石に犬を飼っているからか、あずさおねーちゃんは慣れた手つきであの犬を抱いて、洗いたての毛並みを楽しんでいる。
 アイツがやけにニヤついた顔をしているように思えるのは亜美の勘違いだろうか。このエロエロバター犬め。
 そういえば、と名前を決めていなかったことを思い出す。まぁ捨て犬だろうから、名前の一つや二つ位はあるはずだろうけど。
 顔をやわらかおっぱいに埋めている犬が亜美の方を見る。その視線を見て、亜美はにやりと笑った。

「ジロー」
「そう、2号さんなのね」

 あずさおねーちゃん、その年で2号さんは別の意味に聞こえるから口に出すのは止めた方がいいよ。
 近くにいた真美もその意味に気付いたのか、笑いを必死に堪えている。バター犬、改めジローは不満げに私を睨みつけた。

 もちろん亜美はこの犬の本当の名前なんて知らない。
 だけど、なんといっても亜美が拾い主なんだから、名前は亜美が決めるもんでしょ。
 理由を問われれば『捨てられていた場所の近くに某有名なラーメン店があったから』ということにしておこう。
 名前なんてそんなもんである。オモイツキ、ムイシゼン、イカスミレーション。なんて素敵な響き。

「何か騒がしいと思ってきたら、また亜美か」
「へへー。にーちゃん、この犬飼ってもいいかな?」

 ジローに視線を伸ばす。目が逢ったジローは亜美の言いたいことが分かったのか、いたいけな瞳でにーちゃんを見つめていた。
 捨て犬の本能なのか、それとも経験なのか。なにはともあれジローのつぶらな瞳はにーちゃんの良心を大いに揺さぶったらしく、

「……ちゃんと世話するんだぞ」
「はーい」

 そうしてジローは765プロの家族となったわけである。いいハナシだねぇ。

『小学生のくせになかなかズル賢いね』
『これでもアイドルやってますから』

「あっそうだ。にーちゃんにーちゃん」
「エサ代は経費で落とさないからな」
「分かってるって。それよりはい」

 携帯をポケットから取り出し、にーちゃんに手渡した。
 にーちゃんは何だかよく分からないといった顔。「写真とってよ」と伝えると、「へいへい」と言ってレンズを私達に向ける。

「じゃーとるぞー。げいのうじんはー」
「はがいのちー」


 kakimaster06.jpg



 私はゆきぴょんの後ろに回り、にーちゃんの言葉に合いの手を入れた。
 ピピっと高い音が鳴り、シャッター音が切れる。

『"げいのうじん"というのは、歯が綺麗じゃないとダメなのかい?』
『"へのツッパリはいらん"ってことですよ。おわかり?』

 亜美の返事に少し不満げな顔をしながらも、ジローはうぉうと一声返事をした。
 敬愛するヤキニクマン曰く、『へのツッパリはいらんのです!』
 特に意味はない。意味がないからこそカッコイイのだ。これが亜美のモットー。覚えておいて損はないよ?

 缶は九台。話題転換ともいう。
 犬を飼うことになったわけですが、その世話はもっぱら亜美がすることになるわけで。もちろん散歩もそれに含まれる。
 ニット帽を深めにかぶって、事務所の近くをのらりくらりと散歩する。それが仕事終わりの日課となった。



 月曜日の正午過ぎ、晴天。
 冬の日の太陽はあたたかく、亜美達は公園のベンチに座って近所の子供が遊んでいる様子を眺めていた。
 人語をのたまうヘンテコな犬は、これまた器用に肉まんをぺろりとたいらげ、気持ちよさそうに瞳を閉じている。

「冬の日はやはり肉まんに限るね」
「肉まん食べる犬なんて、初耳だけど」
「犬にだって好き嫌いくらいあるさ」

 たとえばビーフならロース、マトンならヒレ、チキンならササミ……って、全部肉じゃん。
 肉まんドロボウといえば、悠々とベンチで昼寝をきめこんで、それはもう憎たらしい位に和やかな顔で。
 私はコンビニ袋から缶ジュースを取り出し、コンチクショウとフタを開ける。もとはといえば亜美のものだったのに。 

 ベンチのそばにいたハトは束の間の日向ぼっこをタンノーしていて、
 地元の少年少女達は、楽しそうにサッカーボールを追いかけていた。

「平和だねぇ」

 お茶をすするようにジュースをすすり、私は公園の様子を楽しみながら時間を潰すことにした。
 ゴールを決めたのだろう。リーダーらしい男の子が勝利のおたけびを上げ、盛り上げ役の子が少年をはやし立てる。
 見た目からすれば亜美と同じ位の年だろうか。みんながみんな楽しそうにボールを追いかけていた。

「あら、亜美ちゃん」

 そういえばどうして私はこんなところで時間を潰しているのだろう。そんなことを考えていた頃だった。
 平日の昼の公園のような、どこか時間がゆっくりと流れているような、そんな聞き慣れた声がした。

「あずさおねーちゃん」 






  ―――― 迷子のアルゴー船 ――――





「こんなところで会うなんて、思ってもみなかったわ」

 あずさおねーちゃんはゆっくりとベンチに腰を下ろした。

「散歩してたんだ」
「こんな時間に?」
「お仕事ないし、冬休みだから」

 グラウンドを抜ける鋭いパス。ノロマな男の子はその速さに間に合わず、取り損ねたボールがこちらに転がってくる。
 あずさおねーちゃんはそのボールを取り、男の子に向かって放り投げた。ごめんなさい、とヤケに弱気な声が返ってくる。
 どうやらその子はサッカーがあまり得意じゃないみたいで、味方のエース達にしっかりしろよとヤジを飛ばされている。
 それでもボールを追いかけるその子を見ていると、何だかため息を吐きたくなった。

「下手なら止めればいいって思った?」

 その言葉にはっとして、あずさおねーちゃんの方を見る。
 あずさおねーちゃんは、怒っている風でもなく、ただいつも通りのほんわかとした笑顔を浮かべていた。

「だって、面白くないだろうし」

 面白くもないゲームなら、しなければいい。わざわざ動き回るようなポジションにつく必要なんてない。
 ゴールキーパーとか、ディフェンスとか。亜美から見れば彼にふさわしい場所なんていくらでもあった。
 そっちの方が活躍できるだろうし、味方の子から冷たい視線で見られることもない。
 それでも彼はひたすらボールを追いかけ続けていた。その姿に何故かイライラする。結局彼はカッコ悪く動き回っているだけで、

「ダサいだけじゃん」
「そうかしら」
「そうだよ」

 英雄気取りのサッカー少年達を、私は頬杖をつきながら観察する。

 まるで自分がこの世の主人公みたいに思っちゃって
 自分は必ずヒーローになれるとか勝手に勘違いして
 そのくせ見えてるはずの現実を見ようともしてない

 ほら、またボールをとりそこねた。みんなから冷たい目で見られてるの、気付いてるっしょ?
 自分でもひねくれてるなって思う。そう気付いてるのに、直そうともしないのがまたひねくれてる。
 ぐるりぐるりと答えの出ない迷路に迷いこんで、一つため息。あらあらとあずさおねーちゃんは笑った。

「私はああいう子、嫌いになれないかな」
「そりゃ、あずさおねーちゃんはオトナだもん」
「そうかもしれないわね」

 あずさおねーちゃんは眩しいものを見るみたいに目を細める。

「でも、それだけじゃないと思うの」
「……亜美にはよく分からない」
「きっと分かるようになるわ」

 だって亜美ちゃんだもの。そう言ってあずさおねーちゃんは私の頭を撫でた。その優しさに思わず目をつむってしまう。
 もし年の離れたおねーちゃんがいたら、こんな感じなのかな。
 さっきの少年が取り損ねたボールがこちらまで転がってくる。あずさおねーちゃんはそれを拾ってグラウンドにパスを出した。
  
「じゃあ、そろそろおいとまするわね」

 ありがとうございまーす!という元気のいい少年の声を背に、あずさおねーちゃんは亜美の方に振り返った。

「亜美ちゃんはどうする?」



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「もう少し、考えたい」

 あずさおねーちゃんは、怒ることもなく「そう」とだけ答えた。
 隣ではジローがまるで他人事みたいに居眠りをしている。お腹を撫でるとくすぐったそうに足元をよじらせた。

 前の飼い主に捨てられたことを忘れられないのだろうか、ジローは亜美があげるご飯をあまり食べたがらない。
 エサの入ったボウルを見ただけで食べることなくそっぽを向く。たくさん食べたと思えば、すぐにえづいて吐き出してしまう。
 そんな感じだったから、もともとやせていたジローの身体はさらにやせ細り、骨のごつごつが目に見えてわかるようになった。

「ねぇ、あずさおねーちゃん」

 パパやママにどうしたらいいの?って真美と一緒にたずねてみたことがある。家族みんなで夕食を食べていたときだ。
 ゴールデンタイムのテレビを見ると、キレーなにーちゃんやねーちゃんに混じって『私』が映っていた。
 パパはそれを見ながら、ママの得意料理である煮込みハンバーグにナイフを入れて「何か嫌なことでもあったんだろうね」と答えた。

   どうしたらそれを忘れてくれるの?
   犬って生き物はとても賢くてね。覚えたことは忘れないものなんだよ
   じゃあどうしたらいいの?

 パパは小さく切ったハンバーグをフォークで刺して、こう言った。

   楽しい思い出で塗り替えればいいんじゃないかな

 あははとゴールデンタイムらしい笑いの声が部屋に響く。テレビに映っていた『私』もそれに合わせて笑う。
 きっとそうすればすぐに食べるようになるさ。そう言ってパパはママにご飯のお代わりを頼んだ。
 真美がとても悲しそうな顔をしていたから、大丈夫、亜美達ならきっとなんとかなるって!と励ますと、
 「亜美は強いね」と言ってちょっと冷めて硬くなったハンバーグを食べ直し始めた。

 その頃から、どうしてだか真美の背中が少しずつ遠いように感じ始めた。
 遠くに感じてしまう理由なんて分からなかったけれど、結局そのときのハンバーグは少し残してしまった。
 
「ジローは、亜美のこと嫌いなのかな」
「どうしてそんなこと思うの?」
「なんとなく」

 無理やり食べさせようとしているから嫌われるのかなって。そう言おうとすると、あずさおねーちゃんは両手で亜美の顔を包んだ。
 寒さでかじかんだ耳先が、温かい手の平に触れて血の気を戻していく。息を吐くと、機関車みたいに白い煙がぽかんと洩れる。 
 煙に合わせて視線を上にやると、あずさおねーちゃんはふわふわのヒツジ雲みたいな感じの笑顔を浮かべていた。

 まるで超能力みたいに、あずさおねーちゃんの気持ちが伝わってくるような気がした。秋色の毛布でくるまれたような、そんな感じ。
 ぼうっとその顔を見ていると、あずさおねーちゃんはしゃがみこんで亜美をのぞきこむ。深い深い夕暮れの空のような瞳。
 どうしてそんな顔ができるんだろう。亜美もオトナになったらこんな顔をするようになるのかな。

「犬の飼い主として、センパイになるのかしら」

 笑顔のまま、あずさおねーちゃんは遠い目をして公園を眺めた。
 サッカー少年達は一休みといった感じで、すべり台をかこんで何やらおしゃべりをしている。

「犬にもその子なりの性格みたいなものがあってね」

 公園のグラウンドでボール遊びをする柴犬を見ながら、あずさおねーちゃんは缶コーヒーを一口すすった。
 びゅうと風が吹く。その寒さに私はダウンジャケットの中に身を縮こませた。枯れ葉の切れはしが空高く舞い上がる。

「あの子に比べると、この子は少し臆病な子なのかもしれないわね」
「うん」

 ジローの頭をなでると、「ぐぐぅ」と気持ちよさそうな声を洩らした。こんなに心配してるのに、当の本人(犬だけど)はどこ吹く風。
 別に怖がられてるわけでもないし、嫌われてるわけでもないんだろうけれど。
 だけどやっぱりエサを食べてくれないと困る。だって亜美はジローの飼い主だし。枯れ葉がひらりひらりと枝の間をすり落ちる。
 そんな亜美の気持ちが分かっているのか、あずさおねーちゃんは私の頭をぽんぽんと撫でた。

「多分だけど、亜美ちゃんはきっと試されてるのよ」
「何を?」
「『オレ様はこんなに無愛想なんだぞ』『カワイクないぞ』『それでも飼ってくれるのか』みたいな」
「……ホント、かわいくないね」

 飼い主の悩みなど知らんわほっとけといった感じで眠っているから、急にイタズラしたくなって私はジローの鼻の穴をふさいだ。
 数秒して息が苦しくなったのか、ジローはかわいくない顔をしかませ、亜美の手を振り払った。
 柴犬の飼い主らしいオジサンが、いかつい顔をくしゃくしゃにしてボールをくわえた犬をほめたおしている。
 ぐっぼーい!ぐっぼーい!柴犬はぶんぶんと尻尾を振る。色んな意味でミスマッチだよ、オジサン。

 そうだ、もしジローが言葉を話すなら、きっとオジサンの声にしよう。気難しいオジサンの声がいい。
 子犬のくせに無愛想な顔をして、コイツがしゃべっているのを想像した。その姿がおかしくて私は吹き出してしまう。
 
 ナニヲスルー。ヤメナイカー。ワタシハネムリタイノダー。適当に声をあてて、適当にジローの気持ちを代弁してみる。
 あずさおねーちゃんは苦笑して、ジローはお腹をつっつき回されて鼻をふくらませた。
 セクハラダーウッタエルゾー。ヨイデハナイカーヨイデハナイカー。アーレー。
 そんな感じで即席アテレコごっこをしばらくの間楽しんだ。ひとしきり笑って満足した私はベンチから立ち上がる。

「あずさおねーちゃん。もし今ジローが話すとしたら、どんなことを話すと思う?」
「そうね……」

 あずさおねーちゃんは少しの間考え込んで、戦隊ヒーローの三下戦闘員みたいな声でこう言った。

 < キョウハコノクライデカンベンシテヤル! オボエテロー! >

「じゃないかしら」
「あはは!いーよ!すごいいーよあずさおねーちゃん!めっちゃそれっぽい! ジロー!!」

 名前を呼ばれたジローは、ピンと耳を動かして私の方に顔を向ける。
 私は飲み干した缶ジュースの缶を地面に立て、力いっぱい空に向かって蹴り上げた。
 威勢のよい金属音と一緒に、缶はくるくると空の真ん中に飛び立った。


 モヤモヤしてるものはモヤモヤしてるままで
 振り払っても振り払ってもずっとモヤモヤで
 だけど、たまにスカッと晴れるときがあって

 亜美は、そんな空がめちゃくちゃ好きだった
 どんなモヤモヤもキラキラに変えてくれる空


 キレーな放物線を描いて、空き缶は地面に落ちる。
 カランカランと跳ねた缶を、のそのそした動きでジローは追いかけ始めた。

「ねぇ、亜美ちゃん」
「なに?」

 空き缶をくわえるのにアクセント句読点しているジローを二人で眺めていると、あずさおねーちゃんは私に尋ねた。
 さっきまでのほんわかとした顔とは少し違う、有無を言わせないお姉さんの顔。ほっぺたがきゅっと引き締まる。


「                 ?」

 それはとても大切な、亜美が亜美でいるために、とてもとても大切なこと。


「……うん!約束するよ!!」

 少し考えて、だけどやっぱりこれしかないって思った。私は二カっと笑って、あずさおねーちゃんの言葉に応える。
 それでこそ亜美ちゃんね、とあずさおねーちゃんは亜美の言葉に満足そうに頷いた。
 もし亜美がアイドルを止めたとしても、これだけはゼッタイのゼッタイに譲れない約束なのだ。












 ……約束?何を約束してたんだっけ?



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 結局のところ、亜美はあずさおねーちゃんの問いかけに答えることができなかった。
 あずさおねーちゃんが公園からいなくなっても、私はしばらく足元に転がった空き缶をじっと眺めていた。
 ころころ、ころころ。何も入っていない空き缶を蹴っては転がし、また蹴っては転がす。

「約束を忘れてしまったのかい?」

 そんなつまらない時間潰しをしていると、横からあのオッサンくさい声がまた聞こえてきた。
 サッカー少年達はお昼ご飯の時間なのか、気付いたら公園からいなくなっていたことに気付く。
 柴犬のオジサンも公園からどこかにいってしまったみたいで、まるで亜美だけが一人ぽつんと取り残されたみたいだ。 

「約束なんていっぱいあって何のことだか分かんないよ」

 たぶん知ってるはずなのに。このオッサン声の犬がいう『約束』が何なのか。あずさおねーちゃんが聞きたかった言葉が何なのか。
 だけど思い出せない。思い出したとしても、このままとぼけてずっとここにいたい気がした。モヤモヤする。足をすり抜ける風が肌を刺した。
 空き缶を立てて、モヤモヤした心のままヤケっぱちに缶を蹴り飛ばした。間の抜けた音を立てて、空き缶はグラウンドに飛んで行く。

「約束なんてのはさ、守るためにあるもんじゃないし、破るためにあるもんでもないよ」

 カラカラと冬風に乗って転がっていく空き缶を追いかけることもしないで、ただじっと見つめながら言葉を続けた。

「約束ってのはさ、人を出し抜くためにあるもんなんだよ」

 電線が揺れて、低い音を空に響かせた。空を覆う薄っぺらい雲が、ベルトコンベアみたいにずるずると動いている。
 我ながらなんてヒネてるんだろうって嫌になった。物事を斜めに見ることができなくなった自分が嫌だった。
 多分約束ってのは、守るためにあるもんじゃなくて、破るためにあるもんでもなくて、もちろん出し抜くためにあるもんでもない。
 分かってるけど。分かってるけど。



   大ぐまのあしを きたに いつつのばした ところ。
   小熊のひたいの うえは そらのめぐりの めあて。


   何それ?変な歌だねー。
   でしょでしょ?意味分かんないよねー。


 ねぇ真美? 亜美分かんないよ。
 亜美は真美のこと、一番知ってるはずなのに。真美のこと、全然分かんないよ。

 奥歯を噛み締めて、カカトでグラウンドに線を引く。エッジの効いた深い線は、まわりの土でぼかしても消えてくれなかった。




  ―――― 星くずのアステリズム ――――




 どぶん!

 コブシくらいの大きさの石を川の中に放り込むと、かわいげのない音を立てて水しぶきが上がった。
 こんなところで自分は何をしているんだろう。超音波みたいにいくつも浮かんだ波の輪っかは、静かに流れて消えていく。
 あれからしばらくぼーっとしたけれど、あずさおねーちゃんの後は追いかけられなかった。
 足元にあった石を拾って、また投げる。どぶん!輪っかが消えたら、また投げる。別に何が楽しいってわけでもないけれど。

「これはアイドルの仕事なのかい?」
「アイドルだって遊びたいときくらいあるよ」

 そう答えて亜美はもう一度石を川に放り投げた。スナップを効かせずに放り投げた石は、水面を跳ねることなくざぶんと沈む。
 川に住んでるお魚さんには悪いけど、まぁぶつかることなんてないだろうし。せいぜい困るのはサワガニさんくらいだろう。



   月がきれいな夜だった。
   あんまりにも月が明るいから、眠らないで屋根の上に登って、真美といっしょに白い息をはいては夜空を眺めた。

  『へっへーん。ふたご座みーっけ!真美の勝ちー!』
  『うそだー。真美ゼッタイ見つけてないでしょ。亜美だってもう見つけたもん。亜美の勝ちだよ!』
  『じゃあ証明してみせてよ。どの場所でどの角度なら見えるのか。………ほーら、言えないじゃん』
  『そんなことないない!真美が見てないだけだもん!真美のズルっ子!』
  『それを言うなら亜美の方がズルっ子だ!』

   アイドル活動を始めた頃、こうやって真美と二人で星座を探していた。
   どっちが先だとか喧嘩するのも遊びみたいなもので。そんな意味のない遊びを眠くなるまで続けていた。



 そういえば学校の教科書でそんなお話を読んだことがあったっけ。梨が川に落ちてお酒になるお話。金色の梨のお酒。
 先生のお話は覚えていないけれど、こんなお酒を一度飲んでみたいなぁって、そこだけは何故か覚えている。

 太陽の光を受けて、川がキラキラと銀色に輝いていた。遠くに見える橋の下、誰かがトランペットを吹いている。
 青春だねぇ。亜美さん感動しちゃうよ。そんなことを考えながら風に揺れる雑草を眺めた。
 お昼過ぎの土手はそれなりに温かくて、ノラ猫が丸くなって日向ぼっこしている。ぐぅうとお腹の虫が暴れ始めた。

「ほら言わんこっちゃない。子供は朝昼晩しっかり食べるものだ」
「亜美の肉まん食べたくせに、よくそんなことが言えるね」
「私が言いたいのは、そういうジャンキーな食べ物を食べるなということで、おっと」

 ヘリクツをこねる犬(自称)は、途中でしゃべるのを止め、ワンワンと土手の階段の上に向かって吠えた。
 階段からのびる影は、ゆっくりと亜美達のもとに近付いてきた。

「亜美ちゃん?」



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「やっぱりここにいたんだ」

 ウォウ!とジローはゆきぴょんに挨拶をした。それを聞いたゆきぴょんは身体をこわばらせる。そうだ、ゆきぴょんは犬が怖いんだった。
 別にジローはゆきぴょんを驚かしているわけじゃないんだけれど、こればかりは仕方ない。慌ててジローの口をふさいだ。
 ジローは不満そうな目つきでこちらをにらむ。どうして?と言いたげな感じ。気持ちは分からないでもないからデコチョップは軽めにした。
 ゆきぴょんはいつジローが飛びついてこないか心配しながら、おそるおそる亜美の隣に座った。

「どうしてわかったの」
「亜美ちゃん、何かあると散歩から帰ってくるの遅いから」

 だから散歩の途中で寄り道してるんじゃないかな、って。
 最近免許をとったという原チャが土手の脇にとめられていていた。多分あれに乗ってここまで探しにきてくれたんだろうな。
 別にそこまで気にしてくれなくてもいいのに。そうは思ったけれど、なんとなく嬉しかった。

「何かあったの?」
「何かあったらそれっぽいんだけど、これといって何もないんだよ」

 そう言って私は石を放り投げた。出来損ないのいん石みたいな形をしたそれは、ざぶんと川の中に落ちる。
 向こう岸で釣りをしているおじいさんが、迷惑そうな顔をしてこちらを見つめているような気がした。
 少しばつが悪くなって、拾った石を元に戻す。そんな大したものが釣れるとは思わないけれど。手持ちかさぶたになった私はほお杖をつく。

 何かがあれば話したりとかできるわけなんだけど、何もないから困っているのだ。
 もうすっかり夏だと思っていたのに、気付けば冬になっていたみたいな。
 そんな区切りのない変化。だからなんとも説明しにくい。土手の上を自転車が通っていく。

「ゆきぴょんはさ、ふたご座の一等星の名前知ってる?」
「ポルックス、だったかな」
「そうそう、ポルックス」

 カラカラに乾いた土の上で、アリがひょっこり姿を現した。目の前を行き交う様子が少しウザくて、スニーカーの裏で踏みつける。
 ぺちゃんこに潰れたその周りを、二匹目は驚いたように動き回る。しばらくすると二匹目は別の道を歩き、一匹目を避けて巣に帰った。

「あれね。昔パパに聞いたんだけど、ポルックスは弟星なんだって」

 確か酔っ払ったパパが物知り顔で言っていたような気がする。
 別に年上を敬えとかそういうつもりじゃないけれど、なんとなく珍しくて。不思議とずっと覚えている。
 冬の星空の一角をなす星が、兄星じゃなくて弟星だなんて、まるで、

「亜美ちゃんみたいだね」
「そうそう、なんか面白いっしょ?」

 7つ目の石を投げた。

「……真美がね、なんか遠くにいっちゃうような気がするんだ」
「真美ちゃんとケンカしたの?」
「ううん。何となくそう思っただけ」
 


   本当に、それだけなんだ。

 
 
 下手くそなトランペットの音を聞きながら川の流れを見つめていると、流れが止まっているように見えた。 
 釣りをしていたオジサンも、隣にいるジローも、色の薄れた空の下でうつうつと船をこいでいる。
 ゆっくり弾いたチェロのような音を連れて、風が水の上を滑る。綿毛が白く軽く宙を踊った。

 なぜだか分からないけれど、こんなに時間がゆっくり流れているのに、誰かから何かを急かされているような気がして、
 学校のスケッチの時間で何を描いたらいいのか分からないまま、ただ時間だけが過ぎていくような、そんな気分だった。
 膝を抱えてぼんやりと川面を眺めていると、ゆきぴょんは静かになったジローの身体を優しく撫でていた。

「亜美ちゃんは真美ちゃんが嫌いになったの?」
「そんなことない。亜美は真美のこと大好きだよ」

 私の言葉を受けて、ゆきぴょんは笑った。
 何がいいのかなんて分からなかったけれど、何となく亜美も笑った。
 うん、大丈夫。きっと大丈夫。

 居眠りにも飽きたのか、ジローはむくりと起き上がって目の前の川に飛び込んだ。寒いくせに物好きなヤツめ。
 犬は水遊びが好きとは友達から聞いていたけれど、まさかここまでとは。そう思っていると川の上手からボールが流れてきた。
 ジローはそれをくわえ、また亜美達がいるところに戻ってくる。そのキラキラとした青い目が言うには、

 < お嬢さん、私と一緒にボール遊びをしないかい? >

「……だってさ、ゆきぴょん」
「へ?わ、わたし?」
「だってゆきぴょんの方向いてるし」

 急にゴシメーを受けたからか、ゆきぴょんはジローのくわえたボールを取るのに遠慮しているようだった。
 手を伸ばしては引っ込み、伸ばしては引っ込み。ああやっぱりゆきぴょんにはまだ早すぎる遊びだったんだね、亜美分かったよ。
 そんなゆきぴょんにシビレを切らしたジローは、ぶるりとそのずぶぬれの体をふるわせる。水しぶきがモロに直撃した。
 ちくしょーこの借りは100万倍にして返してやる。そう思って服についた水滴を落としていると、

「あー!みっけた!」

 向こう岸から、真美の声がした。
 ゆきぴょんが手を振っているのを見ると、多分事務所のみんな総出で亜美のことを探してるのかもしれない。
 別にそんなことしなくてもいいのに。みんな忙しいはずなのに。ああもう、子供一人にみんな何やってんの?
 はずかしくって、くすぐったくて、むずむずした。

「亜美ちゃん」 ゆきぴょんが言った。
「              ?」


 まただ。また思い出せない。とてもとても大切なことのはずなのに。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「真美ちゃん、今日デビューの日なんでしょ」
「そうだよ」

 どうして今日なんだろうって、ずっと思ってた。
 本当なら心の底から応援したいはずなのに、今日だけは絶対にできないのに。真美はそれを知ってるはずなのに。
 ハンバーグのときから感じていたイガイガした何かが、今日という日をXデーにしたみたいに膨れ上がっていた。

「行きたいなら行けばいーじゃん」
「でも」

 ゆきぴょんは言葉を途切れさせる。穴のあいたタコが、枝にひっかかってバサバサと羽を揺らしていた。
 まるで昔のカエルのおもちゃみたいだった。空気を入れると飛び跳ねる、ジャンピングカエル。
 前に進みたくてもヒモに引っ張られて、ずっと同じところばかりを飛んでいる子供のおもちゃだ。

「真美ちゃん、ずっと待ってるよ」
「待ってたとしても、行かない」

 私の言葉を聞いたゆきぴょんは、「どうして?」と小声で聞いてきた。
 みんな亜美のことを心配してくれてるのは分かってる。だけど、ああもう。どうしてみんな――――
 私は歯を食いしばって、体の奥でぐつぐつ煮えたぎってくる何かに耐えようとした。

「真美ちゃん、亜美ちゃんが来てくれたらきっと喜ぶよ」

 分かってるよ、それ位。ゆきぴょんは私の肩に触れようとした。
 それがダメだった。その目も、その手も、指の爪の間からも、亜美に対する気持ちが見えたような気がしたから。

 それは、心配という皮をかぶったドージョー
 それは、よかれと思ってなされるオセッカイ
 それは、コセーという名のタマシイの切分け
 
 そんなモノばかりが、今の亜美には見えてしまった。

「ゆきぴょんにはどーせ分かんないよ!」

 それから先は、もう止められなかった。
 ずっと、ずっと、ずっと心の中にたまっていたもやもやが、せきを切ったようになだれ込んでくる。
 ずっと、ずっと、ずっと心の中で聞こえていた不協和音が、調律をなぎ倒していびつな言葉になる。




 「真美を一番知ってるのは亜美で!亜美を一番知ってるのは真美だよ!」
            真美と一緒にいた時間は、嘘じゃないって信じたいんだよ!
 「ゆきぴょんは亜美じゃないっしょ!亜美のことなんて分かるわけないじゃん!」
                 どうせ亜美のことなんて、みんな真美と比べて見てるだけじゃん!
 「あずさおねーちゃんも!ゆきぴょんも!どうしてみんな真美の味方ばかりするの!」
            亜美がアイドルの名前をもらったから?真美がかわいそうだから?
 「真美が亜美よりもおねーちゃんだから?真美の方がアイドルに向いてるから?」
                 亜美もアイドルしてるよ!真美に負けたって思ったことなんてないよ!
 「真美は聞きわけがよくて!亜美はワガママばっかりだから?」
            亜美、離れたくないよ!亜美は真美とずっと一緒がいい!
 「双海亜美は!亜美と真美がいて!初めて双海亜美なんだよ!!!」



     真美が離れていっちゃうなんて、イヤだよ




 
 宝物のビーズのアクセサリのエナメル線が、こすり切れてバラバラと道路に落ちたみたいな気持ちになった。
 何度直しても、もう元には戻らないような気がした。いつも見てたはずなのに、元の形が思い出せない。
 どうして直せないんだろう。とてもキレーだったことは、ちゃんと覚えているはずなのに。

 トラックのタイヤが土手の砂を巻き上げる。空は川を映して、青すぎる位に青くふるえていた。
 目がかゆくなるほど舞い上がった砂けむりが風にのって消えていくまで、ゆきぴょんはじっと亜美を見つめていた。

「確かに私は亜美ちゃんの全部を分かってるわけじゃないよ」

 人間なんてどれだけ仲良くても腹の奥で何考えてるか分かるもんじゃないし、さらりと言って原チャのカギをくるくる回す。

「だけど、私が知ってる亜美ちゃんは、亜美ちゃんじゃないの?」

 ちゃりん、とステンレスがぶつかる音をゆきぴょんは右手で握り締めた。
 どうしてそんな難しいことを聞くんだろう。質問に答えあぐねているうちに、ゆきぴょんは土手の階段の方に向かっていた。
 ゆきぴょんは何も言わなかったけれど、きっと真美のところに行く。だって、ゆきぴょんはゆきぴょんだから。
 行って応援するだけなのに、ただそれだけなのに、どうしてそれができないんだろう。

「行くか行かないか。亜美ちゃんの好きにしたらいいよ」

 そう言って、ゆきぴょんは乗ってきた原付のエンジンをうならせた。
 亜美はただ、だんだん遠くなっていく姿を見つめることしかできなかった。
 素人丸出しのトランペットを吹いていた人も、向かいで釣りをしていたオジサンも、気付けばいなくなってしまっていた。







「行かないのかい?」

 前にも後にも踏み出すことができないまま立ちすくんでいると、またあのオッサンくさい声が聞こえた。
 
「行かない。今日だけは、絶対に真美を応援できない」
「大切なおねーちゃんの初の晴れ舞台なのに?」
「そうだよ」

 排水用の土管からどぶどぶと洗剤混じりの泡が流れていくのを眺めながら、一年前のことを思い出す。
 一年前の今日。慣れないアイドル活動にようやく光が見えてきて、ジローと仲良くなり始めてきた日で、

「……今日はね、ジローが真美に捨てられた日なんだ」







   オリオンは高く うたい つゆとしもとを おとす、
   アンドロメダの くもは さかなのくちの かたち。

   あー、亜美知ってる!オリオンの三つ星ベルトだ!
   きっとあれで変身するんだよ!冬の星座のヒーローだもん!



 ねぇ真美。亜美は真美のこと、一番知ってるはずだよね?
 それなのに、なんでそんなことしたの? 亜美の知ってる真美は、そんなことするはずないのに。

 我知らずといった感じで流れる川が無性に気に入らなくて、コンクリートの欠片を投げつけた。
 スナップを利かせて投げたそれは、5回水面を跳ねた後、勢いを失ってちゃぷんと川に落ちた。





     なんでだろうな

          すごい、ぐらぐらする
  







  ―――― ふたご星のピクシス ――――




 それは亜美がヒーローショーに出演した後のことだった。

「ウソだよね?」

 大好きなヒーローのショーに出演すると決まったときは、めっちゃ嬉しかった。
 だって、自分もヒーローになれるから。世界を変えることができるから。それが脇役だったとしても。
 学校の授業中にこっそり台本を読み直して、家でも何度も読み直して、ヒーローになった自分を想像した。
 お客さんはまばらだったけれど、それでもヒーローになって悪の怪人を倒した瞬間の拍手はサイコーだった。
 
 悪役を倒したときのドキドキをそのままに、事務所に帰った後のことだった。

「ゴメンね。亜美」

 正義のヒーローは、困ってる人を助けるんだよ。そうじゃなきゃ、ダメじゃん。
 空っぽの犬小屋の前、真美は申し訳なさそうな顔をして亜美にリードを押し付けた。
 使いなれたリードはしっくり手の平に収まって、リードの向こう側にいるジローがいないことが不思議だった。

「いなくなったって、逃げちゃったの?」
「分かんない」

 川で遊んでいて気付いたらいなくなってた、だなんて。そんなめちゃくちゃな言い訳、ウソにもならないよ。
 仕事の打ち合わせがあるからと言って、真美は亜美を置いて事務所の中へ戻っていった。
 ぽつんと一人ガレージに残された私は、どうすることもできなくて、ただ主のいない犬小屋を眺めていた。

 ねぇ真美、もしかしてジローを捨てちゃったの?
 事務所の誰かに言われたから?実はジローが嫌いだったとか?
 
 そんなことあるわけない。何度頭を振りかぶっても、まるでカゲボウシみたいにその考えがついて回る。
 どうみてもスプーンの形にしか見えないのに、それはクマのしっぽなんだよと笑われたときのあの感じ。
 同じものを見ているはずなのに、どっちが本当で、どっちが嘘なのか、全然分からない。

 ヒーローショーの記念にと、二人分もらったヒーローのお面がやけに薄っぺらく感じた。









「分かんないよ」

 行きたいのか、行きたくないのか。行ったとして、どう応援すればいいのか。
 どちらにしろ真美の大切な晴れ舞台を前に、ハリボテの笑顔で会いたくなかった。じゃあどうすればいいんだろう?

 新幹線がうなりを上げて空を切り裂いていく。信号機の声がここまで聞こえてくる。
 ハヤクフミキリワタレ ハヤクフミキリワタレ
 目覚まし時計のように鳴る鐘の音に思わず耳をふさぎたくなった。ガコンと線路のポイントが切り替わる音がする。

 川を眺めていると、真美の顔が揺らいで見えた。枯れた水面の上で、鏡を見るように私はその顔を見続けた。

 
「少しいいかな」

 声の方に目をやると、ジローそっくりのあの犬がこちらを見つめている。

「なに」
「いや、今の君が昔の真美くんとよく似ていたものでね」
「オジサン、真美と話したことあるの?」

 そうたずねると、犬のオジサンは一つ笑ってから、ウオオオンと空に向かって大きく吠えた。
 その真夜中に聞こえる消防車のような声に驚いたかのように、草かげからムクドリがいっせいに姿を現す。
 一体何が起こったのか分からないうちに、数えきれないほどのムクドリが空を深く染め上げていった。

「肉まんのお礼に、見せてあげよう」

 話し方はうんざりする位にオッサンくさいのに、その瞳は冬の一番星みたいに輝いていた。 
 突然暗くなったのに川はキラキラと光ったままだった。ゆっくり水の底をのぞきこむと、さっきと変らない風景がそこにあった。


 ただ、それがこちらの世界を無視して動き出した以外は。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 川面の向こう側にいた真美は、浮かない顔をしてこちらを眺めていた。
 色違いのダウンジャケットは1年前に買ったお気に入りで、えりもとに頭をすぼめながらココアを飲んでいる。

「ジローにそんなこと言っても仕方ないか」

 真美はため息をして隣に座っている犬を撫でた。あずさおねーちゃんがもう使わないものだからといって譲ってもらった首輪。
 あの妙にオッサンくさい仕草と、子犬のくせに昼間っからぼーっと居眠りしているソイツは、まぎれもなく1年前のジローだ。
 だから、今亜美が見ているのは1年前のジローと真美なんだってことが分かった。

 真美の気持ちを知ってか知らずか、ジローは大きなアクビをした。その姿に苦笑しながら、真美は近くにあった小石を川に放り投げた。
 ざぶん! 見ている世界が揺れる。投げられた小石は金色の梨のように水面に溶けて消えていった。

「亜美はすごいよね」

 別に誰かに話しかけているという風じゃなかった。真美はただ水面に反転して映る自分の姿を見て、ひとり言をつぶやいている。
 ダウンジャケットは違っていても姿形はそっくりそのままだから、自分が誰を見ているのか分からなくなる。
 真美は1年前に練習したショーの台本を身振り手振りで再現し始めた。懐かしい変身ポーズと、必殺技の決め台詞。
 ふと気付く。真美、それ亜美のお仕事なんだから、練習しなくてもいーじゃん。

「正義は勝つ!どうだ思い知ったか!」

 ぐおああああ!とご丁寧にやられた怪人の役までこなして、真美のショーは終わった。
 りりしいヒーローの顔を作り、決めポーズ。魚がステージを通り抜けると、真美は少し悲しそうな顔になった。
 それじゃダメじゃん。正義のヒーローってのは、そんな顔は絶対にしないよ。真美。

「……やっぱり、亜美みたいにはいかないね」

 ハンバーグを食べていたときに見た、あの顔だった。

「亜美になろうと頑張っても、結局真美は真美だし」
「亜美になれたと思ったら、亜美はもう真美が知ってた亜美じゃなくなってるし」
「……亜美のこと。一番知ってるはずなのに、なんでだろうね。分かんないよ」

 真美はヒーローのトレードマークのスカーフ(にみせかけたハンカチ)を首から取り、ぱっと手放した。
 赤いハンカチは静かに川の上をすべり、ゆっくりと水に流されていく。
 ゆらり、ゆらり。浮かんでは沈んで、とどまっては流されて、遠くの中州にひっかかった。

「うぉん」
「ジロー?」

 ジローは、突然起き上がって川の中に飛び込んだ。水しぶきと空気の泡が深く広がる。
 遊んでくれるのかと勘違いしたのかもしれない。ジローは中州にひっかかったハンカチをくわえてもどってきた。
 ふさふさの毛をずぶずぶに濡らして、あのつぶらな青い瞳を真美に向ける。

「……そうだね。約束したもん」

 約束。約束。亜美と真美との、約束。

 その言葉を聞いたジローは、ぶるりと身体をふるわせた後、ウオオオンと空に向かって大きく吠えた。 
 うおおおおおおん うおおおおおおん 声がコダマする。揺れる水面が景色を変える。
 水の底に沈んだ小石が、まるでホタルのように光を放って浮かび上がってきた。





   『あずささん。私、亜美ちゃん連れてきた方がよかったんでしょうか』
   『どうして?亜美ちゃんは来なかったんでしょう?』
   『それはそうですけど』

    ゆきぴょんとあずさおねーちゃんは、どっかの歩道橋の上で流れる車を眺めていた。

   『……もう少し、待ってみようと思います』
   『やさしいわね』
   『ワガママなだけです』

    右手に持ったカギをくるくる回しながら、「原付乗るなんて久し振りです」とゆきぴょんは苦笑いした。

   『あずささんは、亜美ちゃんが来るって信じてますか?』
   『もちろん』

    排気ガスでけむった歩道橋の上で、あずさおねーちゃんは背伸びをして携帯を開く。
 
   『私もちょっとお節介してみようかしら』






    あかいめだまの さそり ひろげたわしの つばさ
    あおいめだまの こいぬ、ひかりのへびの とぐろ。 





    思い出したのは、いつかどっかで聞いたことのある。ほしめぐりのうた。
    夜のビロードの上でバラバラに散らばった星をつなげるための歌。

   『ほら、こうすれば迷わずに星が見つけられるんだって』
   『真美すごい!何かヒミツの呪文みたいじゃん!!』
   『でしょでしょ!スゴイっしょ!!』

    ほっぺたがピリピリ痺れる位に冷え切った空の下で、私と真美は星座を眺めていた。
    音にのせて、数えきれない位の星と星の間をつなげていくと、キラキラとしたダイヤモンドが出来上がった。
    すごいねーと白いため息をつきながら見ていると、真美がなぜだかとても心配そうな顔で私に話しかけてきた。


   『もしもだよ。真美が亜美からはなれちゃっても、亜美は真美のこと応援してくれる?』


    それはたぶん、真美にとってはめちゃくちゃ大切な約束で。

   『そんなのトーゼンじゃん!ってゆーか、応援しないなんてあるわけないっしょ!』
   『そうかな?』
   『もちろん!あの星にちかって約束するよ』

    ぱっと目についた星を指差して、私はそう答えていた。
    思い出した。大切な約束。どうして私はこのことを忘れてたんだろう。







    最後に映ったのはどこかの楽屋だった。
    真美はヒーローの衣装を着て、誰かとおしゃべりしていた。

   『そんな昔にした約束なんて、普通忘れてるんじゃない』
   『別に覚えてなくってもいいんだよ』

    よく分からないけれどね、と言葉を置いて真美は真面目な顔で鏡を見る。鏡ごしに目があったような気がした。
    もうすぐ本番なんだろう、その顔はもう私の知ってる真美じゃなかった。だけど、めちゃくちゃカッコよかった。

   『約束ってさ、守るもんでも、破るもんでも、出し抜くもんでもないと思うんだ』

   「「 だけど、覚えていてくれたら、めっちゃうれしいよ 」」
 
    きっとそうだよね。真美。






   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆






「いつだって気の向くまま、心のままに生きるのがモットーだったよね」
「そうだよ、それが亜美だから」
「それじゃあ今はどうしたいか、分かるね」
「うん」

 とんとんと地面につま先でリズムを叩く。軽く深呼吸して気持ちを落ち着ける。

「急げば間に合うって、ゆきぴょんは言ってた」

 いや、違う。間に合う間に合わないなんて大した問題じゃない。
 気持ちを伝えに行くんだ。カッコ悪くても、情けなくても、私はそうしたい。

「もう大丈夫だね」
「うん」

 私はスニーカーのひもをきつく結んだ。二重しばりの上にさらに結び目を作る。
 どれだけ走ってもほどけないように。ほどけたとしても走り続けるために。

「お別れの時間だ、お嬢ちゃん」
「うん。じゃあね、ジロー」

 私の言葉を受けて、ヘンテコな夢を見せる犬はヒゲを立てて笑った。
 力いっぱい地面を蹴りつける。やたらオッサンくさい犬の姿はもう見えなくなっていた。





  ―――― チシャナ星人のカプリシーオ ――――





 河川敷の階段を駆け上がって、もと来た道を引き返す。
 ペースとかそんな頭のいいことなんて考えるヒマなんてない。最初から全力疾走だ。
 砂だのホコリだのがバシバシ顔にぶち当たる。カラカラにかわいた空気を切り裂いて、私はただ走った。
 走って、走って、走ることしか考えなかった。ツバから血の味がした。それでも走った。

「真美はね……もっと自信を持っていいんだよ」

 ショーがあるデパートに通じる幹線道路にまで辿りつく。信号が赤に変わっていったん立ち止まる。
 体中が酸素を求めて息が暴れまわる。頭がクラクラする。これだけ全力で走ったのっていつだったっけ? 
 息がひゅうひゅうと音を立てていた。うるさい。いいから言うこと聞いてよ。
 そうしてる間にも目の前の車はびゅんびゅん通り過ぎて行く。なかなか青に変わらない信号にイライラして電信柱を蹴りつけた。


   真美知ってる?亜美っていうのはね、真美の次の子っていう意味なんだよ。真美が私に負けるわけないじゃん。
   知ってるからこそ余計に悔しかった。生まれたのがほとんど同じクセに、お姉さんぶっちゃってさ。
   勝手に自分でナットクしちゃってさ、勝手にはなれてくなんてさ、ずるいよ。


 時計を見ると、もうショーは始まっている時間になっていた。ちくしょう、とアイドルらしからぬ言葉を道路に吐き出した。
 1秒だけでもいい。たった一言でもいいから、今の私の気持ちを真美に伝えたいんだ。きっと真美は待ってるはずだから。

「亜美ちゃん!!」

 聞き慣れた声がして顔を上げると、原チャに乗ったゆきぴょんがそこにいた。

「いいから乗って!!」

 そう言ってゆきぴょんは原チャの座席に私を乗せて、エンジンをフル回転させて原チャを発進させた。
 いきおい上がるスピードに、身体が後ろに飛ばされそうになる。ゆきぴょん、それたぶんきっとスピード違反だよ。
 ネリマノミナサンゴメンナサーイ!!とか弱い声で叫びながら、ゆきぴょんのバイクはスポーツカーをぶち抜いていく。
 
 そこまでスピード出さなくてもいいよ!アイドル人生クラッシュアウトしちゃうよ!腕を叩くとゆきぴょんはにこっと笑った。
 ああ、なんとウムを言わさぬ笑顔でありましょう。視界を過ぎ去る標識は、数字を確認することもできないまま通過していく。
 ビル越え橋抜けドリフト決めて、あっという間にデパートへ。原チャって、こんなにスピード出るんだね。びっくりだよ。
 デパートの入り口で急停止すると、ゆきぴょんは私を座席から放り投げた。

「まだ間に合うから!早く!」

 いつもの「こんなダメダメなワタシは穴掘って埋まってますぅ~」と言ってるゆきぴょんはそこにいなかった。
 まるでほっぺたに傷のある自由業の人みたいな迫力で、その迫力に背中を押された私は再び全力疾走を始めた。
 休日のデパートはムカツク位に人が多くて、香水やらオシャレな服やらを楽しんでいる人にぶち当たった。

「どこ見てるんだ!ちゃんと前向いて歩け!」
「歩いてたら間に合わないだよ!このズラ頭!」

 売り言葉には2倍返しの買い言葉を。返ってくる返事なんか待ってるヒマはない。
 真っ赤に怒ったオッチャンオバチャンガキンチョの声をくぐり抜け、私は階段を駆け上がった。


   ねぇ、真美。
   真美が私からはなれちゃったら、あっという間に遠いところに置いてかれそうな気がして
   私は、それがイヤで、怖くて、よくわからないヘリクツばっかこねて目をそらしてたんだ
   真美は、もうずっと前にそれを見つめていたんだよね。カッコ悪いなぁ、私。

 
 ずらり、目がくらむほどに立ちはだかる階段のカベ。逃げようかな、と思う気持ちをバシンと足で踏みつける。
 おお、何と愚かな双海亜美。間に合いもせぬ双子の片割れに、ただ想いを伝えるために愚か者になるというのか。
 んなこと知るかバッキャロウ。ダウンジャケットを脱ぎ捨てて、私は階段を駆け上がり続けた。

「何かしらあの子、お行儀が悪いわね。マー君はあんな子になっちゃダメよ」
「そんなの分かってるよ。ってゆーか、あんなカッコ悪いことするわけないじゃん」

 そんな感じの声が何度も耳に入った。だけど知らない。謝るなら後でいくらでもゴメンナサイしてやる。
 屋上まで後2階。もうフラフラで、息をしてるかも分からなくて、頭の中は「イソゲ!」という言葉しかなかった。



   神様、ホトケ様、ああもうなんでもいいけどスゴイ人様!
   私は忘れてました。とってもとっても大切なこと。


   ニンゲンってのは、めちゃくちゃバカで、めちゃくちゃ熱い、想いのカタマリでした。


   あきらめるのがオトナだとか、コセーだとかサイノーだとか、一人で分かったような気になって。
   変にカッコつけた気分になって、私は、本当に本当に大切なコトを忘れてしまいそうになりました。

   オセッキョーでもなんでも、いくらでも聞きますから。だけど今だけは見逃して下さい。
   今日だけは、今だけは、これだけは、どうしても伝えなきゃいけないことなんです。
   許してくれなんて言わないから、お願いします!!



 あと一階、心臓が音を立ててオーバーワークを訴える。うるさい。この身体の主はこの亜美様だ。
 もうちょっとだから! だまって、おとなしく、いうことをきけ!!
 鈍くしびれたふとももを強く両手で叩きつけ、また上を目指す。トレーナーも短パンも汗でぐしょぐしょになっていた。



    神様、神様。私の声が聞こえるなら、
    アイドルじゃなくても構わないから、
    サンシタの戦闘員でも構わないから、


    真美と同じステージに立たせて!!




 階段を登り切ると、目の前では真美が出ているはずのヒーローショーが始まっていた。
 1年前と変わらない景色がそこにあった。もやがかかりそうになる意識にピシャリと喝を入れて、ステージの楽屋裏に向かう。
 楽屋の扉を開けて衣装部屋に入ろうとすると、予想通りカンケーシャの人に腕をつかまれ引き戻された。

「なにやってんだ!!」
「いいから!ステージに出させてよ!!」
「そうは言っても君はまだ子供だろう。ちゃんとした契約書がなければステージには入れないよ」
「そんなこと分かってる!!だけどステージに立ちたいの!!」

 警備員の人達が私を取り囲む。どうして、こう、オトナってやつは、コドモが言いたいことを分かってくれないんだろう。
 まるでネズミが入り込んだような視線が私に突き刺さる。ぎりりと私は歯を食いしばった。

「契約書があれば、ステージに立つことができるんですよね」

 この一食豚カツした空気にふさわしくない、間の抜けた声がした。

「そりゃ、契約だからな」
「それでしたら、これがちゃんとした契約書です」

 私を取り囲んでいたカンケーシャのオリを開いて現れたのは、あずさおねーちゃんだった。
 一体何が起こったのか分からずぼうっとその姿を見ていた私に、あずさおねーちゃんはチャーミングにウィンクを一つ飛ばした。

「早くしないと、間に合うものも間に合わなくなるわよ」

 全面テッカイ。オトナって、ときどきコドモでもやらないことをやってしまう。
 あずさおねーちゃん。それ、どうみてもカイザン文書ってヤツだよね? そんなことを衣装部屋に向かいながら考えた。
 まぁ、このサイどーだっていいけど。






  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆







 双海真美デビューライブの当日。春香は、小鳥とプロデューサーと、デパートの屋上に向かっていた。

 亜美は結局ここに来ることはなかった。しかし今日が双海真美の記念すべき初の活動日には違いない。
「何か欲しいものは無いか?」と、プロデューサーに尋ねられた小鳥は、コーラが飲みたいですと答えた。
 その年でコーラを飲みながらヒーローショーを見ることになるとは。プロデューサーは溜息をついた。

「記念すべき真美ちゃんのデビューライブなんですし!子供たちに混ざって、パーっと盛り上げちゃいましょうよ!」

 プロデューサーは頷いた。
 真美のライブが決定してからも、亜美が真美を真正面から応援できずにいた姿を見ていて、心苦しかったせいもある。
 せめて亜美の代わりにと、今日は春香と小鳥と三人で、ショーを見に行くことに決めた。
 こういうときは験を担ぐものだからと、荷物の中に昔使った衣装を詰め込む小鳥を、春香は、少しばつが悪そうに見ていた。

「荷物が重たくなっちゃいますよ、小鳥さん」
「春香ちゃんが、昔ここのショーの日に使った、大事な衣装だもの」
「だからって怪人の衣装まで用意することないじゃないですか」
「まぁそうだけど。ショーが成功して欲しいから、応援しにいくわけだけど。春香ちゃんも、いっしょに来てくれるでしょう?」

 可愛い後輩の記念すべきデビューライブだ。春香としても断るつもりはなかった。
 プロデューサーの車に乗りこんで、昔通っていたデパートに到着すると、真っ先に、ポスターが目に付いた。
 デパートの掲示板の隅の方に、聞き覚えのないヒーロー戦隊のポスターが貼られている。
 確かにヒーローショーなんて、今の子供達には縁遠いものなのかな。春香はかつての自分を思い出し、苦笑いした。

 それでも屋上の景色は昔とあまり変わらなくて。屋上に到着した春香は、思い出と共に大きく息を吸った。
 自分がここで仕事をしていたのは何年前だろう。ステージの上の天海春香には気づけても、私服の春香には全く気づかないようだ。
 ぼそぼそと小さく聞こえる子供たちの声を耳に流しながら、春香は小鳥に尋ねる。

「そういえば、プロデューサーさんは?」
「コーラ買ってくるから少し待っててくれ、だって。一足先に、ショーを見ていましょうか」

 ヒーロー戦隊ショーは15時から16時の予定だった。あの頃と変わらないままの時間に少し懐かしさを覚える。
 開催予告の放送チャイムが何度か流れ、子供たちがぱらぱらと集まりはじめた。
 春香は遠慮気味に、肩を小さくして座っていた。隣で帽子をかぶっている小鳥にも、子供たちは興味をしめさない。
 子供たちの今日の注目の的は、もちろんステージに登場するヒーロー。春香が以前立っていたきらめくステージの主。

 猛々しいオープニングの曲が屋上に降りそそぎ、初お披露目のヒーローが会場を席巻した。
 子供たちが甲高い声をあげ、真新しいショーに興奮している。春香も目にするのは久し振りだ。
 新しいアイドルの誕生を前に、小鳥は興奮していた。今にも席から立ちあがりそうな勢いで、きゃあきゃあとはしゃいでいる。
 あまりにも夢中で、足元の荷物が転がってしまいそうだ。春香は、慌ててそれを引き寄せた。やっぱり重たい。



     ≪ 発射準備開始 ≫
     ≪ 第一第二液体燃料システム、準備完了 ≫



 それなりの宣伝費用をかけたショーは、それなりの見ごたえだった。揃いの衣装も使い回しだし、その動きもどこか古臭くて。
 左右のスピーカーから流れ出すノイズ混じりの効果音。ステージを包む薄い白煙。ステージを降りた怪人が観客席に現れた。

『あっ、怪人め、子供たちに何をする!?』

 前方に座っていた子供が、呆気なく捕まってしまった。抵抗することもなく、醒めた目つきで怪人の腕を眺める女の子。
 軽々と抱きあげられると、ステージまで連れて行かれてしまう。
 ショーの司会者と、変身前のヒーローたちが、悪逆非道な怪人のことを、これでもかと罵倒している。
 その中に真美はいた。王道のヒーローらしく、愛と正義を言葉にのせて。



     ≪ 打ち上げ10秒前 ≫
     ≪ 水消音システム起動 ≫




「あの子、怖がってないですね」

 さらわれた子供と目が逢った春香と小鳥は、そのまっすぐな視線を素直に受け止められなかった。
 あの頃見ていた光とは違う。女の子はぼんやりと、ただ自分の役目が終わるのを待っているようだった。
 楽しんでもらうべき子供が一番醒めているなんて。怪人も、ヒーローも、司会者も、全てがシナリオの上で空回りしている。

『みんな、ヒーローを呼ぼう! 名前を呼べば、ヒーローが現れるぞ!』

 藁をも掴むように、司会者が大きく観客席をあおると、観客席の熱がわずかながら上がってゆく。
 気を取り直してステージに向き直ると、司会者は怪人の横に進み出た。女の子に一言二言、声をかけている。
 女の子は小さく頷いて、マイクに向かって質問の答えを発した。

「ヤキニクマン」
「よーし!さあみんなで呼ぼう!せーの!!」


  『 ヤキニクマーン! 』


 観客の声を受け、一際大きな炸裂音と天井のスポットライトがステージを飾る。真美の登場だ。
 その勇姿をしっかりとフィルムに収めようと、春香が携帯電話のカメラをステージに向けた時だった。
 雪歩からの着信通知。訝しげに携帯を見る春香の顔を見て、小鳥は春香の携帯に耳を寄せた。

「うん…うん……うん………ってええ!!」

 予想外の情報に素っ頓狂な声を上げた春香の隣。事情を把握した小鳥は立ちあがった。その手がバッグに伸びる。
 春香は、驚いてそちらを見上げる。小鳥の手には、かつて着ていた衣装。アイドルと、怪人の衣装の2着。

「春香ちゃん」 小鳥は衣装を鞄から取り出す。
「亜美らしい祝辞ですよね」 春香はもう一つの衣装を確認する。

「全く、初めから言ってくれたらいいのに」
「後でみっちり反省会ですね」

 かつて昔、ここで輝いたヒーロー達が二人、ステージの外の観客席でニヤリと笑った。



  ※ ※ ※ ※ ※


 
 3人分のコーラを買ってきたプロデューサーが、屋上を訪れたのは、その10分後。

「えーっと。春香と小鳥さんは、どの辺りだろう?」

 きょろきょろと観客席を見まわしていたプロデューサーは、ふと聴き覚えのあるイントロに気づいて、足を止めた。
 この曲はヒーローショーの曲じゃない。ステージの空気が一気に温度を上げて、子供たちがそれに反応する。
 色とりどりのヒーローソングに勝るとも劣らない、傲慢不遜なヒールソング。
 「オーバーマスター」のイントロを背に、黒いサングラスをかけ、不敵に笑う戦闘員がステージの屋根に立っていた。


   ねぇ、証明してみせてよ。真美。
   正義のヒーローは、私が認めたアイドルは、どんな悪役にだって負けないんだってこと。
   どんなにピンチでも、何度挫折しても、絶望しても、きっと勝利を掴み取るんだってこと。

 
 真美とそっくりの顔、ぴったりの背丈。この時初めて、プロデューサーはその戦闘員が亜美であることに気付いた。
 どうしてステージに、脚本なんて知らないはずだろう、色んな言葉がプロデューサーの頭の中をかけめぐる。
 そんなプロデューサーの姿など露知らず、亜美扮する戦闘員は敵意のこもった指先を力強く真美に突き付けた。




     ≪ メインエンジン点火 ≫
     ≪ 3...2...1... ソリッドロケットブースター 点火 ≫




 司会者は、慌ててマイクのプラグをアンプから引き抜く。それでも、予期せぬ展開に観客席からざわめきが起こった。
 ぶぅんと不気味に響くビバーブ音。本来なら出てくるはずのない無名の戦闘員。予定調和の歯車が、少しずつ狂い出す。
 どうしたんだ、なにがあったんだ。疑念の空気は徐々にステージを侵食していく。

 ステージの関係者は、大きな過ちを二つ犯していた。
 ひとつは、偶然舞台裏に乱入した少女が、このステージのヒーローの宿命の好敵手だったこと。
 そしてもうひとつは、かつてこのステージで活躍したヒーローが、新たなヒーローの誕生を見守っていたこと。

 その過ちは、本当ならシナリオにいないはずの悪役を、ステージの上に生み出した。

 なんてこった。プロデューサーの声は、喉で凍りついた。
 観客の声を受け、シナリオのアウトロに乱入した戦闘員は一際大きな声で啖呵を切った。






 『 愛だとか自由だとか優しさだとか!ありきたりすぎて反吐が出るね!子供ナメてんじゃねーよ!! 』





       ≪ Lift off! ≫





 戦闘員は、力強く屋根から飛び立った。どこまでも突き抜けていきそうな青い空だった。



  ※ ※ ※ ※ ※



 やたら派手な音を立てて、私はステージに着地する。うーん100点満点。我ながら惚れ惚れしちゃうね。

「おいおいヤキニクマンさんとやら!子供のヒーロー名乗んなら!俺を倒してからにしな!!」

 私の言葉を受けて、事情がイマイチ理解できていない真美は、それはもうヘンテコな間抜け面をしていた。

「……亜美?」
「双海亜美?そんなヤツ知らないね、俺の名は……」

 そこまで言って私は気付いた。そういえばこの怪人の名前を決めてなかった。
 ああもうじれったい。ふと頭をよぎった言葉をそのままに、私は真美に向かって名乗りを上げる。

「チシャナ星人だ!!覚えとけ!!」

 ここまで、約2秒。

 我ながら素晴らしい発想である。会場のお客さんはぽかんと口を開けたままだけど、気にしない。
 名前なんてそんなもんである。キマグレ、チャランポン、カプリコーン。なんて素敵な響き。
 何と言っても、この怪人は私なのだから。コイツの名前は私が決めるもんだって相場が決まってる。

「……いや、亜美じゃん」
「ええいウルサイ!!"へのツッパリはいらん"のだ!!」

 チシャナ星人の返事に一瞬不思議そうな顔をした後、真美はニヤリと笑った。
 敬愛するヤキニクマン曰く、『へのツッパリはいらんのです!』特に意味はない。
 意味がないからこそカッコイイのだ。これが双海亜美のモットー。


   本番はここからだよ、真美。用意はできた?


 私はたっぷり時間をとって、最強のライバルらしい構えをとる。
 身体にいくつもの視線がひしひしと突き刺さる。息を飲む声が聞こえてくる位にピリピリした静けさ。
 そうだよ。ショーたるものこうでなくちゃ。私を見た真美は、それにビビることなくヤキニクマン最強の必殺技のポーズを構えた。

「悪いけど、チシャナ星人なんかに地球の平和は渡さないよ!!」
「望むところだ!全力でかかってこい!!」

 力いっぱい地面を蹴りつけ、私は真美に向かって突進した。





  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 その後の話を少ししよう。

 当然といえば当然なんだけど、悪役ってのはヒーローに勝てるわけないのが世の中のジョーシキってやつで、
 クレバーで空気の読めるチシャナ星人、こと私もそのジョーシキにもれず負けることになった。


    キョウハコノクライデカンベンシテヤル!!オボエテロ!!

 
 それはもう悪役らしく、みっともなく、みじめに、情けなく。
 私がスモークを抜けていなくなった後のお客さんの声援はヤキニクマンに向かって投げかけられていた。
 まぁヒーローショーの悪役なんてそんなものである。なんだったかな、ヒキニクヤク?

 少し抜けているあずさおねーちゃんが作ったケーヤクショはすぐニセモノだってバレて、
 はるるんとピヨちゃんに借りた怪人の衣装はダサイだのジダイオクレだのとクレームが入って、
 暴走族ハダシのゆきぴょんはケーサツにキップとやらを切られたそうだ。
 亜美もその原因の一つらしく(っていうか別に頼んでもないのに)、にーちゃんと一緒にカンケーシャの人に頭を下げた。

「とりあえず必死に頭下げときゃいいんだよ。それが誠意ってヤツだから」

 ぼそっと呟いたその言葉が妙に頭に残っている。いや、たぶんそれはダメだと思うんだよ。にーちゃん。
 そんなこんなで真美のデビューライブは新聞にデカデカと載ることになった。理由はあまり聞かないでほしい。

 そんな挨拶回りにも一段落ついた頃、冬休みも終わりになったころだろうか。
 カーテンを開けると、外の空気にあてられた窓がひっそりと冷たくなっていた。
 窓のくもりを手で拭いとると、スカッと晴れ渡った空。星がスパンコールみたいにキラキラ輝いている。

 私は残った冬休みの宿題に苦戦している真美を誘って屋根の上に登った。
 もっと早く誘いたいと思っていたけれど、曇り空続きだったからとか、心の準備といいますか、色々あったわけですオーライ?
 私は理科の教科書を逆さにして、夜空の星の名前を探していく。

「おおぐまのあしを、きたに。いつつのばした、ところ」
「ほしめぐりのうた?」

 一つ首を縦に振ると、真美は軽くあくびをしながら私の隣に立った。

「亜美がこの歌覚えてるなんて、ちょっとビックリしたかも」
「そりゃ、夜空のちょ→有名アイドルの歌ですから」

 二カっと笑って、私達は夜空の星をつなげはじめた。




   大ぐまのあしを きたに いつつのばした ところ。
   小熊のひたいの うえは そらのめぐりの めあて。

   オリオンは高く うたい つゆとしもとを おとす、
   アンドロメダの くもは さかなのくちの かたち。

   あかいめだまの さそり ひろげたわしの つばさ
   あおいめだまの こいぬ、ひかりのへびの とぐろ。 


        ふたごぼしの ともだち



  『順番が違ってるじゃないか』

   オヤジ臭いあの声が、空のはるか遠くから聞こえたような気がした。






 <了>





【追記】

今回のSSでは、宮沢賢治作「銀河鉄道の夜」「やまなし」「ほしめぐりのうた」、太宰治作「走れメロス」
及び、一枚絵で書いてみm@ster 第5回 Changes. の一部の文章を引用・翻案したものを使用しました。
当該翻案及び使用に関しましては、Changes.作者の寓話先生、ガルシア先生からの許諾を頂いております。
巨匠宮沢賢治氏、太宰治氏へ、一枚絵企画へ、そして素晴らしいSSを書いて下さった御二方への感謝を込めて。

チシャナ星人のカプリシーオ 作者:小六


コメント

  1. トリスケリオン | URL | UzUN//t6

    拝読いたしました
    亜美と真美、比較される事が多いのは多分当人達が一番よくわかっていることで、
    それを当人達の目から、また他人の目から見ると本当に双子であっても当たり前のように悩みは違って 
    双子だからこそ同じ部分を共有したいのに反発しあうこともあるという矛盾を科抱えながら成長
    してるんだなとある意味娘を見ている気分になりました
     先に表に出ている亜美をおいかける真美の心境、後から追われる立場になる亜美の心境 
    二人とも不安なのにこればかりは一番信頼する相手に相談できない苦しみ
     御互い解っているようで一番解ってない悩みを、他の仲間の手を借りながら一歩一歩
    大人の階段を上っていきながらも、子供の強さも忘れていない そんなお年頃の女の子の心の動きを
    とても丁寧に、また何か懐かしさを感じさせる表現に自分の子供時代を思い出しました 
    子供の心も大人の心も 大切にしたいなと

  2. 月の輪P | URL | VFkxEMUo

    空気を読んで、感想投下!

    なるほど、このもどかしくも、懐かしい感性は宮沢賢治をモチーフにしていたからなんですね。
    物心がつきはじめ、どうやら世の中は想像以上に退屈だと知ってしまう、そんな一瞬を切り抜いたかのようなSSだと感じました。
    物心の同義語は分別であるらしいです。亜美は迫り来る分別と戦っていたのかもな~、とも思いました。

  3. 小六 | URL | -

    コメントありがとうございます!

    コメント、拍手ありがとうございます!小六です。
    少し色々とドタバタしておりまして、返信が遅れてしまい申し訳ございません。
    以下、返信となります。

    ≫トリスケリオン様
    >亜美と真美、比較される事が多いのは多分当人達が一番よくわかっていることで、
    >それを当人達の目から、また他人の目から見ると本当に双子であっても当たり前のように悩みは違って 
    >双子だからこそ同じ部分を共有したいのに反発しあうこともあるという矛盾を科抱えながら成長
    >してるんだなとある意味娘を見ている気分になりました

    僕は双子ではないのですが、双子だったとしたらこういうことがあるのかなぁと想像しながら書いておりました。
    双子といっても亜美と真美という具体的な人物像がありますので、この二人を見ながらどんな感じだろうなぁと。
    このSSは以前島原さん、トリスケさんと簡単企画として書いたあみゆきのSSが根底にあって、
    それを今の自分が書いたらどうなるんだろうと思いながら書いたものであったりします。
    亜美と真美は二人ともが二人とも個性的な子なだけに、普通の子よりも意外と人間性が確立してるんじゃないかなぁ
    そんなことを妄想しながら設定を考えてみました。


    > 先に表に出ている亜美をおいかける真美の心境、後から追われる立場になる亜美の心境 
    >二人とも不安なのにこればかりは一番信頼する相手に相談できない苦しみ

    亜美が言うように年功序列とは言わないのですが、なかなか変な話だと思うんです。アイドル「双海亜美」って。
    普通に考えれば「双海真美」の方が自然なはずなのに、なぜ「双海亜美」にしたのか。
    それをカスカスの脳みそでうんせうんせと考えた産物が今回のSSでした。
    信頼できる人に相談できないっていうのはなかなかに苦しいものだと思います。
    いつもは相談できるはずなのにできない、そういうときって本当に自分との闘いになるんじゃないかなぁ…と。
    そういう不安や苦しみみたいなものを、川の場面で表現してみました。


    > 御互い解っているようで一番解ってない悩みを、他の仲間の手を借りながら一歩一歩
    >大人の階段を上っていきながらも、子供の強さも忘れていない そんなお年頃の女の子の心の動きを
    >とても丁寧に、また何か懐かしさを感じさせる表現に自分の子供時代を思い出しました 
    >子供の心も大人の心も 大切にしたいなと

    本当に765プロの子達はいい人間ばかりで、性悪根暗ダメ人間の僕からはとてもまぶしく見えます。
    「団結」ではないですけれども、きっと悩んでいる子がいたら、なんとかして助けようとするのではないでしょうか。
    本当にいい子達ばかりですよね。懐かしいという気持ちとともに、自分の子供時代もこうだったらなぁと
    書きながら羨ましく思ってしまいました。



    ≫月の輪P様
    >なるほど、このもどかしくも、懐かしい感性は宮沢賢治をモチーフにしていたからなんですね。
    >物心がつきはじめ、どうやら世の中は想像以上に退屈だと知ってしまう、そんな一瞬を切り抜いたかのようなSSだと感じました。
    >物心の同義語は分別であるらしいです。亜美は迫り来る分別と戦っていたのかもな~、とも思いました。

    銀河鉄道をモチーフにしたのは結構思いつきみたいなところがありまして、双子を書こうと考えて資料を漁るわけですが、
    今回はボーカロイドのPVに大変お世話になりました。
    亜美真美→下田さん→リンレン という感じで探していたのですが、

    西沢さんP・グライダー絵師さんの「迷子ライフ」
    keen(ファイトP)・グライダー絵師さんの「自由気ままのB級人生」(カプリシーオはここから頂きました)
    キャプミラP・グライダー絵師さんの「枕木」
    ゆちゃP・mileさん・矛盾さんの「空想パレット」

    …等々をイメージベースに作っておりました。
    そこで、キャプミラPさんの幻想論シリーズにずぶずぶとハマってしまい、ああ銀河鉄道みたいだーと考え、
    それならいっそ銀河鉄道いれちゃおうぜ!小学校で勉強した本の内容入れちゃおうぜ!ついでにChanges.も混ぜ込んじゃおうぜ!!
    みたいな感じでイメージベースを固め、それにキリンジの「悪玉」を混ぜ込んでストーリーを組んでみました。
    もうやりたい放題です。だからお前のSSは意味不明な電波が飛んでいるんだと。はい、反省してますが楽しかったです。
    こんなSSにあの名作を翻案させて頂いたものを使用することを許して頂いた寓話様とガルシア様に感謝雨嵐です。

    子供からみたら、世の中って味気ないものなのかもしれませんね。だからこそバカっぽい遊びを作るのかもしれません。
    物心の同義語は分別だったのですか。なるほどなるほど、確かに世界と自分の線引きをするという意味では同じですね。
    12歳って本当に繊細な年頃ですよね。
    というか思春期の女の子って本当に繊細で瑞々しくて不健全で羽化する前のサナギを見てるみたいで素敵ですよねはぁはぁ。
    そんな思春期変態の作りだしたお話でした。本当に(ry
    肉まんの話でしたが、実はそこまで配慮が至らず、お恥ずかしいばかりですww
    まぁあの犬は犬であって犬じゃない存在なので、きっと肉まん食べても大丈夫かなと、そう考えて頂ければ幸いです。


    ≫匿名様

    書いているときに何でこんなに書きにくいんだろうと考えて、複線3ラインの伏線付きだからだということに気付いたのは
    半分くらい書いてからでした。イメージ組んだら即発車、こんにちは、見切り発車に定評のある小六です。
    タイトルが「カプリシーオ(奇想曲)」ですので、全体的なイメージを考えながら本当に感覚的に書いていたと思います。
    そう考えると本当に読み手の方を置いてけぼりにするようなものだったと思います。色々と反省ですね。

    言葉遊びは考えながら楽しんでましたwwwああいう遊びは大好きです。
    名は体を現すといいますが、亜美さんの「亜」というのは、確かにその通りなのですが、なかなかに奥深いです。
    本当に双子の方というのはどういう視点でもう一人の方を見ているのでしょうね。そういう意味ではかなり冒険でした。

    「」の中身につきましては、言っている人間ごとに微妙にニュアンスは違いますが、大体は同じニュアンスです。
    約束を思い出して、約束を果たそうとしたからこそ、亜美さんは怪人として真美さんのもとに向かいました。
    好きだとか嫌いだとか、そこまでは踏み切れませんでした。分からないところは分からないまま、それも一興ではないでしょうか。

    そして犬の正体ですが、まぁ普通の犬ではありません。
    ラストに亜美がほしめぐりの歌をつぶやきながら星を探したこと、そしてそれに対する「犬」のコメント
    亜美が「適当」に指をさして約束の証にした、冬の空の一つの星。あとは本当にかすかにしか書いていませんが、犬の瞳の色。
    亜美が雪歩さんに言った、ふたご座の「一等星」の話。
    ビーフ、ポーク、チキンではなく、ビーフ、「マトン」、チキンと言っていたこと。
    それで、あの犬の正体が分かると思います。
    彼は決して気まぐれに亜美のもとに現れたのではなく、約束を知っていて、見知った隣人だったからこそ現れたわけですね。
    こんなことあるわけないだろうと自分でも思いますが、こんなことがあったら面白いなぁと考えながら書いてみました。


    お読み頂き本当にありがとうございました!

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