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はるちはSS書きました

2010年10月03日 03:30

お久し振りです。小六です。
リアルちゃんや企画で色々とドタバタしておりますが、僕は元気です(何
さて、はるちはSSです。面白味が全くないものですが、少し書きたくなりまして。
短編にしては少し長くなりそうなので、とりあえず前半のみ。
テーマがテーマなので、じっくりと丁寧に書き込んでいきたいですね。
後半も近いうちに上げようと思います。


以下、SSとなります。



「似合っているかしら」
「はい、とても」

 私の言葉を聞いて、彼女は嬉しそうに笑った。
 真っ白に洗濯されたカーテンが、午後の風と戯れながら揺れている。私は椅子を後ろに引き、足元の冷蔵庫を開けた。
 もうあまり開けることもないのだろう。冷蔵庫の中には包装されたままの菓子折りや果物がひっそりと並んでいた。

「普段はあの子とどんな話をするの」

 私は冷蔵庫から林檎を取り出し、棚に置いてあったナイフの角で皮をむき始めた。

「色々話しますよ。ちょっとカタいなぁって思うときもありますけど」
「気難しい子でしょう?」
「ちょっとだけ」

 苦笑いしながら答えると、「根はいい子なのよ」と彼女は口元を緩め、ゆっくり目蓋を伏せた。
 皮を削り取っては林檎を回し、また削り取っては回す。ぷつりと切れてしまわないように、ほどよい厚さを保ちながら。
 冷たい箱の中で眠っていた林檎が、皮を剥いていく度にその甘い匂いを開き始める。

 コンコン。小気味良いノックの音に振り返ると、私をここに連れてきた張本人がドアの向こうで立っていた。 
 




        りんごと塩(前半)





 午前11時。小鳥さんの代わりに電話に出ると、看護婦さんの声が聞こえた。聞き慣れない名前の病院。
 どうやら千早ちゃんに用があるらしく、千早ちゃんに代わると、いくつかの言葉を交わした後、彼女は受話器を元に戻す。

「少し出掛けるわ」

 あまりにも落ち着いた声。ネジが擦れたような違和感。気付いたら私は千早ちゃんの腕を掴んでいた。
 急に引き留められた千早ちゃんは、一瞬顔を強張らせる。関わってほしくない、そんな気持ちが伝わってくる。 
 さらに強く握り締める。私の力が尋常じゃないことを悟ると、千早ちゃんは諦めたように表情を崩した。

「そんなに素敵なところじゃないわよ」
「分かってる」

 きっとそこは、千早ちゃんが思わず他人を拒絶するような場所なのだろう。だけど、それでも私は一緒に行きたかった。
 千早ちゃんの歩く先に何があるって知ってるわけじゃないけれど、私がそれをどうにかできるってわけじゃないけれど、
 何ていえばいいのか分からないけれど、千早ちゃんを一人にしておけなかった。

 それから外出する準備を整えて、電車を乗り換えること数回。
 次に乗る電車が来るのをベンチで待っていると、千早ちゃんは自分の指先を見つめながらぽつりぽつりとつぶやき始めた。

「祖母がね、体調を崩したらしいの」

 父と母は仕事が終わり次第来るらしいけれど、どうしても会っておきたくて。千早ちゃんはぼんやりとどこかを眺めながらそう言った。
 控え目な言葉。だけど、その話し方は空気の抜けた自転車みたいにガタガタと揺れていて、不安定だった。
 私はそれをそのまま受け取ることにした。ああそういうことかと無意味な相槌だけしか返せない自分がいた。

「うん」

 そりゃ何か千早ちゃんの気持ちが晴れるような言葉をかけてあげたいって思う。
 だけど、オブラートでくるまれた言葉は一度破いてしまうと、それこそさらさらと零れ出してしまいそうで。
 言ってしまえば最後、私一人の手には負えなくなるのではないか。そんな風に感じてしまって、ただ千早ちゃんの言葉を聞いていた。
 それこそ透明なオブラートのような何かが私と千早ちゃんの間に存在しているような気がして、それを破る勇気がなかったのだ。

 正午過ぎのアイランド式ホーム。足早に歩くビジネスマンや楽しそうにお喋りする女の人。目の前を色んな人が通っていく。

 ふと、自分の家族のことを思い出す。
 お母さんがいて、お父さんがいて、田舎にはおばあちゃんがいて。
 会話までは思い出せないけれど、何故かみんな笑顔だった。

 この時間、この場所で、千早ちゃんと同じような気持ちでベンチに座っている人がいればいいのに。今じゃなくてもいい、過去でも。
 そう願ってみたけれど、そんな人が目の前に現れることはないし、現れたからって何がどうなるってわけでもないのは分かっていた。

 どうしてこんなに人がいるのに、どうしてこんなに一人ぼっちなんだろう。
 
 駅のアナウンスが聞こえると、電車がゆっくりと速度を落としてホームに流れ込む。
 千早ちゃんは立ち上がって私の方を見た。私はまだベンチに座ったままで、そのまま千早ちゃんの姿を見上げる。 
 電車の扉が開き、ホームがにわかに騒がしくなる。

 ここでさよならを言えば、たぶん今まで通り笑って付き合えるのだろう。
 明日。いつも通りに会って、いつも通りに話をして、いつもと変わらない感じで聞いたら、今日の出来事を教えてくれるかもしれない。
 だけど、と頭の中に隙間風が入り込む。千早ちゃんを一人にさせたくない。千早ちゃんが見ている先を、私も一緒に見つめてみたい。
 そんな自分勝手な思いが目の前にことごとく現れて、どうすることもできない。
 
 結局私は目の前の電車に乗り込むことはできず、ベンチに座って動き出していく電車をただ見送ることしかできなかった。
 千早ちゃんはというと、私と同じようにぼうっと線路の先を眺めている。
 自分の行き先を決められないばかりか、千早ちゃんの予定まで狂わせるなんて、本当に何をやってるんだろう。
 手を振るように電車はライトを点滅させ、線路の先に消えていった。どうしようもなくて、私はただ「ごめんね」と呟いた。 

「一緒に来てくれるんでしょ?」

 落ち着いた声。その声が意味することが分からず、私は千早ちゃんの顔色を伺う。
 千早ちゃんは腕時計をちらりと確認した後、「だから、一緒に来てくれるんでしょう?」と困ったように笑った。
 午後1時ちょっと過ぎのことだった。







 <もうちょっとだけ続くんじゃよ>


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