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はるちはSS書きました

2010年11月26日 00:56

お久し振りです。小六です。
テメェ更新もせずに何してんだよ!と言われますと、
リアルさんとかリアルさんとかリアルさんに追いかけられていました^q^

そんなわけで、久し振りにはるちはSSです。
実は、大分昔に通りすぎた僕の誕生日に、「はるかさんぱんつはいてない」動画をお作りになられている、
魂が震えるような色感とセンスの持ち主、例えるならばニコマス界の宮沢賢治ことPKSPさんに素敵イラストを頂きました。

今回のSSは、そちらのイラストの御礼SSとなります。

以下、SSとなります。ちょっぴりファンタジー。




「夜って何のためにあると思う?」

 ひらり、ネグリジェが夜風にたなびく。
 風に揺れる白のドレープは海の凪を思わせ、その生地に宵の紫がうっすらと染み込んでいった。
 仰ぐ空に月はなく、ただ煌々と星が輝いている。

「何って、そりゃ千早ちゃん」

 そんなのに意味なんてないよ。
 そう言おうとしたけれど、千早ちゃんのやさしい、たとえるなら川鳥の羽毛みたいな表情に、私の言葉はくるまれてしまった。
 もごもごと言葉を濁す私がいる一方で、千早ちゃんはどことなしか嬉しそうな顔をしていて。
 私が話し出すのをじっと待っているような感じで、分かっているのに余計に話せなくなってしまって、私は星吹きパイプのリードをくわえた。

「今夜は時間がかかりそうね」 

 千早ちゃんは星の声に合わせてゆっくりとハミングを始めた。

 そらが ふるえる

 千早ちゃんの歌の後に聴こえてきたのは、ほんのりとつやめいた三等星のフラジオレット。
 それからいくばくもしないうちに、星屑で散らかり放題の夜空から、限りなく透明な糸がするすると私達のいる川面へ垂れてきた。
 その糸はまるでねばりけのない蜘蛛の糸のようで、空と川をしぃんと張ったそれがどんな音を奏でるのだろうと指を伸ばしたことがある。
 星守を初めて間もない頃だったと思う。指に触れた途端、それは雨の一滴となって川面へ落ちていった。
 
 さわれそうで、実はさわれないの

 私も初めてのときはそんな感じだったかしら。ちょっと残念な気持ちになっていた私を見て、千早ちゃんはそう笑った。
 それから三ヶ月とちょっと。夜の空気が熱を孕む季節。仕事にも少し慣れてきて、私と彼女は今も星守の仕事を続けている。
 二、三度繰り返して吹き込んだ空気袋はちょうどいい感じに膨らんで、空気を溜め込んだ山羊の毛皮が今か今かとその出番を待っている。

「ねぇ、千早ちゃん」
「なに?」
「千早ちゃんはさ、どうしてこの仕事をしようと思ったの?」




        眠れない君のためのセレナータ




 星吹きパイプを教えてくれた先生の言葉を思い浮かべる。ゆっくりと、だけど力を込めて、私は空気袋を手の平でぐうっと押し込む。
 空気袋につながるブンブン管は、おじいちゃんが吸う煙草みたいに、ぼっぼっと鈍い音を立ててから、目が覚めたように音を伸ばし始めた。

「別に、ここじゃなくてもよかったの」

 ぶうおおおおおおん、ぶうおおおおおおおん。ブンブン管が鳴らすサイレンの音と風に、星の涙糸が大きく揺れる。
 その糸を縫うように千早ちゃんは歌を歌い始めた。彼女が奏でるなめらかな旋律は、するすると星の糸を束ねてゆく。

 学校の先生が言うに、千早ちゃんは一万年に一度いるかいないか位の声の持ち主で、星が自然と彼女の声によってくる類のものらしい。
 私はそんな声なんて持ってないから千早ちゃんみたいなことはできないけれど、千早ちゃんの声は確かにきれいだなって思う。
 アルモニカの軽やかなヴィヴラート。ほら、向かいの土手のカラマツの近くにある星糸が、ひゅっと輝いて音を出してる。
 この仕事を初めてまだ間もないけれど、それでも千早ちゃんみたいに星糸が光るような紡ぎ手を私は見たことがない。
 その一瞬のまたたきに目を奪われていると、千早ちゃんはどこか寂しそうな顔をしてぽつりと呟く。

「歌って、それで生きていけるなら、それで」

 千早ちゃんは綺麗に束ねられた星糸にやさしく息を吹きかけた。頭上に広がる星達が、糸の動きに従ってゆらゆらとさざめく。
 まるで見えない妖精がいるみたいだ。自分が好きなメロディにしか踊りを見せてくれないような、そんな気まぐれな妖精。
 
「それなら。わざわざこんな仕事を選ぶ必要ってないよね?」

 この仕事は内容柄、太陽が沈んでからが中心になるわけで。生活リズムも狂うし、どちらかというとあまり好まれない部類の仕事だ。
 千早ちゃんみたいな人ならもっといい仕事あったんじゃないかなって。今でも結構色んな業界のお偉いさんから声がかかるっていう噂も聞く。
 そんな私の考えが顔に出ていたのかもしれないけれど、千早ちゃんは私を見て苦笑いした。

「実をいえば、あまり夜は好きじゃないの」
「好きじゃないなら、寝たらいいと思うけど」
「眠れないから、好きじゃないのよ」 

 子供っぽいかしら。次のポイントへ向けてオールを動かす彼女に、「そんなことないよ!」とフォローにもならないフォローを返す。
 眠れないから好きじゃなくて、好きじゃないから眠れなくて、また好きじゃなくなるから眠れない。
 なんとなく分かるような気もするけれど、やっぱりはっきりとまでは見えなくて。
 千早ちゃんの全てを知ることなんて出来やしないことくらい分かってるけれど、あの歌声みたいな凛と通った言葉で伝えて欲しい。
 歌こそ全てと言う彼女にとっては、歌以外はあまり意味のないものなのかもしれない。だからって、それじゃあまりにも。
 あまりにも。だけど、それは夜に意味を求めるのと同じようなことなのだ。そう思うと、胸のあたりがきゅっとした。
 
「今も眠れないの?」
「ぼんやりとは眠気は感じているけれど、眠ろうとは思えない。といった感じかしら」
「仕事がなくても?」
「そうかもしれないわね」

 だけど、夜の光に慣れてくると、今度は太陽の光が眩しすぎて見れなくなる。こめかみの奥が鈍く疼いてくる。
 だから仕方なくカーテンを閉めて、ぼんやりと横になるの。布団の中に入れば、そこが昼か夜かなんて関係なくなるから。

 ぎぃ。千早ちゃんはオールの動きを反転させて、舟をゆっくりと目的の場所に留める。
 私は舟に置いてある蛍石を抱え、そのままどぶんと水底へそれを沈めた。石に繋がれた鎖の山は、かすれた金属音と一緒に崩れていく。
 深くて暗い水の底で、ゆらゆらと光の姿を変えていくそれは、まるで頭の上に浮かんだ星のようにも見えた。
 自分が宇宙にぽーんと放り投げられたような感覚。ふわふわ。曖昧であやふやな場所だけど、私はここが子供の頃からずっと好きだった。

「ずっと昔ね、星守をしていたお姉さんから聞いた話なんだけど」
「春香にその楽器を教えてくれた人ね」
「うん。私、どうして星守は楽器とか歌がないとできないのかって、そう尋ねたんだ」

 暗くてよく見えない舟の上、私は目を凝らしながらコンパスを見て、星吹きパイプの先をベツヘレムの星の方角へ向ける。
 空気袋をそっと触る。やわらかいけれどそこには弾力が残されていて、あともうニ三回くらいは十分吹けることを確認した。
 千早ちゃんは舟のへりに肘を載せて、私の言葉を静かに待っている。

「人は嘘をつくけれど、音は嘘をつかないからなんだって」

 星はとっても透明な光だから、嘘が怖いの。触れたら最後、嘘の結晶が絡みついて水になってしまうから。
 満天の星空も素敵だけど、ぎゅうぎゅうに詰まっていると、新しい星が入ってこれないでしょう?だから星守は音を使って星を動かすの。

「それで?」
「うん。音は嘘をつかないから、だからたぶん、千早ちゃんはこの仕事をしてたら、きっと眠れると思うよ」

 自分でも何を言っているのかよく分からないけれど、私の言葉に千早ちゃんは「そう」と淡白な言葉を返した。
 淡白だけど、なんとなく分かる。その声は、すこし嬉しくてちょっと寂しくて、だけど否定するつもりはないっていう意味だってこと。

「それでね、千早ちゃん」
「早くしないと、星が風に流されてしまうわよ」
「分かってるよう」

 心無い催促に拗ねてみると、千早ちゃんは何故か嬉しそうに笑った。
 千早ちゃんは、まるで川底に沈む蛍石みたいだ。じいっと見つめていないと、見つけられない。
 それはきっと、千早ちゃんがずっと、暗いけど澄み切った水の底で身体を休めていたからなんだ。なんて、そんなことを思った。
 私は千早ちゃんが星守になった本当の理由なんてわからないけれど、たぶんそれは彼女の声の中にひっそりと隠れているんだろう。

「そのお姉さんに教えてもらった歌があってね」
「シヴェリウス?それとも、ストラヴィンスキーかしら?」
「ああ、そんな大した歌じゃないよ」

 子守唄なんだって。そう続けると、千早ちゃんは「こもりうた」とまるで遠い異国の言葉のようにその五音を呟いた。
 私は星吹きパイプの胴についた四つ目のボタンを押し、先生に教えてもらったようにこれまたゆっくりと空気袋を押した。

 夜空にまっすぐなドの光が舞い上がる。

 何度も聞いたその音をしっかりと心で受け止めて、私は星吹きパイプに続けるように声を出した。


 
 別に星達が動いてくれなくたっていいの。星もあなたの声を知らない子ばかりなんだから。
 あなたの声はきっと誰かに届くわ。だって、人の数なんて星の数に比べれば些細なものだもの。
 だから、星のことが好きなら、その気持ちをそのまま音で伝えればいい。
 ずっと夜空を眺めていれば、きっといつか、あなたの声に動いてくれる星を見つけられると信じて。

 星に、願いを。



 歌に対しては人一倍厳しい千早ちゃんは、うっとりと穏やかな表情で私の歌を聞いている。
 別にそんな上手いわけじゃないんだけどな、分かっているけれど、その彼女の顔が嬉しくて、私は歌を続ける。
 そういえば、この歌を歌ったのはいつぶりだろう。とても懐かしくて、なぜだか少し切なくなった。
 一つフレーズを紡いでゆくたびに、こっちだよこっちだよってメロディが私の手を引いてくれているような気がする。

 ひらり、ネグリジェが夜風にたなびく。
 風に揺れる白のドレープは海の凪を思わせ、その生地に宵の紫がうっすらと染み込んでいった。
 仰ぐ空に月はなく、ただ煌々と星が輝いている。

 水面に滑る風は剥き出しの肌には少し寒いものだったけれど、
 それは、とてもやさしいものだった。


「春香」

 最後の声を丁寧に空に溶かし、ゆっくりと息を吐いた頃、千早ちゃんは私の名前を呼んだ。
 なんだろうと思って千早ちゃんの方を見ると、彼女は私の後ろの方へ指を指して、こう言った。

「星、流れてたわよ」

 星が流れる。それはずっと私が願ってやまなかった言葉の一つで、ずっと見たことのなかった瞬間の一つ。
 あまりにも突然に知らされた事実に、私はよくわからない何かに背中を押されたように後ろを振り返った。


14730171_big_p7.jpg


 だけど、私が見たのは、いつも見ていた、あのいつもの星空だった。

 私が気付くのが遅かったからなのかもしれない。もしかすると、千早ちゃんの気の効かせた冗談だったのかもしれない。
 彼女が冗談を言うなんて、私の歌で星が流れるのと同じ位に有り得ないから、きっと私の見えないところで星が動いたのだろう。
 都合のいい考えかもしれないけれど、そう思うことにした。
 たぶんいつか、きっとまた、私の目の前に姿を見せてくれるだろうから。



「それにしても。見たかったなぁ、初めての流れ星」
「そんなに大切に思ってるなら、きちんと準備しておかないとね」

 準備っていったい何の準備をしたらいいのか分からないよ。
 千早ちゃんの相変わらず蛍石な言葉に閉口した私は、遊園地のピエロが持つ風船みたいに束ねられた星糸の端に手を伸ばした。
 伸ばすといっても触るわけじゃなくて、今日も一日おつかれさまー、みたいな、挨拶じみた習慣のようなものだ。
 ひょうひょうと子供みたいに腕を動かしていると、千早ちゃんに手を握られた。
 あんまり動きすぎると星が逃げてしまうわとか、そんなことを言われるのかと思って彼女の目を見ると、
 「少しの間、瞳を閉じてもらえる?」と言われ、言われるがままに私は瞳を伏せた。
 
 どうしたんだろうと思いながらも瞳を閉じていると、不意にあたたかくてやわらかい何かがまぶたの上に落ちる。
 それが彼女の唇だと気付いたのはそれから少しした後で、目を開けた私の前に広がっていたのは、千早ちゃんと、たくさんの星。
 突然のことに目をぱちくりさせていると、千早ちゃんは困った顔をして私にこう言った。


「星の糸が、まつ毛に引っかっかってたわ」


 それはとても、やさしくてあたたかいものだった。






 <了>



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