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みきゆきSS書きました

2011年01月02日 00:56

お久し振りです。小六です。
みきゆきです。以前某方に頂きました習作をもとに書かせて頂きました。
性描写を含みますので、ご覧になる際はご注意下さい。

以下、SSとなります。




 空調の効きすぎた室内。乾燥した喉を唾で潤すと、ぬるり血の匂いが口内に拡がった。
 行為に焼けた喉は乾いた外気に晒され、爛れた痛みを訴える。
 眠りに堕ちる前に保湿機を入れ忘れたことを思い出した。過ぎたことを後悔しながら、緩慢な動作で身体を起こす。

「みず、ほしいの」

 枕元から聞こえるかすれた声。剥げたメッキから姿を露わす魔性。世界を多重にぶれさせる喉歌。
 二日酔いのような頭痛を覚える。どうしてそんなことをしなければならないのか。我侭なのはどちらなのか。
 不快感をそのまま視線に投げかける。彼女は愉快そうに頬を歪め、私の指を喰んだ。
 それは赤子の甘えのようにも、娼婦の誘惑のようにも見えた。水気を失いざらついた舌が、指に絡みつく。
 肩口にこぼれる髪は密やかに金の光をまとい、彼女の乳房を覆っている。私は指を彼女の喉奥へえぐり込ませた。
 咽頭に指先が当たり、彼女は咳き込む。その唾はいやらしく飛沫となって私の太股に散らされる。
  
 シーツの上でえづく姿を背に、私はベッドから立ち上がった。そこに劣情も憐憫も感じない。
 相手を思い遣るような季節など、とうの昔に過ぎ去っている。乾いた熱風が、私の身体をゆるやかに撫ぜた。




        コインランドリー・インタコース




「それでね、何て言ったと思う?」
「『大好きだよ』それか」 私は伝票に書かれた単語を見て自嘲気味に呟いた。「『とてもきれい』?」
「あはは、雪歩らしいね」

 そういうところ、嫌いじゃないよ。注文していたであろうパフェを頬張りながら、美希ちゃんは饒舌に話を続ける。
 最近起こった他愛もない出来事の話、事務所の中の下世話な話、痴話話、その他諸々。今日がたまたま機嫌が良かっただけかもしれないけれど。
 以前ここに訪れたとき、夜に甘いものを食べていいのだろうかと尋ねたことがある。まだ遊びにも慣れていない頃だ。
 ベッドの隅で身体を縮込めていた私を余所目に、彼女は何のてらいもなくパフェを頼み、美味しそうにそれを食べていた。

「温かいものだと、冷めちゃうでしょ?」

 だからもとから冷たいものを食べるの。スプーンを咥えながら吐かれた言葉は、まるで此処が彼女の部屋であるかのように聞こえた。
 まぁここがどこであろうと私にとっては大したことではないし、彼女が本当のところどう考えているかなんて私の知るところではない。
 テーブルの上に見せつけるように置かれた紙ビラには、行為を甘ったるく描いた絵が四十八、ところせましと並んでいた。
 よくもここまで獣の欲を可愛らしく描けるものだと、呆れを通り越してため息が出てしまう。

「雪歩はこういうの、好きじゃないの?」

 私の横顔を一瞥した美希ちゃんは、断りも入れずひょいと紙ビラを私の手から取って目を通した。

「ちょっと恥ずかしいかな」
「またまたぁ」

 茶化す彼女は指で絵をなぞりながら昆虫標本のようにそれを眺める。ゆるゆると私の身体をなぞっていたあの指つきで。
 指を見れば顔など見なくてもよくなったのはいつの頃だっただろうか。その動きだけで、淫らな白昼夢がフラッシュバックする。
 現在進行形の情事に顔は要らない。蕩けるような熱と、はばからぬ嬌声。あとは厭やらしい水音だけあればいい。  

 彼女は私の首筋に鼻梁を埋め、脂の回った舌で私の鎖骨を舐めた。ぞわり、骨を伝って脊髄に微かな痺れが走る。
 私は彼女の太股に手を這わせ、脱色されていない毛に指を絡めた。縮れたそれは鋼綿の先で指の奥の神経を苛む。
 込み上げる快楽は肺に充満し、甘い呻きが口から漏れる。いや、だめ、説得力の微塵も見つけられない彼女の声。

 目の前の少女と目が逢う。その瞳は奇妙な色をたたえていた。意固地なブルーと従順なクリムゾンが大理石に染み込んでいるような。
 混ざることのない二色は、ぐるりぐるりと螺旋を縁取り、思考を乱れさせる。いつの間にか美希ちゃんの手は私の乳房に置かれていた。

「ハニーはこうするの、好きだよ」

 強く胸を鷲掴みにされる。快楽よりも痛みが上回るその刺激に、思わず苦悶の声を漏らす。
 その声に満足したのか、彼女は嗜虐的に目を細め、その恥知らずな生脚をあけすけもなくひらげ、私の肩に踵を置いた。
 座り心地の悪いカウチは骨が擦れるような音を立てて軋む。性が繁りに絡み、濡れた皮の生臭さを伴って匂い立つ。魔性が笑う。

「ねぇ、もう一回しようよ」

 是非もない。私は彼女の口腔に深く口付けた後、カウチから腰を上げた。
 いくら華美に飾ったとしても、結局はただの時間潰し。何もしないよりはほんの少し退屈でないだけ。
 その身体だけが目当てなのだ。そもそもこの場所はそれだけのために造られた場所なのだから。 
 そして、この行為は、心の何処かに散らかされた欲望の芥を、屑かごに捨てる掃除に過ぎないのだから。

 一輪の純情など、ドライヤーの電熱線に焼かれ、とうの昔に枯れ落ちてしまっている。
 そこにあるのは、まだ燃え尽きることのない、炭のように燻る赤黒い感情なのだ。
 それすらもきっと、いつかは灰となる。
 
 どうしてこんなことばかり考えてしまうのだろう。腰に回した手をそのまま下へ伸ばし、産毛を梳かすように臀部を撫ぜる。
 固さを感じさせないしなかな肉付きは、何度触っても心地よい質感だった。それが嬉しくて私は指でその輪郭をなぞる。
 白露を追うように魚を渓谷に泳がせてゆくと、意識もしていないのに山の窪みへ辿り着いた。カモシカのすすり泣く声が聞こえる。

 焦燥であぶり出した記号はただの記号だった。部屋の照明を消す。もう片方の手で彼女の土踏まずを舐めるように触った。
 脆弱な筋肉の形作る窪みはやわらかく、静脈の膨らみを爪で押し込んでみると、身体から吐き出される毒が青く浮き出る。
 まるで腫瘍を食べているみたい。一人ごちて私はそっと爪を離し、彼女の足を愛でるように口付けた。

 窮屈な靴を履いて歪に縮こまった足の指は、酸素に餓えた魚のようにひくつく。恥丘を覆うそれに似た膨らみへ、私は舌を沿わせる。
 にわかに崩れ出した呼吸のまま、彼女は私の耳に囁いた。
 
「こういうのが、ヘンタイさんなんでしょ?」

 肯くと、美希ちゃんは首に回していた腕で私を引き寄せ深く接吻を交わしてくれた。
 とても嬉しかった。そこに愛などないけれど。そう言い聞かせて私は舌をさらに奥へ進める。おぼつかない吐息は首筋を粟立たせた。
 肩に載せられていた足が徐々にずれ落ち、沿わせたままだった指が彼女の陰部へ潜り込んでゆく。

 呼吸を堪えきれなくなったのか、彼女は強引に絡まる舌を引き離した。唇からは、唾液がまとわりついている。そのまま指を蠢かした。
 硝子の飴細工を擦り合わせたような声。性の快楽をひたすら乞い願う、いつ聴いても不快感しか催さないあの音が、鏡に反射する。
 獣のように光の染みが神経の裏にかじりついてくる。目が眩んでしまうそうなくらい、白く虹色に彼女の声は私の耳を突き刺した。
 
 一際鮮やかな声を出し、彼女は意識を手放す。

 息を切らして私に身体を預けてくるその肌は、べったりと濡れていていた。口元から垂れる唾液を含んでみると、甘い味がした。
 背中の窪みに指を沿わせると、蛙の実験のように彼女の身体は痙攣した。食塩水に触れた銅線が、あぶくのように溶けていく。
 ピンクのシャンパンのような幻はもう消えてしまった。今はただ、ぶよぶよとした何かに密着されているような感覚しか覚えない。
 時折聞こえる美希ちゃんのうわ言に相槌を返しながら、これとよく似た感覚を記憶から引きずり出してみる。
 
 そうだ。これは洗い物を取り出した後の、洗濯層の残り水だ。
 ぬるぬると肌の上を覆うそれを親指の付け根でぬぐい取った。あの何とも言い様のない、限りなく無感覚な不快感。
 手に鼻を寄せて嗅いでみると、唾の臭いがした。あの饐えた臭いに半歩踏み込んだような、四親等ほど似通った感じ。

「美希ちゃん」
「なに」
「もう、終わりにしたいな」

 憂鬱が心に充満して、何も考えずに眠りたくなった。私の言葉を聞いた美希ちゃんは、不満そうな声を洩らしている。
 一体私は何がしたいんだろう。何もしたくないのだろうか。預けていた身体を彼女は気だるげに離し、名残惜しそうに私の身体をなじった。
 乱れた髪をそのままに、彼女は私の乳房を舐め、腰をいやらしくなぞり、その整った顔を下へ下へ動かしていく。
 行き着くところまで行き着いた後、美希ちゃんは私の内腿を食み、ちらりと私の方を見て尋ねる。

「こういうとき、なんて言えばいいかな」
「『大好きだよ』それか」 嗚呼、なんて徒な言葉だろう。「『とてもきれい』」

 くたびれたシーツの上。彼女は諦めたように笑い、「大好きだよ、雪歩」と指を絡めた。





 <了>



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