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りつはるSS書きました

2011年04月17日 03:07

お久し振りです。小六です。
アレですね。短くてもヘタクソでもお話を書ききることは大切ですね。
GSのメガネ男子くんと、リボンが素敵な女の子とのお話。

以下、SSとなります。


 二十年来に訪れた校舎は、迷子になりそうなほど新しくなっていた。
 頬を秋風が吹きぬける。酒が少し回っているのか、僕の先にいる彼女は足つきおぼろに屋上を歩く。

「気をつけて」
「わかってるよぅ」

 同窓会の便りが着たのは一ヶ月ほど前の話だ。おざなりな言葉を返し、彼女はふらり再び屋上の風と戯れ始める。
 制服とリボンがとびきり似合っていた彼女は、今ではもう普通の一児の母親だ。
 そして僕も、スーツであの頃の将来を型抜きされた、普通の男になった。

 時の速さが日に日に増していくぞ。社会人になりたての頃、そう上司に茶化されたことを思い出す。
 一日一日、過ぎてゆく日を大切に過ごしていたはずなんだけどなぁ。そんな思いに胸が詰まる。
 温くなった缶コーヒーを一本開けて彼女の元へ近づいた。

「律くんは何してるの?」
「缶コーヒー飲んでる」
「そういう意味じゃなくて」

 屋上から見える景色を眺めながら彼女は悪態をつく。
 自分の下の名前を呼ばれるなんて、久し振りだ。くすぐったい感覚に僕は笑った。
 
「普通にサラリーマンしてるよ」
「天体とかのお仕事じゃなくて?」
「星は好きだけど」すするコーヒーの苦味が口に広がる。「もっと星に好かれるヤツがいたから」

 甘い葡萄をすっぱくする方法ばかりを覚えて、気づけばいい年になってしまった。
 見上げる星空はネオンのもやに覆われてしまって、今はもう数えるだけの星しか見えない。
 夜の校舎。下の階からは蛍光灯の光が漏れていて、昔の友人達の声が聞こえていた。
 
「僕達の宇宙はものすごいスピードで飛んでいってしまったんだ」
「つかまえることすらできない速さで」
「そう。光よりも速く」

 時の速さすら超えてしまうスピードで、あの頃の星空は飛んでいってしまったんだ。
 夜の屋上と、天体望遠鏡と、制服から覗くやわらかな肌の影。僕が追いかけて追いきれなかったもの。


 わたし、アイドルになったんだ。

 嬉しそうに語っていた彼女の姿。底の小石まで見えてしまいそうな、そんな透明な天の川を背に。
 今ゆるやかに風を流れるのは、彼女の化粧の匂い。色もなく、ただひそやかに心へ染み込んでゆく香り。
 彼女の耳元には、年相応に控え目なピアスが揺れていた。そんな気は枯れているはずなのに、高鳴る胸がくやしい。
 しゅわしゅわと泡立つ想いをコーヒーで飲み下し、僕は光にぼらける街並を眺めた。

「やっぱり律くんは律くんだね」
「そうかな」
「初めて会った頃から、全然変わってないや」
 
 コートを羽織らぬこの身には、秋の夜は少し肌寒かい。冷たくなった両手を無造作にポケットに突っ込む。
 そんな僕を彼女は愛おしそうに瞳の中へ映す。そう、初めて二人で星を見たときもこんな感じだった。
 粗大ゴミとして捨ててしまった望遠鏡。あの頃みたいに昴が見える丘まで走っていく気力も、今はもうない。
 屋上から見下ろす校庭のグラウンドが、思いのほか小さくなってしまったことに気付く。

「物知りで、大人で、将来がしっかり見えていて」
「そんなことないよ」
「律くんは、大人になったらゼッタイ天文学者になるんだろうなぁって」
「今はしがないサラリーマンだけどね」
「でも、律くんは律くんだよ。今でも」

 無防備すぎる憧憬が僕に向けられる。その言葉の一音一音が、僕の胸の内をやさしく突き刺してゆく。
 それがあまりにもやさしいものだから、とても痛くて苦しくて。僕は彼女の瞳から目を逸らした。
 街のどこかで車のイグニッションが唸り、そしてまたどこか遠いところへ過ぎ去っていった。

 彼女の瞳に映っているのは、きっと今の僕ではなく、彼女が昔見ていた僕の姿なのだろう。
 そして僕も、目の前にいる彼女越しに、あの頃の彼女の姿を重ねて見ているのだろう。
 二十数年来に会った彼女は、僕が知っていたスタイルのままとはお世辞にも言えないものだった。
 顎の付け根に贅肉がたるみ、ヒップラインはオバチャンのそれだし、下がる目尻にかすれた皺が垣間見えた。

 地元ではちょっとした有名人で、ファンクラブまであって、一時でも世間を魅了した女の子。
 その子と目の前の彼女が同じであるという事実は、ここが昔とは別のブレーン上の出来事であるように感じさせた。
 でも、僕に向けられる仕草や言葉は、昔も今も、僕が知っている彼女のものだった。

「実を言うとね、ずっと好きだった」
「過去形なの?」
「現在形じゃ、色々とマズイだろ」

 にへっとおどけてみると、「たしかにそうだね」と彼女は笑った。
 あの頃の初恋なんて、今じゃとっくに時効を迎えている。僕がそう告げたところで何も変わることはない。
 ただ、ちょっと、ほろ酔い気分に任せて伝えたくなっただけだ。
 
「いつ頃から好きだったの?」
「入学式のとき、初めて顔を合わせてから」
「一目惚れだったんだ」

 さすがにそれを肯定するのは面子みたいなものが邪魔をして。僕は回答を夜空へ放り投げた。
 今更ながら何だか気恥ずかしくなってきて、ああもうなんだ、顔が真っ赤になる。いい大人のクセして情けない。
 彼女の可愛らしい追及に無愛想な返事をすること数回。屋上の扉から昔の友人が僕ら二人に声をかけた。

「いい雰囲気なところ悪いんだけど、そろそろお開きにしようぜ」
「分かった。すぐ戻る」

 そう伝えると友人は足早に屋上を後にした。鉄扉が軋み、屋上は再び静かになる。
 飲み干してしまった缶コーヒーをゆるゆる揺らし、僕は家族に帰宅の途を電話する。
 僕が今住んでいる場所の方角を眺めながら、愛すべき家族の声を確かめた。明日は息子の試合の日だ。
 あれだけ練習したんだから、勝ってほしいな。そう願いながら携帯を切ると、不意に彼女が僕の背中を抱き締めた。
 
「どうしたの?」
「んー。ちょっと寒かったから」

 もぞもぞとジャケットに顔を埋めて彼女は言葉を濁らせる。
 僕も僕で、彼女にその理由を尋ねるのは止めにした。
 世の中には聞いちゃいけないことと、聞いても意味がないことがある。

「そっか」 

 だから僕は、ゆっくりとそう答えた。





 <了>



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