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はるちはSS書きました

2011年05月28日 23:37

お久し振りです。小六です。
最近アイマス2を買いました。はるかさんかわいいです。
というわけで、はるちはSS書きました。やまなしおちなしいみなし。

以下、SSとなります。




 収録用のブース。度重なるミステイク。硝子越しに見える彼女は譜面台を睨みつけている。
 ぼろぼろと、涙を隠さずに。赤くなった目に浮かぶそれを、春香はジャージの袖で乱暴に拭った。
 おねがいしまーす!と笑顔で挨拶をしてから、どれくらい経っただろう。鼻をすする音がマイクを通して聞こえてきた。

「もう一度、お願いします」

 嗚咽まじりの声にいつもの明るさはない。ぐらぐらと不安定な喉元から出てくるのは、くすんだ鈍い声だった。
 正直なところ、ひどく困っていた。こんなに頑固で諦めの悪い彼女を見るのは、初めてだったから。
 周りにいたスタッフ達はどうしたものかと頭を抱え、タイムスケジュールに赤をつけている。
 春香にだって分かっているはずだ。これは単なる子供の我儘で、プロのこだわりとは到底言えない。
 それでも彼女はマイクから離れようとしなかった。手に持った紙コップをぐしゃりと潰す。

「そんな歌なら」 気付いたら、だった。「もう止めた方がいいわ」

 焦燥と煙草の煙がこもった部屋の中、息苦しさから逃れるように私は声を絞り出していた。
 驚いた顔で私を見るスタッフの人達の目。何十回と流れていた曲がフェードアウトした。
 音が聞こえなくなったからか、春香はヘッドフォンを外してこちらを見る。悔しさで濡れた瞳。
 春香と目が逢う。まだ頑張れるよ。まだ大丈夫だよ。だから止めないで。そう言いたげに。 

 分かっている。これは単なる身勝手な同情で、彼女のプライドをひどく傷付けることだ。
 ばつの悪さに目を逸らしたくなった。だけど私は小さく首を横に振る。それは私のプライドでもあるから。

「……すみません」

 スピーカーから聞こえる春香の声。湿っぽい感情が、今にも零れ出してしまいそうだった。
 収録室から出た彼女はスタッフ達にぎこちなく頭を下げ、私とプロデューサーに薄っぺらい笑顔を浮かべた。
 ごめんね。聞き取れるか聞き取れないかの呟きを残し、春香は扉を開けて外へ出ていった。

 油圧ジャッキの壊れた扉は無造作に閉められ大きな音を鳴らす。
 やけに部屋の中に響いた音に、目頭がきゅっと強張った。



          ブルーモーメント

 


 自動販売機から転がり落ちた缶ジュースを手に取り、私はぼんやりと考える。
 私は春香を傷付けたのだろう。だけど、それならばどう言えばよかったのだろうか。
 楽屋の扉を叩く。鍵は開いていた。だけど開けることはできなかった。
 
「冷たい人間だって、思っているんでしょう?」

 扉の向こうから春香の嗚咽が聞こえる。泣くもんか。と自分に言い聞かせるように、彼女は喉を震わせていた。
 ひたむきに前進すること。それはきっと、彼女のプライドなのだ。ドアノブはひんやりと重く、私の手に張り付いている。
 用のなさない鍵穴を指先で触れては離し、また触れては離す。居心地の悪い沈黙だけが廊下の上を滑っていく。
 春香からの返事はない。扉に額を寄せて、私は言葉を続ける。

「自分でもそう思うわ」

 たとえば、メシアンが描くセリエの筆遣いや、リストが夢見た欲望の絢爛。
 歌い手としてあるべき理想像や、それに近付くための方法論や感情のコントロール。
 それはそれで嫌いではなかったし、知れば知るほど自分が成長している気がして、正直に言えば楽しかった。
 だけど、集めた言葉の数々は、積み上げれば積み上げるほど冷えて、気付けば氷になってしまって。

 もし私が春香なら、春香が私なら、どんな言葉をかけたのだろう?
 私は瞳を閉じて、鈍色のため息を吐いた。


  ※ ※ ※ ※

 
 どうしてこんなふうにしか気持ちを伝えられないんだろう。みんなを困らせることくらい分かってるのに。
 ぎゅっと膝を抱え、畳の目を数えた。いつかこぼしたジュースのあとが、茶色い染みとなって残っている。
 分かってるんだ。上手く歌えないのは誰のせいでもなくて、私が悪いってことくらい。練習不足なんだってことくらい。
 私だって私なりに頑張ってるんだよ。千早ちゃんからみたら頑張っていないように見えるのかもしれないけど。

 千早ちゃんが私を呼ぶ。私は答えない。千早ちゃんは言葉を続ける。
 分かってよ、それくらい。私に言わせないでよ。千早ちゃんの弱気な言葉が余計に私を意固地にさせる。
 窓から見える景色は、なぐさめ程度に小さくて。こんなもやもや笑い飛ばしてやるんだって思ってみたけど、できなかった。
 ごろんと身体を床に転がす。普段とは90度傾いた世界。だるまみたいに不機嫌な顔をして私は鼻をすすった。

「もう、帰ってよ」 千早ちゃんにはこんな私を見せたくなかった。「すぐに戻るから」

 じれったい沈黙が抱えた身体をむずむずさせる。まぶたを閉じて、ドアの向こうの様子に耳をすませた。
 廊下からは聞こえるのはスタッフさんの声ばかり。ラジオもないこの部屋はしゅんと黙り込んだままだ。
 千早ちゃんはもう帰っちゃったかな。そう考えたら涙がじわりと滲んできた。こうなることくらい分かってたはずなのに。

「ねぇ、はるか」

 ぐずぐずとへしゃげる気持ちに歯噛みしていると、ドアの向こうで千早ちゃんの声が聞こえた。
 千早ちゃんのバカ。私はもっと馬鹿。あまのじゃく、甘えん坊、そんなのだから失敗ばかりなんだよ。
 ひねくれものの赤鬼を追い出そうと、たくさん石つぶてを投げつけてみた。だけど、涙は止まらなかった。

「虹があがってるの」

 千早ちゃんの口調は妙にぎこちない。「そっちからは見えないかしら」と遠い声で囁かれた。
 窓の外を見ると、染め立ての藍色がビルの上を覆っていた。うわの空に浮かんだ、金色の夕陽。
 
「見えないよ」
「とても、きれいなのよ」

 千早ちゃんはおぼつかない調子で外の様子を話し始めた。初見の曲の譜読みをするように、丁寧でゆっくりと。
 ホント、馬鹿なんだから。不意に飛び出たしゃっくりが思った以上に大きく響く。千早ちゃんの笑い声が聞こえた。
 へへ、と私も笑う。数えきれないくらいについた壁の傷が、涙に溶けて白くなる。窓の四角が滲んで揺れていた。

「見えないから、分からないよ」
「部屋から出てきたらいいじゃない」
「えー。いやだよー」

 だから教えて?千早ちゃんの言葉で。そうねだってみたら、困ったようなため息が聞こえた。
 もう一度窓から見える景色を眺めて、千早ちゃんの言葉を待つ。思い出したように身体が痙攣して、少し閉口する。
 もやもやが雨になって、さらさらとアスファルトに落ちてゆく。濡れた道路と透明な空気。私はゆっくり息を吸った。
 
「こういうの、苦手だって知ってるでしょう?」
「うん、知ってる」

 ドアの向こうがにわかに騒がしくなる。立ちぼうけの千早ちゃんを見たスタッフさんが千早ちゃんに声をかける。
 ああ、これじゃ完全に千早ちゃんが悪者になっちゃうよ。だけど、千早ちゃんは何故か嬉しそうな様子だった。
 もうちょっと独りでセンチメンタルな気持ちに浸っていたかったのに。調子狂っちゃうなぁ、ほんと。
 膝を抱えた右腕が痺れを訴えていた。嫌なら帰っちゃえばいいのに。くすぐったい感覚に、自然と口元が緩む。

「千早ちゃん」
「なぁに」

 私はゆっくりと身体を起こした。畳に押し付けた頬はじんわり赤く痺れていて、少し、湿っていた。
 90度、もとに戻る世界。急に身体を起こしたからか、軽いめまいを覚える。ごしごしと涙のあとをぬぐう。
 こんなことで機嫌が直っちゃうなんて、ちょっと都合よすぎないかなぁ私。だけどまぁ、それも私らしいかな。

 憂鬱な気持ちを追いだして、私はドアノブに手をかけた。
 さっきのもやもやがフラッシュバックして、涙ぐみそうになる。もうどうにでもなれ!私は扉を開く。
 扉の先には千早ちゃんが少し不安そうな顔をしていて、全然へっちゃらだよって伝えようと、強引に頬をつりあげた。

「やっぱり千早ちゃんの言葉、全然分かんないや」

 窓の先には、うすぼんやりと虹がかかっていた。






 <了>



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