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はるちはSS書きました

2011年12月05日 23:31

お久し振りです。小六です。本当にお久し振りです。
そんなわけで、はるちはSS書きました。やっぱり普段から書いてないと駄目ですね。

以下、SSとなります。







 春香の淹れる紅茶からは、心地よい匂いがした。千早はゆっくりと湯気を吸いこむ。
 何を入れたのかと、真面目な顔で千早は尋ねてみた。ただの紅茶だよ。春香は笑った。



       小春日和に居眠りを


「結構おいしいでしょ?」

 頷くと、春香は得意気に鼻をならした。千早ちゃんって砂糖入れなさそうだもんね。
 湯気に息を吹きかけながら、春香は紅茶をすする。暖房を入れたばかりの部屋は、どこかまだ肌寒い。
 紅茶は舌が焼けるくらいに熱かったが、冷えた身体には丁度良い熱さだった。身体が温もりを戻す頃には、話の種も尽きていた。

「変な感じだね」
「そうね」千早は口元を緩める

 私は嬉しいけどな。春香は千早の肩口に身体を預ける。
 腕にあたる肉付きはやわらかく、寝間着に覗く肌からは、微かに甘い匂いがした。
 千早は目を逸らす。家電は静かに震え、鈍い音に壁が痺れていた。
 
「ねぇ、ヘンなこと考えちゃった?」

 千早の耳朶に歯を寄せ、春香はそっと囁いた。千早の紅潮した横顔を眺めながら、春香は腕を絡ませる。
 直に触れた千早の腕は、想像以上に痩せていて、冷たい感じがした。コップに付いた湯気の滴が、すっと水面に流れていった。

「私は、考えたよ」 

 立ち上る湯気のその先を見つめながら、春香は苦笑いしながら話し始めた。
 
 千早ちゃんの横顔に見惚れちゃって、気付いたらぼーっと見つめてて
 千早ちゃんは怪訝そうに私を見て、困ったように笑うの
 そんな千早ちゃんを見て、やっぱり千早ちゃんは素敵だなぁって思って、「えへへ」って照れ笑いするの
 それからちょっと間があって、ぎこちなくてもどかしくてどうしようもなくて、私はきっと、千早ちゃんにキスをする
 千早ちゃんはそっと瞳を伏せて、私に合わせてくれるの。だけど、千早ちゃんはちゃっかり私の胸を触ってる

「私って、そんなに下心があるように見えるかしら」
「見えるよ。とーっても」

 千早の腕に胸を押し当てて、春香は意地悪く笑った。無防備な口元がひどく滑稽に思え、千早はくすりと肩を揺らす。
 強張っていた千早の身体が、わずかに柔らかくなった。千早の片腕は静かに持ち上がり、春香の腕を掴もうと手を伸ばす。

「千早ちゃん?」

 千早の動きは歯痒いくらいに鈍重だった。さながら、嗅覚を失くした蟻のようだった。春香は空いていた手で千早の手に触れた。
 春香の爪先が千早の手に当たると、千早は一瞬身体を震わせ、春香の手を強く握り締める。
 力は春香が思った以上に強く、手の甲に爪の痕がついてしまいそうだった。有無を言わさぬまま、千早は春香を抱き寄せる。

「春香」

 春香は自分の名が耳元で囁かれたのだと、はじめは理解できなかった。
 すがるように握り締められた手の痛みで、ようやく春香は自分が呼ばれているのだと理解した。
 首元に息がかかり、春香は調子外れの声を出す。千早の背に回そうとした手は宙に浮いたまま、不自然に静止していた。
 春香は千早の方を一瞥する。千早ちゃん。おそるおそる千早から身体を離すと、千早はおかしそうに目を細めた。

「このままキスをすればいいのかしら」
「いえとんでもございません」
「あなたが言い始めたんじゃない」

 本当、調子が狂ってしまうわ。困ったように笑う千早の姿を見て、春香は不満そうに口をすぼめる。
 お互い様だよ。春香が悪態をつくと、そうかもしれないわね、と千早は苦笑した。頑なな指先はいつの間にかほぐれていた。
 千早はおもむろに春香の手を取り、掌へ唇を寄せる。千早の所作を春香がじっと見つめていると、千早はやんわり微笑した。

 千早の瞳は、春香の見知った千早の瞳だった。夜の海を思わせるような、やさしいアールグレイの瞳だった。
 髪に移った紅茶の匂いが鼻腔をかすめる。淡い苦みが胸を突いて、春香は何故か泣いてしまいたい衝動にかられた。
 どうして泣きたくなったのか、春香には分からなかった。泣き顔を隠そうと、春香は顔を千早の肩口に埋める。
 千早は春香の背中に手を回し、春香の頭を撫ぜた。

「春香」
「うん」
「私、春香のことが好きよ」
「うん」

 千早が一つ撫ぜるたび、春香の嗚咽が軽くなっていった。
 春香の嗚咽が収まっても、千早の手の動きは止まらなかった。うなじに当たる小指がくすぐったくて、春香は千早を抓った。
 大丈夫だよ。春香がそう呟くと、千早は静かに口元を緩めた。また少し、涙がぶり返しそうになった。

「さっきの続き、教えてくれるかしら」
「きっと呆れちゃうよ?」
「呆れるくらいがいいの」

 千早はそっと目を伏せて、春香の言葉を待った。時計の秒針がたっぷり一回りした後、春香はゆっくり口を開いた。
 
 キスが終わったら、千早ちゃんが私の胸に触れたままこう言うの。「大好きよ、春香」
 その声があんまりにも優しいから、私は悔しくて千早ちゃんに抱き付くんだ。千早ちゃん、大好き。って。
 千早ちゃんが私に触ってくれるのが嬉しくて、回した腕をもっと強くして、千早ちゃんを抱きしめるの。
 「痛いわ、春香」 千早ちゃんはお得意の苦笑いで私を叱る。私はえへへとにやけてる。「変な春香」
 千早ちゃんが素敵すぎるのがいけないと思うんだ。「それはどうかしら」うん、こういうときでも千早ちゃんは空気を読まない。

「それから?」
「んーとね」 春香は千早に身体を預けた 「わかんない」
「本当に呆れちゃうわね」
「だって本当に分かんないんだもん」頬を膨らませ、春香は千早から顔を背ける。

 テーブルの紅茶はすっかりぬるくなっていた。春香の溢した涙は、千早の首筋に染み込んでいった。
 困ったわね。千早は微笑みを浮かべた後、春香の耳元でこそりと何か囁いた。
 春香はぽかんと口を開けていた。しばらくして、心臓が忘れ物を思い出したかのように春香の顔は真っ赤に染まった。
 春香の顔を見て千早は楽しそうに笑い、そんな千早の様子を見た春香は、傍にあったクッションを千早に放り投げた。

「千早ちゃんのむっつりスケベ」

 これからどうするつもり?春香が尋ねると、お気に召すまま、と千早は答えた。



 <了>



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