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はるちはSS書きました

2011年12月19日 21:13

お久し振りです。小六です。
そんなわけで、はるちはSSの習作となります。
文体を再構築していくって、大変ですね。

以下、SSとなります。



             緑の袖  





 月にかかる雲は厚く、雪は未だに降り続いていた。千早はヘッドフォンで耳を塞ぎ、窓の外を眺めている。
 いつの間にか習慣となった行為だった。街路樹にはイルミネーションが取りつけられ、光は夜の街に浮かんでは消えてゆく。
 深夜一時にもかかわらず、向かいのマンションは眠ろうとしない。カーテンから洩れる青白い光が、住人の影を映していた。
 
「千早ちゃん」

 背後から声が聞こえ、千早は振り返る。その先には、春香がいた。
 千早はヘッドフォンを外し、音楽を止めた。お風呂、ありがとう。春香は嬉しそうに礼を言い、勝手知ったる様子でキッチンへ向かう。

 事務所全員揃ってのパーティーだった。それは他愛もなかったけれども、時を忘れるほどに楽しいものだった。
 午後10時を回る頃、千早は春香に今夜の予定を尋ねた。もう帰れなくなる時間だ。皿を丁寧に洗いながら、春香は千早に応える。
 終電、間に合わないかな。春香は洗い終わった皿を千早に手渡した。春香の口調は落ち着いていた。皿を受け取った千早は、苦笑する。
 せめて御両親に連絡くらい入れなさい。千早がそう言うと、春香はにんまりと頷いた。 
 
「相変わらず、冷蔵庫からっぽだね」
「あんまり買いすぎても、上手く使いきれないのよ」
「それもそっか」冷蔵庫の鈍い稼働音が響く「千早ちゃんも何か飲む?」

 春香と同じものでいいわ。千早は取り出したCDを棚に戻し、テーブルの上に楽譜を広げる。
 楽譜を読み始めてしばらくすると、春香はテーブルの上に二人分のグラスを置いた。

「仕事で歌う曲?」
「ううん。個人的なもの」

 千早がちらりと部屋の隅に目を遣ったので、春香もつられてそちらを見た。
 視線の先の壁際には、スケッチブックと紙袋が置かれていた。千早はグラスを手に取り、軽く喉を潤す。
 スケッチブックの綴じ紐が、空調の風に揺れていた。頼りなげに揺れる紐の動きに、春香の表情は曇る。
 春香の様子を見て、千早は「ああ、ごめんなさい」と呟いた。千早は紙袋を手に取り、その中身を春香に見せる。

「最後に祝っておきたかったの」
「最後?」
「ええ。これが最初で、きっと最後」

 紙袋には、きれいにラッピングされた箱と、地味な紙輪が入っていた。
 雪は未だに降り続いていた。小雨のようにさらさらと、静かに窓辺を通り過ぎる。
 救急車のサイレンがどこか遠いところで聞こえて、またどこか遠くへ消えていった。
 
「静かだね」
「ええ、怖い位に」

 紙袋を写真立ての傍に置き、千早はテーブルに戻った。千早はペンをとり、楽譜に印を入れていく。
 春香は千早の隣に座り、千早の様子をぼんやりと見つめている。視線に気付いた千早は、ふっと顔を上げた。

「なに?」
「なんでもないよ」

 春香は頬杖をついて、千早に微笑する。緩みきった口元、まるで千早をからかうような口ぶりだった。
 特に意味はないらしい。千早はため息を吐き、視線を楽譜の方へ戻す。春香は舞台の台本の頁をめくっている。
 しばらくすると、同じ視線が千早の首筋を撫ぜた。再び春香の方を見ると、先程の微笑で、にこりとはぐらかされる。
 そんなやりとりを二人は繰り返した。幾度目かのやりとりの後、春香は大きくあくびを洩らし、床に寝転がった。

「千早ちゃん」
「なに」
「明日、晴れるといいね」

 春香は床に寝そべったまま、鞄の中から小さなプレゼントを取り出し、愛しそうにそれを眺めている。
 春香の視線の行く先を、千早は知っていた。千早は楽譜を閉じ、春香に返事をした。
 
「そうね」

 そうして千早は立ち上がり、空になったグラスに水を注ぎに向かった。




<了>



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