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はるちはSS書きました

2012年05月08日 01:22

お久し振りです。小六です。
そんなわけで、はるちはSS書きました。
やっぱりSSを書くのは楽しいですね。もくもく、もくもく。

以下、SSとなります。
 
 とても静かな夜だった。
 一人暮らしの身としては、こういう夜は何もかもがそぞろな気持ちになってしまう。
 テレビの笑い声よりも、冷蔵庫のうなりが大きく聞こえてしまう。蛍光灯のちらつきがグラスの氷にひびを入れる。
 部屋のものが冷たく押し黙っているような感覚。どうしようもなくて、私は窓の外を見つめた。
 開け放しの窓からは電車の音が聞こえ、旅客機の赤い光が雲の奥に吸い込まれていく。
 枕木の音が聞こえなくなった頃だろうか。ふとテーブルの上で携帯のランプが光っているのが分かった。春香からだった。
 
「もしもし?」
「ええと、千早ちゃん?」

 いつもと変わらない口調で、春香は私の名前を呼んだ。

「千早ちゃんは、もう帰ってる?」
「ええ。暇を持て余していたところ」
「そっか」

 千早ちゃんもヒマなこととかあるんだね。春香はおかしそうに笑った。
 私達は他愛ないことを話した。今日は温かいね、とか、明日は何時にくるの?とか。本当に、どうでもいいこと。
 だからなのだろうか、話す内容があまりにも他愛がなさすぎて、微かに違和感を覚えた。

「何かあったの?」
「ううん。何も」 春香は困ったように笑った 「怖いくらい、いつもどおり」
「そう」

 私が相槌を打ったきり、会話は途切れてしまった。沈黙と周りの音だけを電波に乗せて、私は彼女の言葉を待った。
 もとから私は話が上手い方ではないし、沈黙があまり苦にならない性格だ。春香もそれを知っている。
 春香が話して、私が受ける。それが自然となってしまったやりとりだった。

「ねぇ、千早ちゃん」
「なに?」
「千早ちゃんは、」 春香はそこで言葉を止めた。「ううん。なんでもない」

 自販機から缶が落ちる音がした。春香は外にいるのだろうか。いつもより遅めの足音が、アスファルトに反響する。
 夢遊病者のような足取りを、私は携帯越しに追いかける。若者らしくない声を出して、春香はどこかに座った。
 誘蛾灯が思い出したように火花を散らしていた。缶のプルタブが開く音。炭酸の泡の音が、夜風に溶けていった。
 その夜、春香から話しだすということはなかった。私がとりとめもないことを話し、春香がそれに返事をした。

「千早ちゃんがこんなにお喋りなの、久し振りだね」

 話の種があらかた尽きてきた頃、春香は私にそう言って笑った。
 切れのない言葉尻、たどたどしい話し方。酔っ払っているという風ではなく、何かを堪えているような話ぶりだった。
 時計を見ると、もういい時間だった。盛った野良猫の低い鳴き声が、電波を伝って聞こえる。

 春香が堪えているそれは、きっと私も知っているものだ。
 寂しさ、といえばそれまでだけど。私はそっと昔を思い返す。それは意外に辛いものだ。
 さっきまで足元にあったはずなのに、気付けば胸のあたりまで浸かりきってしまっていて、その冷たさに背筋が震える。
 そして身勝手に引いていった後には、膝の関節に冷たい砂を詰まらせる。身体が動かせなくなる。
 春香は今それを感じているのだろうか? 全ては想像の域にすぎないことだけれども。

「ねぇ、千早ちゃん」
「もう話せることなんてないわよ?」
「話題なんて、適当に作るもんだって」 なんてことはないと春香は続ける。「だから、ね?」

 私は微笑をこぼして、窓の外を眺める。高層マンションのさらに上、月は依然として夜に浮かんでいる。
 春香も同じ月を見ているのだろうか。見ているとすれば、どんな気持ちで見ているのだろうか。
 電話をしているのだから直接聞けばいいのだけど、聞く気にはなれなかった。
 何故かと問われれば、「それは夜だから」としか答えられない。私はもとから話が上手い方ではないのだ。
 夜風がカーテンを揺らす。ぽつりぽつりと消えていく光を眺めながら、私は春香に話し出した。

「月の兎が見る月は、どんな色をしているのかしら?」



 <了> 



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